横浜FC所属の三浦知良。今年2月で53歳になる

福田正博 フットボール原論

■今シーズンのJリーグの大きなトピックのひとつが横浜FCのカズ(三浦知良)が13年ぶりにJ1の舞台で戦うことだ。今回、カズの同級生である元日本代表の福田正博氏に、そのすごさとグアム合宿でのエピソードを語ってもらった。

 昨年に続いて今年も、カズが1月に行なう恒例のグアム合宿に参加してきた。昨年の合宿では、カズはケガをしていたこともあって練習量を落としていたが、今年はしっかり動けていた。ハードなトレーニングを順調にこなし、フィジカルはとてもいい状態にあるように感じた。

 カズは2月26日の誕生日で53歳。学年は私と一緒だ。だからこそ、彼が自らに課しているトレーニングの過酷さを見ると、とても同じ50歳を過ぎたオジサンとは思えなかった。見方を変えれば、その過酷なトレーニングメニューに耐えられなければ、現役を続けられないということ。あれほどの練習を継続していることに、頭の下がる思いだ。

 それができるのも、シンプルに「サッカーが好き」という気持ちを持ち続けているからだろう。年齢を重ねると、この気持ちはしぼんでいってしまうものだが、カズは純粋にサッカーに打ち込んでいる。

 50歳を過ぎた今も、少年のように目をキラキラさせながら、「もっとうまくなりたい」と練習を積み重ねている。グアムでアンドレス・イニエスタのプレーについても語り合ったが、私は「イニエスタのプレーのよさをどうやって子どもたちに伝えるか」を考えていたのに対して、カズは「どうすればそのプレーを自分もできるようになるか」を思案していた。つまり、プレーヤーとして自分がどうするべきかを常に考えていて、その向上心はブラジル留学もした子どもの頃からまったく衰えていない。本当にすごいことだと思う。

 派手なパフォーマンスに注目が集まりがちだが、サッカーに向き合うカズの姿勢は謙虚で、素直で、人の話にきちんと耳を傾ける。だからこそ、この年齢になってもなお現役選手としてプレーできているのだろう。

 今シーズン、13年ぶりのJ1に挑む横浜FCは、開幕戦をアウェーでヴィッセル神戸と対戦する。カズが出場すれば、トップリーグでプレーした最高年齢の記録を塗り替えていくことになる。昨年は故障の影響もあって3試合の出場にとどまったが、今季はそれ以上にピッチでの姿を見られるはずだ。

 話題性という点で、カズの存在に優るものはないが、チームにとっては難しい判断を迫られる局面もあるだろう。とりわけ、下平隆弘監督にとって、カズ起用が悩みのタネになる可能性はある。

 たとえば、昨年のJ2最終節の愛媛FC戦、2点リードで迎えた試合終盤の87分にカズが途中出場した。しかし、試合内容を振り返れば、2点差がついた状況になっても、愛媛FCには試合をひっくり返すだけのパワーがあった。サッカーにおいて2点差はセーフティリードではなく、5分も経たないうちに2点を獲られる展開はこれまで無数にあった。そのため、3点差がつけばベンチは動きやすくなるが、2点差のままでは様子を見ることも多い。

 それでも下平監督は、カズをピッチに送りだした。この決断の背景には、チームとスタジアムが『カズ出場』の雰囲気をつくりあげていたことがあると私は考えている。そして、キングの登場にスタジアムはこの日一番の盛り上がりを見せ、カズも仕事をまっとうしてチームの勝利に貢献。横浜FCはJ1昇格を決めた。この試合を振り返って、カズ自身も「スタジアムにいるサポーターの後押しがあっても、それでも監督としては(自分を)使うのはたいへんな決断」と語っていた。

 開幕戦で対戦するヴィッセル神戸は、カズにとって古巣だ。思い入れのある街での試合に向けて、「まずは神戸行きの新幹線に乗りたい」とメンバー入りを目指している。そして、それは簡単なことではない。ベンチ入りするためには、レアンドロ・ドミンゲスやイバといった力のある外国籍選手との競争に勝たなければならないからだ。

 それでもカズは、「J1の方がリーグ戦出場のチャンスが増える」と前向きだった。J2の方がJ1よりもリーグ戦の試合数は多いが、その分メンバーを大きく変えることはない。一方のJ1は、リーグ戦は34試合でJ2より少なく、ルヴァンカップではリーグ戦で出番の少ない選手や若手に出場機会が与えられるケースが多い。今年のルヴァンカップは、J1開幕前の2月16日(土)から始まる。横浜FCはサンフレッチェ広島、サガン鳥栖、コンサドーレ札幌と同グループを戦っていく。

「ルヴァンカップは出場するチャンスがあるだろうから、そこでアピールしてリーグ戦で起用されるようにしたい」と、カズは意気込んでいた。そこで結果を残して力を証明して、神戸行きの新幹線のチケットを手にしてもらいたい。開幕戦で、カズとイニエスタが同じピッチに立つ瞬間を心待ちにしている。