前回、前々回と2回にわたり、ロッキード・マーティンのレーダーを紹介したので、今回はレイセオンのレーダーを取り上げることにする。米海軍のイージス艦が数年後に、レイセオン製の新型レーダーを搭載する予定なのだ。

○米イージス艦の新型レーダー

登場以来、長らくAN/SPY-1シリーズを使い続けてきた米海軍のイージス艦だが、あと何年かすると、まっさらの新型レーダーを搭載した艦が現れる。その新型レーダーが、レイセオン製のAN/SPY-6(V)1、名称をAMDR(Air and Missile Defense Radar)という。その名の通り、防空とミサイル防衛の両方に対応できますよ、という製品である。

実は、AMDRには広域捜索用のSバンド版(AMDR-S)と、水上・低高度用のXバンド版(AMDR-X)を開発する計画があったが、現時点でモノになっているのは前者のみ。そこで、AMDRといえばSバンド版を指すことになるというのが現状。

AMDRもアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーで、スケーラビリティを持たせた設計になっている。そこで中核となるのが、RMA(Radar Modular Assembly)と呼ばれるモジュール。RMAを組み合わせる数の違いにより、大型で高性能のレーダーも、コンパクトなレーダーもできる。

RMAのサイズは、縦・横・高さがそれぞれ2フィート(約610mm)。1つのRMAに、24個のTRIMM(Transmit/Receive Integrated Multichannel Module)と呼ばれるパーツが組み込まれている。そして、個々のTRIMMに6個の送受信モジュールが組み込まれている。つまり、1つのRMAは24×6=144個の送受信モジュールを持つ計算になる。

レイセオンの工場内で開発中のSPY-6 写真:レイセオン

レイセオンの工場内のSPY-6 写真:レイセオン

SPY-6の構造 資料:U.S.Navy

こうしてみると、ロッキード・マーティンのSバンド・レーダー製品よりも、レイセオンのAMDRファミリーのほうが、1つの「単位」が物理的に大きいことがわかる。使用する送受信モジュールは窒化ガリウム(GaN)製で、周波数帯は8〜12.5GHzとなっている。

アーレイ・バーク級フライトIIIが使用するAMDRはAN/SPY-6(V)1と呼ばれるモデルで、37個のRMAでアンテナ・アレイを構成する。縦横それぞれ7列ずつだが、角のところは斜めに落としてあるので、四隅でそれぞれ3個ずつ減る。だから7×7-3×4=37というわけ。すると、送受信モジュールの総数は37×144=5,328個となる。消費電力は1,500kW(!)

○同じRMAを活用するファミリー化

この、AMDR用のRMAをそのまま利用する形で生み出された派生製品が、EASR(Enterprise Air Surveillance Radar)。この名称からすると、多機能レーダーというよりは対空捜索に特化したレーダーということになるが、それはおそらくソフトウェアの変更で対応できる。

EASRはAMDRほど大がかりではなく、9個のRMAを組み合わせて構成する。縦横それぞれ3列ずつということになろうか。その9個アレイでも、レイセオンは「現行のAN/SPY-1レーダー並みの性能が出る」といっている。もっとも、原設計が1970年代のAN/SPY-1レーダーからすれば「そこで最新型と比較されても…」というところかもしれない。

このアレイを1面だけ用意して機械的に回転させるAN/SPY-6(V)2と、3面を用意して固定設置とするAN/SPY-6(V)3の2モデルがある。すでに、ジェラルドR.フォード級空母の2番艦「ジョンF.ケネディ」以降と、新型揚陸艦LX(R)、新型フリゲートFFG(X)でEASRの導入が決まっている。LX(R)がAN/SPY-6(V)2で、他はAN/SPY-6(V)3となる。

つまり、高い対空捜索能力が必要な艦は「固定式アンテナで、一度に全周をカバーできるタイプ」、そこまでの能力を要求しない艦は「回転式アンテナを使用するタイプ」という使い分け。もちろん、アレイを3面使用するよりも1面で済ませる方が安いに決まっているし、消費電力も少ない。

さらに、AMDRの縮小版というべき、AN/SPY-6(V)4というモデルの構想もある。これは、すでに稼働しているアーレイ・バーク級駆逐艦フライトIIAのAN/SPY-1D(V)レーダーを換装する需要を当て込んだ製品。ただし、まだ正式な調達プログラム(PoR : Program of Record)にはなっていない。

AN/SPY-1D(V)からの換装となると、サイズや重量を同等にするだけでなく、消費電力も同等にしなければ、実現は難しい。設置スペースの問題だけでなく、発電機の増強が必要になってしまうという問題もあるからだ。すると、使用するRMAの数がAMDRより少なくなるわけで、24個にすると報じられている。縦横それぞれ6列ずつで四隅を落とし、6×6-3×4=24という計算になろうか。

RMAを24個並べる場合と37個並べる場合のイメージ図を作ってみた

結果としてAMDRと比べると性能がいくらか落ちるが、それでもAN/SPY-1D(V)より向上するのは間違いない。しかも、導波管や移相器を使うパッシブ・フェーズド・アレイ・レーダーからアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーに代わるから、メンテナンスが楽になると期待できる。

○全体最適化を重視する思想

こうしてAN/SPY-6シリーズには3種類の派生型ができて、さらに1種類増える可能性がある。基本コンポーネントが共通だから、名称が違っていても同じAN/SPY-6シリーズということになる。同じRMAを共用しているから、予備品は同じ種類のもので済む。

当然、RMAの調達数は増えてコストは下がる。そして、在庫管理や融通は容易になるので、兵站支援の観点からみても合理的だ。また、レーダーを制御するソフトウェアも、AMDRとEASRの間で高い共通性を持たせることができると思われる。

こうした全体最適を重視した製品作りは、アメリカの軍とメーカーが得意とするところ、といえそうだ。なにもレイセオンの艦載レーダーに限らず、前々回と前回に取り上げたロッキード・マーティンの製品も含めて、他の分野にも見られる傾向である。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。

マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。