J1連覇を狙うディフェンディングチャンピオンにとっては、ほろ苦い船出である。

 新たなシーズンの幕開けを告げるFUJI XEROX SUPER CUP。昨季J1王者の横浜F・マリノスは、同天皇杯王者のヴィッセル神戸と対戦し、3−3と点を取り合った末のPK戦で2−3と敗れた。


ゼロックス・スーパーカップではPK戦の末に敗れた横浜F・マリノス

 敗戦とはいっても、PK戦決着。試合は実質、引き分けである。それほど勝敗を気にする必要はないだろう。問題なのは、3−3というそのスコアだ。

 昨季終盤、怒涛の11戦無敗(10勝1分け)で15年ぶりの優勝をさらった横浜FMが、3失点以上を喫するのは、J1第17節のFC東京戦(2−4)以来のこと。無敗で駆け抜けたラスト11戦では、2失点が1試合あるだけで、残る10試合はすべて1失点以内に抑えているのだから、まさかの大量失点と言っていいだろう。

 徹底したポゼッションスタイルを追求し、自陣からパスをつないで攻撃を組み立てることを武器とするチームが、これだけ自陣でボールを奪われ、失点を重ねれば、先行きを不安視する声が上がるのも無理はない。

「(2失点した)前半は少しナーバスになった。パスを出すときに自信のないプレーが目立った」

 チームを率いるアンジェ・ポステコグルー監督がそう振り返ったように、横浜FMの選手たちは、互いの距離が近くなりすぎたり、パスのタイミングがわずかにズレたりと、なかなか本来のテンポでボールを動かすことができずにいた。

 右サイドバックの位置から自在にポジションを移し、積極的に攻撃の組み立てに加わったDF松原健は、「去年とはちょっと違った」と言い、こう語る。

「変に(前からプレスにくる)相手のプレッシャーを感じすぎた。ボランチやサイドバックが流動的になると、ボールが回りやすくなるが、前半はそれがうまくいかなかった。テンポが上がらず、1本のパスをきれいに通そうとしすぎた」

 その他にも、ボランチのMF扇原貴宏が、「いつもならしないようなミスがあった。ポジションニングの遅さや距離感の悪さ。そういうのがあると(テンポよくボールが)回らない」と言えば、センターバックのDF畠中槙之輔は、「チームとしておとなしすぎた。いつもなら前に(パスを)出すところを横に出したりしていた」。昨季終盤のような、いいイメージでプレーできていなかった様子を口にする選手は多かった。

 徹底してボールを保持するサッカーで、昨季J1を制した横浜FMに対し、この試合の神戸のように、対戦相手が高い位置からプレスを仕掛けてくることは、当然今後の戦いのなかでも予想される。それを考えれば、横浜FMが喫した3失点は、連覇への不安を露呈したようにも見える。

 とはいえ、だ。試合は90分間トータルで競われるものである。

 後半の横浜FMは、パスをつないで神戸のプレスを際どくかわし、敵陣にボールを運ぶシーンを増やした。後半のシュート数は神戸の3本に対し、横浜FMは11本。試合終盤には、再三の決定機を作り出した。

「前半は連係のところでF・マリノスのサッカーができなかった部分があったが、後半は連係が見えた」とは、MFマルコス・ジュニオールの弁だ。ポステコグルー監督もまた、「後半はよかった。本来の我々のサッカーを見せることができた」と語る。

 横浜FMのようなスタイルに対し、前線からのプレッシングが有効なのは間違いない。だが、それを90分間続けるのは、体力的に考えると極めて難しい。

 横浜FMは、相手がプレスにきたからといって、安易にロングボールで逃げるのではなく、あくまでも自分たちのスタイルにこだわり続けたからこそ、相手の体力を奪い、試合終盤には完全に主導権を握れたとも言える。

 加えて、まだシーズン最初の公式戦である。ポステコグルー監督曰く、「前半は簡単なミスパスが多く、ゲームをコントロールできなかった」のは確かだが、あらゆる面でのコンディションが上昇途上。しかも、その初期段階にある現状で、すべてがうまくいくはずがない。このくらいのミスがあって当然だろう。指揮官が「個人のミスは心配していない」とも語るとおりだ。

 むしろ後半、DF伊藤槙人、MF和田拓也、FWエジガル・ジュニオら、控え選手を交代出場させながら、一段階ギアアップしたかのような戦いができたことは、AFCチャンピオンズリーグとの両立が課せられている横浜FMにとっては、収穫になったはずである。

 和田は、「(試合終盤は)ボールを持って押し込めた。チャンスもあったので、90分で勝ち切らなければいけなかった」と悔やみつつも、「(自分が出場したのは)相手が体力的に落ちた時間帯だったので、最初から出ていたらどうだったかはわからないが、普通にやれたと思う」と手ごたえを口にする。

 昨季終盤、対戦相手が舌を巻くような強さを見せつけたことを考えれば、あまりに物足りない試合だったのは間違いない。自陣であっさりとボールを失い、失点を重ねる様は目を疑うような光景ではあった。

 だが、ポステコグルー監督の言葉を借りれば、「人間はミスをする。完璧はありえない」。

 やらずもがなの失点で3度のリードを許しながら、3度とも追いつくあたりはさすがの強さ。90分間全体を通してみれば、F・マリノスらしさの軸はブレていなかった。新シーズン初戦としては、それほど悪い試合ではなかったように思う。