ゼロックススーパーカップの神戸戦はベンチスタートも、後半の頭からピッチに立った遠藤は、73分には貴重な同点弾をアシストする活躍を見せた。写真:徳原隆元

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 2020年シーズンの幕開けとなるゲームでも、遠藤渓太はベンチスタートだった。

 前年度のJ1王者・横浜F・マリノスと、天皇杯覇者のヴィッセル神戸が相まみえた「FUJI XEROX SUPER CUP」は、90分間を終えて3-3と決着がつかず、PK戦の末、神戸に軍配が上がった。

 激しい打ち合いとなった一戦で、横浜の遠藤は後半のスタートから投入される。4-3-3システムの左ウイング。持ち前の突破力を最初からいかんなく発揮し、左サイドの攻撃を活性化させる。

 ハイライトは、2-3の1点ビハインドで迎えた73分。右サイドの仲川輝人からのサイドチェンジを巧みなトラップで収めると、間髪入れずにシュートを試みる。思い通りのコースには飛ばなかったが、すぐ側にいたエリキが素早く反応して、流し込んだ。

 ラッキーな形だったとはいえ、アシストはアシストだ。ピッチに立てば、相変わらず決定的な仕事に絡んでみせる男である。

 15年ぶり4度目のリーグ制覇を成し遂げた昨季、遠藤は左ウイングのスタメンに定着した時期もあった。しかし、夏の移籍で名古屋からマテウスがレンタル加入すると、このブラジリアンにレギュラーの座を取って代わられた。
 
 それでも、遠藤は腐らなかった。数は少ないながらも先発に抜擢された試合ではゴールという結果で応えてみせる。次の試合で再び、ベンチスタートに逆戻りしても、気持ちは折れることなく(多少の不満はあったかもしれないが)、前だけを見つめていた。

 いよいよタイトルが現実味を帯びてくるシーズンの最終盤、33節にディフェンディングチャンピオンの川崎を4-1で粉砕した後のコメントが印象的だった。

「残り2試合、この川崎戦と東京戦(最終節)で自分が決めるっていうことを、頭の中に置きながら練習を乗り越えてきたつもりです」

 有限実行。川崎戦でも、優勝を決めたFC東京戦でも、左ウイングの二番手である遠藤は途中出場からゴールを決めている。流れを引き寄せる云々、もしくはターニングポイントとなったワンプレーのような“フワッと”した活躍ではない。目に見える数字で、自らの存在価値を証明してみせたのだ。

 その姿が今年に入っても変わらないのは、すでに述べたとおり。神戸戦でゴールこそ挙げられなかったが、貴重な同点弾をお膳立てする見事な働きを披露してみせた。

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 だが、ベンチスタートという立場もまた変わっていない。今オフにマテウスが名古屋にレンタルバックしても、遠藤は左ウイングの序列を覆せずにいる。神戸戦では新戦力のオナイウ阿道がCFで先発し、昨季はこのポジションでレギュラーを張っていたエリキが、左ウイングでスタメン起用された。

 こうした現状を遠藤自身はどう捉えているのか。

「キャンプでのパフォーマンスは悪くなかったと思う。それでも、やっぱり届かないF・マリノスのスタメンなのかなって。そう思わないと、自分の中では納得できない」

 悔しさは当然、ある。「なんでだよ」という苛立ちがないわけではないが、ネガティブな感情は一切ない。

「そういったものを乗り越えて、強くなれると思うから」

 自分の実力を客観視する冷静さもある。「じゃあ、自分がスタメンを取るために、今日の試合で圧倒的なパフォーマンスを示したかと言われれば、そうではないし」と認める。

 それだけに、「もっともっとやるしかない」と気合いを入れる。アンジェ・ポステコグルー監督の存在も大きい。不断の努力を続けられるのは、「そういうところを監督が見ていないかと言ったら、そんなことはないと思うし。そう信じて僕はプレーしているから」と信頼を口にする。
 
「だから、去年以上の活躍を示して、『こいつを使わないと』っていう風に思わせたい。それが今の自分のモチベーション、ですかね」

 不安がないわけではない。常にゴールやアシストといったアピールにつながる結果を出せる保証はどこにもない。それは本人が一番理解している。与えられたチャンスを活かせなければ、3番手、4番手にランクダウンする可能性はある。「タフな戦い」と表現する遠藤は「でも、それを越えた先に、いろんなものが見えてくるはず」と表情を引き締める。

「ライバルがいないチームで試合に出ても、満足感も幸福感もないと思う。結果を残し続けて、価値を証明できればいい。一つずつ乗り越えていきたい」

 野心、希望、向上心、危機感……様々な感情を原動力に、目の前に続く険しい道を突き進んでいく。その覚悟はできている。

取材・文●広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)