9人連続失敗というジョークのような流れのなか、ヴィッセル神戸の7人目のキッカー山口蛍は事もなげにボールを蹴り込んだ。

 新シーズンの幕開けを告げるFUJI XEROX SUPER CUPは、攻撃的なチーム同士の対戦とあって激しい打ち合いとなった。


PK戦を制して今季1冠目を獲得したヴィッセル神戸

 お互いに3点ずつを奪い合い、90分間では決着がつかず、勝負はPK戦に突入。これをモノにした神戸が勝利を収め(なんと7人ずつが蹴ってPK3−2と、90分の試合よりもロースコアだった!)、この大会の初優勝を飾っている。

 リーグ王者の横浜F・マリノスと対戦した天皇杯覇者の神戸は、元日の決勝戦のスタメン9人が先発に名を連ねた。毎年のように大型補強でストーブリーグを賑わせてきたが、今オフは不気味なほどに静かだった。

 ダビド・ビジャ(引退)、ルーカス・ポドルスキ(アンタルヤスポル)と2枚看板が抜けた一方で、攻撃面での即戦力は清水エスパルスから引き抜いたドウグラスのみ。初のリーグ優勝を目指し、初めてACLに参戦するチームとしてはやや心もとない補強策と思える。


 だが、それゆえにこの新戦力にかかる期待は大きい。ドウグラスがいかに融合できるかが、神戸にとっての重要なテーマだっただろう。

 結論から言えば、このブラジル人ストライカーは及第点以上のパフォーマンスを示した。27分、アンドレス・イニエスタのマジックのようなスルーパスに反応し、得意の左足で先制ゴールを奪ったのだ。

 J1通算46得点を記録する決定力だけでなく、身体の強さを生かしたポストワークや、昨季の神戸にはなかった高さをもたらし、攻撃のバリエーションの増加に期待が持てる出来だった。前線でコンビを組んだ古橋亨梧が「ゴール前での強さがある」と言えば、酒井高徳も「裏に抜ける動きも得意だと思うので、チームとして生かしていきたい」と、この新たなエース候補に期待を寄せている。

 新戦力が示した可能性だけではない。イニエスタは変わらず高品質のパフォーマンスを約束し、最終ラインに君臨するトーマス・フェルマーレンの安定感も際立った。


 また、左サイドで強さを見せた酒井、縦横無尽に走って中盤を活性化させて自らもゴールを奪った山口と、各ポジションに軸となる選手も備わっている。今季の優勝候補に挙げられるチームであることは間違いないだろう。

 戦術的にも明確だった。第一にあるのはハイプレスだ。高い位置からボールを追いこみ相手の出足を封じると、ボールを奪うや否や手数をかけずに相手ゴールに迫っていく。

 本来はボランチの山口を高い位置に置いたのも、ファーストディフェンダーとしての役割を期待したからにほかならない。古橋の2点目、山口の3点目は、ともに敵陣でのボール奪取からもたらされたもの。”バルサ化”を謳い、ポゼッションスタイルに狙いがあるように後方からつなぐ意識も高かったが、同じポゼッション型の横浜FMに対し、このハイプレスは有効だった。

「今日はうまくプレッシングを使ってゴールにつながった。我々はプレッシングサッカーをしたいので、今後もそういう戦い方を続けていくと思います」


 トルステン・フィンク監督も、その戦いに手応えを掴んだ様子だった。

 ただ、神戸が主導権を握れたのは前半だけだった。1点リードで迎えた後半に入ると、ギアを上げた横浜FMの攻撃に防戦一方の展開に陥った。

 プレスをはがされ、縦パスを簡単に通され、サイドチェンジ一本でピンチを招くなど、もろさを露呈した。とりわけ、大きくサイドに揺さぶられて相手FWにエリア内に簡単に侵入された73分の失点場面は、あまりにもお粗末だった。

 エクスキューズはある。神戸は元日まで天皇杯を戦ったために、準備期間があまりにも足りなかった。

「90分やったのは今日が初めて。チームとして動けていないという印象がありました」

 守護神の飯倉大樹が明かしたように、実戦不足の影響から、神戸には90分戦える体力が備わっていなかったのだ。ゆえに、後半の失速は致し方ない面もある。狙っていたハイプレスがかからなければ、押し込まれるのは必然だった。

 もっとも、山口は「簡単な失点が多すぎる」と苦言を呈した。そこには横浜FMと同じ攻撃スタイルを標榜するチームとしての自負があったかもしれない。


「マリノスのほうが、プレスをはがす技術だったり、やり方がうまかった」

 神戸だけでなく横浜FMも、ハイプレス・ハイラインが戦術の肝となる。ただ、横浜FMのハイプレスをかいくぐれずラインの裏を狙うフィードを多用した神戸に対し、横浜FMは神戸のプレッシャーを恐れずに、つなぐ意識を保っていた。

 プレスをはがされ、ピンチを招いた後半の展開は、体力低下だけに原因があるわけではない。攻撃のクオリティの差が表われたものでもあったのだ。

 ハイプレスを仕掛ければ、そのぶん、後方のリスクマネジメントが求められる。その甘さを突かれて失点したという意味では、リーグ王者に力の差を見せつけられた試合でもあった。

 もちろんPK勝ちとはいえ、王者相手に結果を手にしたことは、来るべくシーズンへ向けて弾みのつくものとなったはずだ。一方で90分を通じての安定感が足りなかったのも事実。また、年齢層の高いチームがシーズンを通してハイプレスを続けられるかにも、疑問符がつく。

 期待を抱かせた前半と、不安を感じさせた後半。2020シーズンの神戸は、果たしてどちらの表情を見せるだろうか。