「やっとスタートラインに立てた」室屋成…苦い経験と親友の活躍を胸にアジアの頂点、欧州移籍へ

写真拡大

「寒すぎてボールも止まるし。ホント、大変でした。こんなに酷いピッチ状態は公式戦では初めてですね。ビックリしました」

 季節外れの豪雨と気温8度という寒さの中、東京スタジアムでは28日、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)プレーオフ、セレス・ネグロス戦が行われた。ピッチには水たまりができ、まともにボールを蹴ることができない劣悪なピッチ状態に、FC東京の選手たちは手を焼いた。

 右サイドバックの室屋成もその状況に困惑した。が、持ち前の逞しさと闘争心は健在だった。前半から積極果敢に前線に駆け上がって攻撃参加し、機を見てミドルシュートも放つ。高校サッカーの名門・青森山田で時に雪中サッカーをやってタフさと足元の技術に磨きをかけてきた彼にしてみれば、この悪環境も克服できるレベルだったのだろう。

「メチャメチャ下が濡れていたので、『何か起こるかな』と思ってミドルを打ってました。でもハーフタイムに(長谷川健太)監督から『せめて枠には入れろ』と言われましたね(苦笑)」

 そんな指揮官の檄が響いたのか、後半開始早々の48分に結果を出して見せる。ゴール前に詰めていた室屋は、中央でアダイウトンがタメを作り、安部柊斗がつないだボールを受けると右足を一閃。ボールは相手ゴールに吸い込まれ、待望の先制弾を挙げることに成功したのだ。

「ペナでスクランブルが起きてて、ゴチャゴチャになっていたので、こぼれてきたらラッキーだと思いながら待っていたんです。それで本当にこぼれてきて、シュートは『とにかく枠を外さないように』と適当に打ったら入りました。1点差ゲームになると考えていたし、自分もあのゴールはすごく大きかったと思ったので、よかったです」

 この1点が大きなアドバンテージとなり、FC東京は優位に試合を進めた。終盤に入ると原大智が退場になり、相手が蹴り込む作戦に出てあわやPKかというピンチもあったが、最終的にはアダイウトンが華麗な個人技でダメ押し点をゲット。2−0で勝利し、4年ぶりのACL本戦出場権を獲得した。

 その2016年は、1月のリオデジャネイロ五輪アジア最終予選を兼ねたAFC U−23選手権2016で日本の優勝に貢献。この直後、明治大学サッカー部を退部し、プロへの第一歩を踏み出したが、チーム合流直後に右足第5中足骨を骨折し、ACL参戦は叶わなかった。

 こういった苦い過去もあり、2019年にJリーグ2位と結果を残し、迎えた今季は、「ACLっていうのはアジアの中でもすごい特別な大会ですし、色々なアジアの国とやれるのは楽しみ。色々な国に行くのも楽しみです。やっとスタートラインに立てたので、ここからチームとしてもっとよくなっていけばいいと思います」とモチベーションを高めている。

 欧州に目を向ければ、同郷の親友・南野拓実が大活躍し、欧州王者の一員になった。FC東京はACLグループステージで蔚山現代、パース・グローリー、上海申花という強豪揃いの組に入り、1次リーグを勝ち抜くだけでも苦戦が予想される。が、その関門を超えて頂点をつかむことができれば、室屋自身のキャリアにも前向きな変化が起きるかもしれない。

 以前から「拓実みたいに欧州へ行きたい気持ちはあります」と何度も語っている彼にとって、26歳になる今季はまさに勝負の年。日本代表定着、右サイドバックのレギュラー獲得、最終予選でのコンスタントな活躍も視野に入れて、これまで以上に精力的にチャレンジしていかなければならないだろう。

「個人的にはあんまり目標とか立てないので、特に今季のテーマとかはないですけど、ACLプレーオフで勝ててとりあえず一安心しました。本戦まで時間はないけど、しっかり準備して、次はもっといいサッカーをして、自分たちが積み重ねてきたものをしっかり出して勝っていきたいと思います」

 今季のFC東京はアダイウトンやレアンドロら新外国人選手、安部や紺野和也、中村帆高らルーキーも加わり、室屋がイレブンをリードしていくべき時も増えていくだろう。これまで以上に統率力とリーダーシップを持って、過密日程の2020年を乗り切り、自身のステップアップを果たしてほしいものである。

文=元川悦子