マネが負傷する緊急事態にクロップ監督が送り出したのが南野だった。 (C) Getty Images

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 1月23日に行なわれたウルブス(ウォルバーハンプトン)との一戦で、南野拓実はベンチメンバーにセレクトされた。だが、FWサディオ・マネが33分に負傷したことにより、急遽ピッチに立つことになった。こんな早く出番が回ってくるとは、誰も予想していなかっただろう。

 仕方のないことだが、前半が終了するまでの約10分間、南野はなかなかボールに触れることができなかった。この日本人アタッカーが側にいたにもかかわらず、サラーが自らボールを運んでいくシーンもあった。もっとも、パスが出なかったことを気にする必要はない。このエジプト代表FWは、独力で持ち込みたがるプレーヤーだからだ。

 後半からは本来のプレーを見せはじめた。パフォーマンスは決して悪くなかった。

 もちろん、マネの代役を務めるのは簡単なことではない。事実、ウルブスを攻めあぐねたリバプールは、なかなか追加点を奪えなかった。もっとも、これは南野ひとりの問題ではない。崩しの切り札を欠けば、影響力が小さくないのは当然だ。

 そして51分にはウルブスに同点に追いつかれてしまう。これはリバプールにとって不運だった。

 そんななか、南野にチャンスがおとずれる。60分にこの試合で初めていい形でフィニッシュに持ち込んだのだ。シュートはDFにブロックされてしまったが、このシーンでパスを出しののは、サラーだった。試合の中で少しずつ信頼を勝ち取っていったと言えるだろう。

 目に見える結果を残したわけではないが、決して“場違い”ではなかった。目立ってはいなかったが、全体的に「うまくやっていた」のではないだろうか。

 試合は、83分にジョーダン・ヘンダーソンのパスを受けたロベルト・フィルミーノが、左足で強烈なシュートを決め、2-1でリバプールが勝利した。無敗記録を「40」に伸ばしたこの試合で、南野に一番最初に声がかかったということを、喜ぶべきだ。ベンチにいた他の選手を差し置いて、彼にプレー時間が与えられたのだ。またすぐに、アピールのチャンスが巡ってくることだろう。
 私がそう考えるのは、変化が確実に起きているからだ。前節のトッテナム戦で、ベンチに座っていた南野に声が掛かることはなかった。だが、試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、ユルゲン・クロップ監督の反応が私の目を引いた。

 難敵から重要な勝利をあげたその場面で、クロップはいつものように一目散にピッチへ向かうだろうと誰もが考えた。だがその前に、彼はベンチから出てきた南野を見つけ、思い切りハグをした。それは18番が宙に浮くくらいの勢いだった。 本人は試合に出られなかったことに失望していたかもしれないが、ドイツ人指揮官にとって祝福をするべきひとりだったのだ。
 

 変な話、私の目にはそのシーンが焼き付いていたため、今回のデビューにさほど驚きを感じなかった。クロップは、南野の時代が来ることを予感している。そして加入して1か月も経っていなくとも、チームにとって欠かせないピースのひとつだと確信している。

 前節のハグは、その指揮官との良好な関係をうかがわせる。心配は必要ない。南野はクロップを信頼し、試合に出られなくても忍耐強さを持ち合わせている。そして、クロップやチームが南野を受け入れていることには、必ず理由がある。

 リバプールは今後、4月4日にマンチェスター・シティと対戦するまで、ビッグ6との試合がない。南野が実力を示す機会は自然と増えてくるだろう。そう願っている。

  ウルブス戦で、南野はある点で目立っていた。両チームの選手のなかで、手袋をしていたのは彼だけだったのだ。もちろんGKを除いてだが……。

取材・文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ)

スティーブ・マッケンジー (STEVE MACKENZIE)
profile/1968年6月7日にロンドン生まれ。ウェストハムとサウサンプトンのユースでのプレー経験があり、とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からサポーターになった。また、スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国の大学で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝に輝く。