長きに渡りバルサの“4番”を担ってきたブスケッツ。ただ近年は絶対的な存在ではなくなっている。(C)Getty Images

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 セルヒオ・ブスケッツは2008−2009シーズンにジョゼップ・グアルディオラ監督(現マンチェスター・シティ)によってトップチームに抜擢されて以来、常に主力メンバーとしてバルセロナの黄金時代を牽引してきた。

 ヨハン・クライフがあるコラムでブスケッツの彗星のようなデビューを歓迎し、当時スペイン代表を率いていたビセンテ・デル・ボスケは「もし生まれ変われるのなら、ブスケッツのような選手になりたい」と語った。

 このスペイン代表MFの競争相手として加入したハビエル・マスチェラーノとアレクサンドル・ソングはいずれもCBへのコンバートを余儀なくされ、後継者と目されていたセルジ・サンペールとオリオル・ブスケッツも高い壁に阻まれ、前者がヴィッセル神戸、後者はトゥベンテでプレーしている。

 当然ティト・ビラノバ、ヘラルド・マルティーノ、ルイス・エンリケというグアルディオラを引き継いだ3人の歴代監督はいずれもブスケッツを絶対的な選手として位置付けてきた。そんななか、その“聖域”に初めてメスを入れたのが、前監督のエルネスト・バルベルデだった。
 
 バルベルデは今シーズン、中盤にダイナミズムを加味しようとテコ入れを図った。同じく近年アンタッチャブルな存在だったイバン・ラキティッチに昨年5月の時点でレギュラーポジションを確約しないことを伝え、開幕のアスレティック・ビルバオ戦でブスケッツをスタメンから外した。

 そのビルバオ戦、代わりピボーテに起用したのが新加入のフレンキー・デヨングで、さらにその左右には今冬、ベティスにレンタルで移籍したカルレス・アレニャと開幕当初は中盤に固定する構想だったセルジ・ロベルトを配した。しかしバルベルデの思惑通りに中盤は機能せず、バルサは0-1で黒星発進となった。

 バルベルデは翌節のベティス戦ですぐさま修正を施し、その後も中盤の構成をいじり続けた。ここまでMF陣の中で総試合時間の80%以上に出場しているのはデヨングのみ(第20節終了時点。以下同)。2位に66%のブスケッツが続き、以降はラキティッチ(37%)、アルトゥール(36%)、アルトゥーロ・ビダル(36%)と軒並み低い数字が並ぶ。

 出場機会を少なくなると選手たちが不満を蓄積させるのは世の常だ。このうち怪我も重なったアルトゥールを例外として、ビダルが冬の移籍をほのめかし、ラキティッチが「悲しい」という発言で負の感情を露にするなか、しかしブスケッツだけは口を閉ざし続けた。
 
 この中盤のスタメンの激しい入れ替わりは、バルベルデのポゼッション軽視の表われでもあった。トランジション型のフットボールに傾倒する姿勢を鮮明にし、その一方で指揮官の采配に納得がいかないベテランMFとの関係に亀裂が入り始めた。

 敵地で2-1と何とか勝利したものの、内容が悪かったチャンピオンズ・リーグのグループステージ3節・スラビア・プラハ戦後に、守護神のテア・シュテーゲンが「チーム内で話し合わなければならない。改善すべき点がある」とチーム批判を展開したが、それもそうした縦に速く舵を切った新戦術に対する不満が根底にあった。
 
 その頃、ロッカールームでは選手間で激しい口論が起き、バルベルデの采配を批判する声が漏れ始めた。とりわけ槍玉に挙がったのが、メッシとルイス・スアレスに対して守備免除を認める決断だった。彼らの言い分を証明するように、中盤と最終ラインへの負担が高まる一方となり、ラ・リーガの前半戦を終えて23失点を記録。ちなみに昨シーズン通しての総失点数は36、一昨シーズンは29である。

 フロントはこのロッカールーム内で起こっていた異変を不安げに見守るとともにバルベルデ政権の今シーズン限りでの終焉を悟った。水面下で後任探しが始まり、中盤の選手たちの間からは、チームのベテラン組が今なお連絡を取り続けているシャビの復帰を待望する声が高まった。

 しかしスーペルコパのアトレティコ戦での敗戦がそうしたチームを取り巻く状況を加速的に変化させ、フロントは数日後にバルベルデを解任。シャビへの監督就任の打診は「時期尚早」という理由で断られていたため、クライフィスタを公言するキケ・セティエンが後任の座に収まった。

 この急転直下の監督交代劇を歓迎したのが、ほかでもないブスケッツであった。キエ・セティエンにとってもブスケッツはかねてから一目置いていた選手であり、事実、彼のサイン入りのユニホームを忘れ形見のように大切に保管している。

 その新指揮官の初陣となったグラナダ戦で、ブスケッツは相手チームの総パス数131を上回る142のパス本数を記録。82%という2011年以来最高のポゼッション率の達成に貢献した。監督交代によってブスケッツが復活を遂げるのか。それはバルサがマイボールを大事にするアイデンティティーを取り戻せるかどうかにダイレクトに関わる重大なテーマである

文●ファン・イリゴジェン(エル・パイス紙バルセロナ番)
翻訳●下村正幸

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