民族衣装を着たイラクの少数派ヤジディー教徒のイマン・アッバスさん。同国北部クルド人自治区ドホークのシャリア避難民キャンプで(2019年11月21日撮影)。(c)SAFIN HAMED / AFP

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【AFP=時事】弱冠18歳のイラク少数派ヤジディー(Yazidi)教徒のイマン・アッバス(Iman Abbas)さんは、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に何度も「奴隷」として売られながらも逃げ出し、今は生き延びた仲間たちの声を世界に届けようとしている。

 アッバスさんは、家族と暮らすイラク北部のクルド人自治区シャリア(Sharia)避難民キャンプの質素な2部屋のテントで、「これまで経験してきたことを考えると、私はもう自分がティーンエージャーだとは思えない」と静かな声で語った。

 アッバスさんは今、自分を救ってくれたヤジディー救済事務所(Yazidi Rescue Office、YRO)で働いている。昨年は同事務所の代表としてインド・ムンバイで、マザー・テレサ・メモリアル賞(Mother Teresa Memorial Award)を受賞した。

 YROはISが2014年、イラク北西部でヤジディー教徒が先祖代々住む地域を襲撃した際に捕らえたヤジディーの少女約5000人の救済にあたっている。

 ISが岩だらけの村シンジャール(Sinjar)を襲ったのは、アッバスさんが13歳の時だった。ヤジディー教徒の女性と少女数千人は「性奴隷」に、少年は子ども兵士にされ、成人男性は殺された。

 アッバスさんは家族から引き離され、他のヤジディー教徒の女性らと一緒に「奴隷市場」でISのメンバーに売られた。

 アッバスさんは3度売られ、最後にISの40歳のイラク人医師に買われた。この医師は、コーラン(イスラム教の聖典)の101ページ分を暗唱すれば自由にしてやるとアッバスさんに約束した。

 ヤジディー教徒はクルド語を話し、民族宗教を信仰する少数派だ。このため別の宗教の教典をアラビア語で暗唱することは、おびえたティーンエージャーにとっては、とてつもない挑戦となった。

「毎日、目の前に座ってコーランを暗唱するように言われた。1か月と4日で101ページを暗記できた」とアッバスさんは語った。

■「自由なイスラム教徒の少女」

 医師はすぐに、アッバスさんをイラクのIS拠点だったモスル(Mosul)にあるISの裁判所に連れて行った。そこでアッバスさんは「自由なイスラム教徒の少女」であると宣言され、正式な書類が発行された。

 アッバスさんと家族は2015年、YROによって救済され、シャリアに落ち着いた。この避難民キャンプには、家を追われたヤジディー教徒が1万7000人以上住んでいる。

 ISはイラクの拠点を2017年に失い、昨年3月には隣接するシリアの最後の支配地からも追放された。ISの「カリフ制国家」が跡形もなく崩壊すると、何年間も捕らわれの身となっていたヤジディー教徒数百人が逃げ出した。

 だがYROによると、数千人が今もなお行方不明のままだ。

 またヤジディー当局によると、一部はイスラム教に改宗し、今なおイスラム教徒の家族と暮らしている。恐れや恥の意識、または「洗脳」のために帰郷できないでいるという。

 アッバスさんは現在、半日を学校で過ごし、残りの半日は恩人であるYROの事務所で働いている。アッバスさんの任務は、このような女性や少女を説得して元の家族に戻すことだ。また、救済された50人以上の少女と面接して体験談を記録し、YROに保管する仕事も担当している。

 この仕事は、「悲しいと同時に幸せ」な気持ちになるとアッバスさんは話す。「恐ろしい体験を全部聞かなければならない。話はそれぞれみんな違っているが、どれも悲痛だ。私の体験談より悲惨なものもある」

 だが、アッバスさんは自分の仕事に誇りを感じている。「生き延びた女性を救済する仕事に関わることができてうれしい」

■始まったばかり

 アッバスさんは、2018年にノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)を受賞したヤジディー教徒の人権活動家、ナディア・ムラド(Nadia Murad)氏と同じ道をたどりつつある。

 アッバスさんの父親アブドラ(Abdullah)さんはAFPに、「初めは娘が捕らわれの身となったことについて話すとき、私はいつも背中を向けていた。正面切って話を聞くのがとてもつらかったからだ」と語った。

 だがアブドラさんは今では、生き延びたすべてのヤジディー教徒が自分の体験を語ることを望んでいる。なぜなら本人だけではなく、破壊された少数派であるヤジディー教徒の助けにもなるからだ。

 アッバスさんは最近、英語の勉強を始めた。だがそれは、活動家として抱いている志をかなえるための初めの一歩にすぎない。「将来は弁護士になって、イラクの法律と国際法に精通し、生き延びたヤジディー女性と他のIS犠牲者の権利を擁護したい」とアッバスさんは夢を語った。

【翻訳編集】AFPBB News

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