「競技でも一流、社会でも一流」を掲げるFCふじざくら、“新社員”5人を加えて2年目の“働き方改革”に挑む

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 2月4日、山梨県・鳴沢村を拠点に活動する女子サッカークラブ「FCふじざくら」の2020年新入団選手発表会が、一般社団法人ふじざくらスポーツクラブの事務局がある「富士緑の休暇村」で行われた。会見には新たに加入する辻野友実子、松原ゆき、鈴木和遥、南條里緒、戎谷亜美の5選手とともに、菅野将晃監督、金子智弘GMおよび五十嵐雅彦GM補佐が参列して、詰め掛けた県内外のメディアの前であいさつした。

写真・文=本田好伸

■「プレイングワーカー=人生キャリアの形成」

「世界で通用するプレイングワーカーを育てるチームになる。プレイングワーカーは競技でも一流、社会でも一流であれ」

 そんなコンセプトを掲げて2018年11月に発足したFCふじざくらは、“アスリートの働き方改革”に着手した初年度の戦いを終え、2年目のシーズンを迎えている。富士山を眼前に望む富士北麓一帯でレジャー事業やゴルフ事業、不動産事業など、様々な事業を展開する富士観光開発株式会社が創立60周年を迎えた2019年に、「新しい人材の雇用」を考えた未来へのプロジェクトとして選んだのが女子サッカークラブの運営だった。

 所属選手にはいずれも、サッカー選手でありながら、富士観光開発が手掛けるいずれかの事業に正社員として従事して給与を得る「プレイングワーカー制度」が採用されている。主に平日の週4日、6〜8時間勤務して、その後の2時間は練習、土日は練習試合や公式戦を行い、月曜日がオフとなる。この形態により、選手は「アスリート」と「社会人」のキャリアを同時に積み上げることができる。企業側としても、枯渇しがちな地方企業に新たな人材を登用できるという点で価値のあるものだろう。

 ただし、それだけでは「実業団と同じではないか?」という疑問も残る。その違いとは何か。

「ゴルフ場の従業員になった選手を応援するために、(ゴルフ場の)メンバー様が試合会場に足を運んでくれたり、(FCふじざくらの)サポータークラブ会員様が施設の利用者になったりしてくれた」

 金子GMが大きな成果として振り返ったことが、このクラブ形態の一つの価値を示している。

 サービス業に就く選手は、お客さんとのダイレクトな接客を通してクラブへの関心を示すきっかけを作り、クラブを応援するファン・サポーターを企業の新たな顧客へと導いていく。単なる「雇用創出」ではなく、会社に貢献する「人材育成」に主眼を置いているため、企業側としても多くのメリットを享受できるのだ。

 もちろん、選手が感じる利点も「サラリーを得られる安心感」だけではない。発足時からキャプテンを任された工藤麻未が、1年間のプレイングワーカーを経て気づいたという言葉が核心を突いている。

「前所属チームでも正社員として働かせてもらっていました。勤務時間は数時間でしたが、今の形態と何が違うのかピンときていない部分は正直ありました。でも、それがようやく理解できた。以前は、サッカーを続けるために働いていました」

 サッカーを続けるために働くわけじゃない──。働きながらプレーすることを意味する「プレイングワーカー」の本質は、選手自身の「人生キャリアの形成」にある。競技と仕事を別々に捉えるのではなく、競技に打ち込み、仕事に従事することで得られるものの双方がスキルアップにつながっていくということだ。

 この点において、いわゆる実業団チームとは一線を画している。

 選手が自身に問い掛けるのは、選手としての価値だけではなく一人の人間としての価値。アスリートとしてピッチでどんな価値を生み出せて、社会人として職場でどんな価値を示せるのか。競技生活を続けてきたなかで、ピッチにおいて数々の成功と失敗を繰り返し、高速でPDCAサイクルを回すアスリートの思考方法や実行力は、社会人に置き換えても十分に違いを生み出せる。それこそが、アスリートの真の価値である。

■FCふじざくらの1年目に出た課題

 FCふじざくらは、発足時から掲げる「プレイングワーカー」という明確なコンセプトがブレることなく、1シーズンを積み重ねてきた。だからこそ、新たに見えてきた課題もある。

「プレイングワーカーに共感しつつも、一番には『サッカーを続けられる環境がほしい』と考えていた選手もいました。そうした選手は職場でも受け身でいることが多かったと思います。一方で、『この会社でこんなことをしたい』という意欲を見せて、新しい営業先で会社に利益をもたらす成果を次々に残した選手もいます。そうしたプレイングワーカーに対する温度差が見えた1年でもありました」

 五十嵐GM補佐が振り返ったように、環境を手にした選手が、いきなり一流になれるわけではない。選手には「アスリート」の利点を最大活用しながら会社に利益をもたらす姿勢が、引き続き求められている。

 FCふじざくらは現在、県内外で170社以上のスポンサー・パートナー企業を獲得している。山梨県リーグどころか、なでしこリーグ全体を見回してもトップレベルの数だろう。ただしそれはゴールではない。「選手には企業の広告塔としての自覚を持ってほしい」(金子GM)、「今後はPR職に就いたり、選手自身がメディアの役割を担って発信していってほしい」(五十嵐GM補佐)と言うように、選手たちの広報・営業力なども、社会人スキルの一つとして培われていくものかもしれない。自分のチームのスポンサー企業名を知らないアスリートも多いというが、自社のクライアント名を知らない社会人は通用しない。選手はそうした、社会では当たり前の知見を積み重ねた先に、一流の社会人を目指していくことになる。

 クラブが直面するもう一つの課題は、プレイングワーカーの価値をいかに広げていくかにある。スポーツクラブや企業、何より女性アスリートの新しいロールモデルとなる形態を打ち出しているが、やはり「結果」を出さないと世間に広く認知されない。その意味で、1年目のFCふじざくらは想定した軌跡をたどれなかった。

 女子サッカーのピラミッドで“7部相当”の山梨県リーグ2部からスタートした2019年は、なでしこチャレンジリーグ入替戦に勝利することでの3階級の“飛び級”を目指したが、11月の入替戦は、新潟医療福祉大学とのホーム&アウェイの戦いの末に敗退。「仕事をしながら結果を出す」という最良の成果を出せなかったのだ。

 しかし、五十嵐GM補佐は、意外な言葉を口にする。

「もちろん本気で上を目指しています。でも、このタイミングで上がれなくてよかったかもしれない」

 その真意は「社会人としても一流」の部分ではまだ、成果を出し切れていなかったから。「選手がもっとプレイングワーカーの本質的なところに気づいていかないと、チームの結果が出て評価されたときに、世間の人にクラブの表面的な部分だけが広がってしまうかもしれない」と危惧したのだ。

 クラブが見据えているのは5年後、10年後、15年後、さらにその先の選手の姿である。コンセプトに賛同した菅野監督とは長期契約を結んでいるが、企業、選手、スタッフなど、クラブを取り巻くすべてのベクトルをそろえて上がっていく必要があるだろう。

■課題解決型次世代クラブ、2年目の挑戦

 クラブの方向性は間違っていないはずだ。なぜなら、富士観光開発の想いが、「サッカーを続けたい。社会人としてのスキルも磨きたい」と考える多くの選手に届き始めているから。その証として、昨年の夏に実施した「蹴職セレクション」と、シーズンを通したふじざくらへの練習参加には合わせて約40人が集まった。

 その参加者の大半が「プレイングワーカー」に共感して、FCふじざくらの門をたたいたという。1月に行われた“競技セレクション”と、フロントとの“面談セレクション”を経て加入した5人の選手は、それぞれ信念を胸に秘めていた。新入団会見でのあいさつから抜粋しよう。

辻野友実子(筑波大学)

「私がFCふじざくらに入団したいと思ったのは、未来があるクラブだと感じたから。今後のキャリアを考えたときに、サッカーはもちろん、社会人としても一番成長できるチームを選びたいと思っていました。チームのコンセプトにも共感できましたし、自分の未来の選択肢を広げられると思いました。今シーズンの抱負ですが(中略)、社会人としては、積極的に行動して、少しでもできることを増やしたいと考えています」

松原ゆき(新潟医療福祉大学)

「私がFCふじざくらに入団したかった理由は、競技でも一流、社会でも一流という、プレイングワーカーを掲げて活動しているチームだったから。サッカーと仕事の両面でスキルアップできるのは、他のクラブとは異なる点であり、私はそこに魅力を感じました。今シーズンの抱負ですが(中略)、社会人1年目でわからないことも多いですが、自分から積極的に学ぶ姿勢を持って行動したい。いずれは『松原に任せれば大丈夫だ』と言われるよう、仕事に責任を持ち、誰からも信頼されるような社会人を目指します」

鈴木和遥(仙台大学)

「私はFCふじざくらのコンセプトである、競技でも社会でも一流であれというプレイングワーカーに魅力を感じて、そうしたアスリート、社会人になりたいと思い入団を決意しました。サッカーと仕事を両立できる他チームにはない環境があり、自身の成長やキャリア形成になると思いました。今シーズンは(中略)、社会人1年目なので何事にも積極的に取り組み、一流を目指して日々成長して、信頼の厚い社会人になりたいです」

南條里緒(仙台大学)

「将来のことを考え、一人の社会人として自立していけなければいけない、でもサッカーを続けたいと考えていた私にぴったりなチームだと感じました。ピッチでも一流、社会でも一流の選手になるというのはとても難しいことだと思いますが、なでしこ1部リーグに向かって一からチームを作っていく集団の一員となって、挑戦することで成長したいという強い気持ちや、富士観光開発という素晴らしい会社でキャリアをスタートさせたいという気持ちから、どうしても入団したいと思いました。今年は(中略)、チームや会社、地域の魅力を多くの方に知ってもらえるように発信していきたいと思います。サッカー選手としても社会人としても毎日、少しずつでも確実に成長していけるように精進します」

戎谷亜美(名古屋経済大学)

「私がFCふじざくらへの入団を決めた理由は、クラブが掲げるプレイングワーカー制度に深く共鳴して、プレーヤーとしてだけではなく、社会人としても一流を目指したいと思ったからです。今シーズンの目標は(中略)、新社会人としてはチャレンジ精神を持って、何事にも全力で責任を持って取り組んでいきます」

 顕著だったのは、5人全員が「プレイングワーカー」を強く意識していたことと、今シーズンの目標に「社会人として」が入っていたことだ。何を目指すのかという点で、彼女たちの想いは明確だった。

 女子サッカーは現在、2021年にスタートするプロリーグの話題が持ち上がっている。子どもに夢を与える、選手に希望をもたらすという意味でも、クラブが用意するプロ環境は大いに価値があるものだ。だが仮にもし、「お金をもらえるだけ」、「サッカーが強いだけ」のクラブになってしまったら、所属選手の未来が照らされるわけではなく、普遍的な価値も生まれていかないだろう。

 選手としての一流とは何か。社会人としての一流とは何か。両方の問い掛けが、アスリートのキャリアを形成していく。その過程で雇用企業にいくつものプラスが生まれ、好循環が回る。「サッカーをしたい」、「人材を育てたい」。選手と企業がマッチングして社会に新しい価値を生み出していく。令和の時代に誕生した課題解決型の次世代クラブ「FCふじざくら」は、富士の頂を望みながら、一歩ずつ登っていく──。