感染源と疑われる武漢の海鮮市場(写真:AP/アフロ)

中国湖北省武漢市で発生した、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が止まらない。中国の国家衛生健康委員会は、1月24日現在、中国全土で830人が感染し25人が死亡したと発表した。その数は増えるばかりで、中国政府は23日に、武漢市や周辺地域の交通を遮断する事実上の封鎖措置を取った。

また、日本国内では24日に2人目の感染者が確認された。厚生労働省によれば武漢市在住の40代男性旅行者で東京都内の医療機関に入院中だという。韓国・台湾・マカオ・シンガポールやベトナムなどアジア地域を中心に感染が広まっている。

SARSの感染ルートをたどったからわかる共通点

私(つまり、筆者)は、2003年に同じコロナウイルスによるSARS(重症急性呼吸器症候群)が猛威を振るった当時、中国、香港、台湾をまわって、感染ルートをたどった取材経験がある。

今回の新型肺炎の発生源が、武漢市内にある「武漢華南海鮮卸売市場」と、最初に報じられた時には腑に落ちなかった。

次いでCNNが同市場では食用の動物や爬虫類も売られていたこと、その中でも中国に生息するアマガサヘビやタイワンコブラが感染源の可能性を指摘する報道に接して、ようやく合点がいった。とても海産物がコロナウイルスを媒介するとは思えなかったからだ。

ここに新型肺炎とSARSとの共通点を見ることができる。それは原因となるコロナウイルスの発生源が野生動物を扱う市場であることだ。

2002年11月、中国広東省広州市で発生したSARSは、同市郊外にある「広州新源蛇鳥禽畜総合市場」という野生動物の市場が発生源とされた。


「広州新源蛇鳥禽畜総合市場」という野生動物の市場(筆者撮影)

そこはアーケードが横に規則正しく、いくつか並び、その下に商店が向かい合って並んでいる場所だった。

売られているものは、鳥類ならば野鳥やウズラから大型の水鳥まで、ヘビはコブラもいれば、イヌ、ネコ、野豚、狼の類から、子鹿まで、日本では見かけない動物も含めて、生きたまま網や鉄の籠や檻の中に入れられて店先に並べられている。

それも、イヌは生きたまま四角い箱のような檻の中に”すし詰め”にされて、その檻が縦にいくつも重ねられて、出荷の時を待つ。ネコに至っては、客が選んだものを”やっとこ”で首筋を挟んで籠から引きあげ、麻袋に詰め替えて手渡している。すべて食用だ。

野生動物たちの間を歩くと、もわっとした生暖かい空気が漂い、なんの動物の毛なのか定かでないものが舞っている。そしてなにより獣臭さがマスク越しにも鼻をつく。お世辞にも衛生的とは言い難い。

しかも、家族経営のこの商店の奥と2階が店主一家の居住スペースになっていた。あまりにも野生動物とヒトとの距離が近く、密接して生活している。これならば、野生動物から住人が病気をもらっても致し方ない、と思えたほどだ。

SARSの場合、ここから広州市に肺炎が広がっていく。

それが香港や世界にも広がっていった決定的な原因は、ホテルだった。

広州市で肺炎の治療にあたった医師が、結婚式に出席するため香港に出向き、九龍にある「メトロポールホテル(京華国際酒店)」に宿泊。同時期に同じフロアに宿泊していた宿泊客に感染して、香港、カナダ、ベトナム、シンガポールにまで拡散していったのだ。その後の香港の混乱ぶりは言うまでもない。

私が同ホテルに宿泊した当時は、医師の宿泊していたフロアと上下階を封鎖して営業を続けていた。その医師と同じタイプの部屋は、ツインタイプで窓際に小さな丸テーブルとソファーが2つ並ぶシンプルなものだった。夜になると、1階の小さなバーラウンジでフィリピン女性のボーカルの生演奏が響いていた。

ホテルを通じた感染拡大の恐れもある

1月24日から1月30日まで中国は春節の休みに入り、日本にも多くの中国人が観光に訪れている。SARSが拡散した当時の状況をみると、日本国内でも感染拡大の恐れがあるのは、まずホテルとも言える。

厚生労働省検疫所は武漢市などからの帰国・入国者に対して咳や発熱などの症状がある場合、検疫官に自己申告するよう呼びかけてはいる。だが、空港などで行われる、サーモグラフィーを用いた水際対策も、平均7日前後とみられる潜伏期間であれば熱もなく素通りできてしまう。

日本に訪れた中国人観光客がホテルの客室で発症するとも限らない。無力と言ってもいいだろう。

さらには、SARSでも存在したように「スーパースプレッダー(超感染拡大者)」と呼ばれる、1人で多人数に感染を拡げる特殊な感染者が出現する恐れもある。スーパースプレッダーが航空機に乗り込めば、座席周辺の乗客や乗員にも感染が広まっていく。航空機ほど気密性はなくとも、たとえば日本の新幹線に乗車して長時間移動すれば、それも感染拡大につながるはずだ。

それと、もうひとつ。

SARSは、野生のハクビシンが持ち込み、媒介してヒトに広まっていったとされる。

当時、広州市の野生動物市場でも、中国当局の指示ですぐさまハクビシンの取り扱い、販売は禁止されて、私が現地を訪れたときにも、どこにもハクビシンの姿を見ることはなかった。

だが、2003年当時の中国はコネが優先する社会であった。地元の住人の協力を得て、市場内のある店に交渉すると、奥から布を被った檻に入ったハクビシンを出してきた。


市場で出されたハクビシン(筆者撮影)

私が目にしたハクビシンは、前足の片方の先がなかった。仕掛けたワナにはまって、そのままもげてしまったのだという。ペットにするわけでもなく食用なので、そんなことは気にする必要もない。

むしろ、それが野生の獲物であることを物語る。

ハクビシンは風邪の予防によいとされて、現地では冬の前によく食される。ちょうどSARSの発生の時期と重なる。

今回、中国当局はSARS発生時同様、武漢の市場でも家禽の売買禁止、野生動物・家禽が武漢市内へ入るのを防ぐ封じ込め対策を進めているが、どこまで効果があるかは未知数だ。

新宿で大発生しているハクビシン

最後に、日本に持ちこまれた新型コロナウイルスが野生(というより、都市部に棲息する)動物を媒介に感染拡大する可能性にも言及しておく。

ハクビシンが、いま東京都内で大量に発生しているのをご存じだろうか。

たとえば、新宿区のホームページを覗けば、ここ十数年の間に、アライグマといっしょに急速に増えはじめ、対応に追われていることがわかる。都内での駆除数は毎年、数百頭単位で推移しているが、それでも追いついていかない。同区が貼り出した「野生鳥獣にエサをやらないで!」という注意書きポスターにはハトといっしょにハクビシンの絵まで描き込まれている。


「野生鳥獣にエサをやらないで!」という注意書きポスター(筆者撮影)

東京に持ち込まれた新型コロナウイルスを、再びハクビシンが媒介しないとも限らない。そうでなくとも、ハクビシンやアライグマは複数の人獣共通感染症を持つことで知られる。新型コロナウイルスも、タケネズミやアナグマが感染源とする中国専門家チームのコメントも報道されている。

今回の新型コロナウイルスは、どのくらいの感染力なのか、どのくらいの毒性なのか、いまのところ定かではない。

あるいは、どのように変化していくのか、現時点では予測もつかない。感染が広まらなければ、それに越したことはない。

とはいえ、これだけ地球規模でヒトの移動がたやすくなった時代だ。春節を迎え、中国人が日本に押し寄せている。中国の旅行会社の調査によれば、中国人観光客に人気の旅行先1位は日本だそうだ。SARS発生当時と比べ、訪日中国人の数は20倍以上に膨らんでいる。

過去の経験に学ぶのであれば、少なくともここに記しただけのことは知っておきたい。