オリジナル番組制作によって、Netflix(ネットフリックス)とHulu(フールー)がサブスクライバー数を獲得・維持しているのであれば、それをパブリッシャーが持つより広範なサブスクリプションビジネスでも通用しない理由はないだろう。アーキテクチュラル・ダイジェスト(Architectural Digest)、バースツール・スポーツ(Barstool Sports)、そしてニューヨーク・タイムズ(The New York Times)の3社はそれを目標にしている。彼らは新しいサブスクライバーの獲得、そして既存のサブスクライバーをキープすることを目的としてオリジナルの番組を制作・活用している。

ペイウォールの後ろにオリジナル番組を配置することは、サブクライバー獲得・維持のツールとして非常に説得力がある。サブスクライバーたちの注目を維持することができれば、次の月にリリースされる新しいエピソードを身逃したくないサブスクライバーたちは、解約しにくくなるだろう。しかし、限られたオーディエンスのためだけにコンテンツを制作することは、パブリッシャーにとってはなかなか正当化しづらい。Netflixやその他のストリーミングプラットフォームたちが、そういったコンテンツに対するライセンス対象としての興味を張り巡らせているなかでは特にそうだ。

さらに、サブスクリプション収益を使って番組のコストを賄うのはリスクを伴う戦略だ。短い動画形式が数万ドル単位の制作費用だったとしても、サブスクライバーたちがそもそも加入した理由がほかにあり、番組を見なければ制作費用は無駄となる。加入する理由には、記事に表示される広告を消すためだったり、月間のトレンドレポートだったりするわけだ。その結果、これらのペイウォール内の番組を使ってどこまでの賭けに出られるか、慎重に推測する必要に迫られる。もちろん、制作した番組をペイウォールの外にも広範に配信することでリスクヘッジをする方法はあるだろうが、その場合はオリジナル番組のために加入したサブスクライバーたちが不満を持たないように行う必要が出てくる。

コンテンツを完全に囲った事例

アーキテクチュラル・ダイジェストのペイウォール内番組である「ビハインド・ザ・デザイン(Behind the Design)」はサブスクリプション・プログラムであるADプロ(AD Pro)をローンチした1カ月後となる昨年5月にデビューした。年会費240ドル(約2万6000円)を払うサブスクライバーたちにより多くのコンテンツを提供することが狙いだ。また、このコンテンツをきっかけにしてサブスクライバーを増やすことも狙っている。アーキテクチュラル・ダイジェストは各放送回の短い予告編をソーシャルメディア上で投稿している。

高クオリティの短い動画形式の番組を制作するにあたり、アーキテクチュラル・ダイジェストは外部の制作会社であるノエ・アンド・アソシエイツ(Noë and Associates)を雇った。しかし視聴者数には低い上限(サブスクライバー数)があることは問題だとは思っていないようだ。アーキテクチュラル・ダイジェストはADプロが最初の1年で1万5000人のサブクライバーを集めると予測しており、この番組をペイウォールの外で公開する計画はないという。

これまでの視聴人数や、ADプロに加入するサブスクライバーの数をアーキテクチュラル・ダイジェストは明かさなかった。しかし、エグゼクティブ・ディジタル・ディレクターであるキース・ポラック氏によると、番組は「サブクライバー数の増加に確実に貢献している」という(ポラック氏はデータは提供しなかった)。

いまだ方針が定まらない事例

一方で、バースツール・スポーツのメイキング動画となっているドキュメンタリー・シリーズ「バースツール・ドキュメンタリー(Barstool Documentary)」を制作するバースツール・スポーツは、それよりも大きな野心を持っているようだ。

昨年1月、サブスクリプションプログラムであるバースツール・ゴールド(Barstool Gold)のローンチと同時期に、このドキュメンタリーはプレミア配信された。このシリーズは、すべてがバースツール・ゴールド限定のコンテンツとなっているわけではないが、1話20分という長さ、そしてテレビ級のクオリティを鑑みると、サブスクリプションサービスのもっとも高価なセールスポイントであるように思われる。CEOのエリカ・ナルディーニ氏によると、今日までに3万人のサブスクライバーが加入したという。本稿発表までには、バースツール・スポーツの広報担当者は視聴者数を返答しなかった。

バースツール・スポーツは限られた数の人しか見られないコンテンツ制作に関してはジレンマを抱えている。昨年3月には、このドキュメンタリーシリーズの第2話は誰でも見られるように公開した。当時、ファウンダーのデイブ・ポートノイ氏はこのことが有料サブスクライバーを怒らせる可能性もあると認めた。非サブスクライバーも視聴できる形で公開されたエピソードは、第2話以外にも存在するものの、ナルディーニ氏は「ドキュメンタリーは誰しもが見れる必要があると考えている自分もいるため、ドキュメンタリーに関してはジレンマに挟まっている」と語った。

外部提供を逆輸入した事例

ニューヨーク・タイムズによる番組制作は、必ずしもサブスクライバーを対象に開始されたものではない。しかし、サブスクライバー、非サブスクライバーどちらにも同じように公開することで、注目を集めることができたといえるところもある。

6月にFXとHuluで「ザ・ウィークリー(The Weekly)」を放送開始したあと、11月18日にはそれをニューヨーク・タイムズのサブスクライバーも見られるようにした。広報担当者によると、有料テレビサービスやHuluに加入していないけれども番組を見たいと思うサブスクライバーからの声を聞いて、この決定が下されたとのことだ。担当者はサブスクライバー数を明かさなかった。

ニューヨーク・タイムズが行ったことは、実行がなかなか難しい技だ。FXとHuluが自社を越えた範囲でなぜ番組配信を認めるのか、明確ではない。ニューヨーク・タイムズのサブスクライバー向けにザ・ウィークリーを視聴可能にするにあたり、FXとHuluと再交渉をしたわけではないと広報担当者は語った。

NYTとは逆方向のアプローチ

ニューヨーク・タイムズのモデルは真似をするのが難しいかもしれないが、逆方向からのアプローチは上手くいくかもしれない。ペイウォール内向けに制作した番組を再活用しようとするパブリッシャーたちが狙えるアングルだ。サブスクライバー限定のリリースはコンテンツの最初の配信場所として機能させる。後に番組を従来的なプログラムにパッケージし、視聴者を欲しているテレビネットワークやコンテンツ在庫を増やそうとしているストリーミングサービスへ売り込む、と言った具合だ。

未放送のコンテンツほどはお金を得られないかもしれないが、これらのコンテンツはもともとサブスクリプションビジネスの構築のために作られたことを考えると、ライセンシングからの収益はどのような額であれ追加収入となる。配信を拡大することでサブスクライバーを増やせるかもしれない。

「NetflixやHuluがドキュメンタリーを向こうで再配信したいと言ってきたら、絶対にしないとは言わないだろう。しかし我々の戦略は他社が自分たちのコンテンツを放送することを基盤にしてはいない」と、バースツール・スポーツのナルディーニ氏は述べた。

Tim Peterson(原文 / 訳:塚本 紺)