Amazonや楽天、Yahoo!ショッピングをはじめとするプラットフォームにおける消費者トラブルについては、消費者庁が「デジタルプラットフォーム検討会」を開催するなど、国も問題解決に乗り出している(写真:Amazon公式サイトより)

昨今、やらせレビューで優れた製品だと見せかける手法について、テレビ番組や各種記事で話題になっているが、問題はレビュー評価の水増しだけに留まらない。なぜなら、現代のネットショッピングモールは、商品の動きや購買動向に応じて、購買者に見せる情報の優先順位を自動調整しているからだ。

つまり、やらせレビューなどで“作られた”利用者の動きが入力されることで、プラットフォームのアルゴリズムがはじき出す答えが代わり、消費者に露出される商品までが変化する。

その結果起きているのが「悪貨は良貨を駆逐する」状況だ。

やらせレビュー」が優良製品の埋没をもたらす

レビューの点数や数などが“あてにならない”ことは、薄々感じている読者も多いのではないだろうか。とりわけ多いのが、モバイルバッテリー、USBケーブル、ワイヤレスイヤホン、ドライブレコーダーといったデジタル製品である。

特定製品を指名買いするのではなく「メーカーにこだわらないから、機能を満たすなら安いほうがいい」と考えて購入しようとAmazon内で検索すると、規定値では「Amazonおすすめ商品」が並ぶ。

Amazonは消費者の行動を仔細に追跡し、そのデータを用いることで「ユーザーが望む製品」への動線をシンプルにしたり、あるいはより良い製品を推奨する仕組みを備えている……はずだ。ところが、やらせレビューをはじめとするさまざまなテクニックにより、消費者と優良製品を結びつけるエンゲージメント、リコメンデーションの仕組みは“崩壊”している。

たとえば昨今、ネット通販で大人気の完全ワイヤレス型イヤホン。昨年、ソニーのWF1000XM3が大ヒット商品となった。市場を席巻しているアップルのAirPods、AirPods Proも含め、大きな市場に成長している。

ところが「ワイヤレスイヤホン」とAmazonアプリで検索して出てくるのは、見知らぬブランドの製品ばかり。いずれも一流メーカーより低廉で、中にはソニーやアップルの製品と同等の参考価格なのに実売は3000円を切る製品や、AirPodsとそっくりな外見の製品が多いことに気付く。

さらには推奨品であることを示す「Amazon’s Choice」も、見たことも聞いたこともない「OKIMO」というブランドの製品だ。もちろん新興の人気メーカーかもしれないが、後述するように極めて怪しい。

執筆時点で有名メーカーの製品が登場するのは前述のソニーWF-1000XM3が15位で表示され、次に知られたブランドが登場するのは次ページにめくって22位に登場するビーツのPowerbeats Pro。中堅どころのブランドでGLIDiCが、広告を入れてスポンサープロダクトとして25〜26位ぐらいに表示される程度だ。

世の中で評価されている商品のほとんどが埋没し、検索結果に現れてこないのはどういうことなのか?

Amazonのアルゴリズムを汚染する海外出品者

アリババが提供している通販アプリ「Ali Express」で同じキーワード「ワイヤレスイヤホン」を検索すると、そっくりの製品が多数出てくることがわかる。それも数百円〜1500円といった価格レンジで、同じ製品でも圧倒的に安い。

この価格こそが、深圳地区で調達した汎用製品に独自ブランドをマーキングしただけの製品の本当の相場と言えるだろう。

たとえば前述のAmazon’s Chioce獲得商品を販売するブランド「OKIMO」を同様に検索すると、同社がAli Expressにおいてほとんど同じと思われる製品を1068円で販売していることがわかる。さらに、Amazonでは販売していないが、よくあるAirPodsのコピー商品といった出自の怪しい製品も多数あった。

これらからわかるのは、Amazonでの商品検索結果が、これらの製品を販売するファブレスメーカーによって“汚染”されているということだ。検索順位を操作するために工夫することに違法性があるわけではない。Amazonが設定したビジネスルールのもとに行われているからだ。

しかし消費者の目線からみると、本当の推薦商品が探しにくい状態であり、良心的な製品をAmazonで販売している出品者たちとの出会いの機会が損なわれているという見方もできる。

こうしたオンラインショッピングサイトにおいて、検索上位や推奨品となれるかどうかはビジネスを行ううえで極めて重要な分かれ目だ。“指名買い以外”の売り上げは、検索結果で上位に来るかどうかで決まる。

このような惨状とも言える状況が生まれている理由は、Amazonのアルゴリズムに入力されるデータが、ある意味、“汚染”されているからだ。

Amazonでの高評価を一部のブランドが“買っている”ことは、もはや秘密でもなんでもない。商品を出品者自身が出庫してレビューを書いてもらうギフティングはもちろん、Amazonギフト券などを報酬としたレビュー依頼を組織的に行うことで、評判を作っている。

かつては怪しい日本語のレビューが並んでいたが、現在は日本人が書いていると思われるレビューも多い。Amazonはレビューを書いたユーザーの場所を記載する対策を取っているが、今やその対策も無意味だろう。やらせレビューはどんどん巧妙化している。

あまり細かなスペックを求めない製品を選ぶとき、消費者の多くは商品ジャンルで検索を行う。しかし、評価すべきスペック項目数が少ない製品ジャンルでは、参考とすべき要素は少ない。そこで頼りにするのが周辺情報だ。

・ユーザーレビューの数

・評価点の分散具合

・レビュー内容

Amazon Primeマークがあるか

Amazon’s Choiceがもらえているかどうか

しかし、これらの参考パラメーターが、実は商品の品質とはまるで関係ないとすれば、どう判断すればいいだろう? これは消費者だけではなく、Amazon自身も同じだ。Primeマークに関しては条件を揃えれば取得可能だが、検索順位を上げたり、Amazon’s Choiceをもらうためには、Amazon内での好評価が不可欠になる。

つまり、ユーザーレビューの数や獲得するレビュー点数の分散、レビュー投稿の間隔や頻度といったものを含め、最終的にAmazonのアルゴリズムに入力するデータへと影響を及ぼし、結果的に前述のような状況を生み出している。

Amazonというプラットフォーム」に特化したデジタルマーケティングを、海外ファブレスメーカーが駆使することで「悪貨は良貨を駆逐する」状況を生み出しているわけだ。

海外出品者と国内出品者の深刻な「格差」

こうした状況はAmazon.co.jp自身にとっても問題のはずだ。プラットフォームとして信頼を失えば、消費者も良心的な出品者も離れていく。

ところが、この状況を生み出したのはAmazon自身だ。というのも、こうした問題がクローズアップした背景に、海外出品者に門戸を広げるAmazon自身の戦略が根本としてあるからだ。

Amazonのシステムを熟知した海外出品者が、あらゆる手段を使って販売をブーストさせているのに対して、国内出品者は追従できない状況がある。とりわけAmazonとの関係が深いベンダーは、売り上げの大半をAmazonに依存しているため、不正なレビューや順位操作に対して表立ったクレームを上げることができないと、Amazonで自社ブランド製品を販売するある出品者は話した。


二重価格、三重価格が常態化している(筆者撮影)

海外からの悪質な出品者の手口はやらせレビューだけではない。

いわゆる“二重価格”は常態化しており、さらに常時クーポン発行するなどして三重価格化している例も多い。

前述のイヤホンの例では、中国では約1000円の製品をAmazonで約5000円で販売する例などがあったが、クーポンを使うとさらに1000円引き。そして参考価格としては2万円を超える価格が付けられている。

さらにAmazonの「バリエーション登録」も、こうした出品者は悪用している。Amazon上で既存製品の派生バージョンを登録すると、以前の評価を引き継げるシステムなのだ。たとえば「水筒」や「キーボード」の評価を引き継いで、USBケーブルを高評価に見せかけるといった、とんでもない製品を見つけたこともある。

また品質表示にも問題があり、MFi(Made for iPhone)などの認証を取っていないにもかかわらず、取っているように見えるロゴを画像データに忍ばせたり(システム側はテキストで書かれていないため検出できない)、モバイルバッテリーの表記上の容量と実際に使われているバッテリーセルの容量が大きく異なるといった例もある。
品質に関する責任は出品者にあるため、こうしたスペック詐称問題に関して、Amazonが積極的に関わることはない。

なぜこのような大胆なことができるのかといえば、それはAmazonの流通システムであるFBA(Fulfillment by Amazon)を利用する出品者登録が、極めて簡素であるためだ。加えて、以前ならば出品した製品の最終返品先として日本国内の住所が必要だったが、クロスボーダー取引を促進するために、Amazonは返品先が海外でも問題ないとするようルールを変えた。

このことで、ファブレスどころか「ファブレスのうえに倉庫レス」という、日本での実態がほぼゼロのブランドが、海外からオペレーション可能となった。参入障壁は極めて低く、Amazonに問題視されて登録を取り消されても(よほどのことがない限り、取り消しはない)、簡単に新しい出品者として登録できる。

得られる利益に対し、不正を働くことのリスクが小さく「ズルをしたほうがお得」。一方でマーケティング投資を行い、ブランドを育ててきた国内出品者はブランド価値を失うリスクがあるため、海外出品者のような不正に手を染めることはできない。

「購入したバッテリーで火事」の例も

品質表示に関しては、たとえばイヤホンが「IPX7レベルの防水対応」とあっても、本当にその性能を有しているのか、Amazonは確認していない。仲介をするプラットフォームでしかなく、販売者ではないからだ。

この問題はさらに掘り下げると、深刻な事故にもつながっている。

2017年11月、車のジャンプスターター機能を持つモバイルバッテリーが充電中に発火し、火災が起きるという事件があった。ところが、製造責任を問おうにもメーカーには連絡が取れない。Amazonなどのプラットフォーマーは、セラーに対して機会を提供しているだけであるため、情報提供に協力してもらえないのだ。

実際、上記の例では、購入者が弁護士を通しても、Amazonは販売者の詳しい情報を教えてくれなかったという。

このようなリスクや、Amazon自身のリスクも考えるならば、少なくとも海外出品者の登録審査を強化するなど、“大元を断つ”施策が必要だろう。しかし現在のところ、積極的にAmazon.co.jpが動く気配はない。