働き方の選択肢が増えキャリアの道筋も多様化する今、自分のスキルの証明や、キャリアの可能性を広げるツールとして、あらためて、資格や検定に注目しました!
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■スキルを資格でアピール。キャリアの可能性も広がる

人生100年時代を迎え、私たちを取り巻く労働環境も大きく変化している。この先どうやってキャリアを構築していけばいいのか模索している人も少なくないだろう。そんななか、キャリアを切りひらく手段の1つが、資格や検定だ。産業カウンセラーでキャリアデベロップメントアドバイザーのいぬかいはづきさんは、その理由をこう話す。

イラスト=山本由実、以下すべて同じ

「終身雇用制度が事実上崩壊するとともに、働く期間が長くなるということは、キャリアチェンジの機会も増えるということ。その際に、資格や検定は、自らのスキルを客観的に証明する有効なツールといえます」

資格取得のための勉強は、その分野についての知識やスキルを体系的に知ることができるため、適性や興味を確認するのにうってつけ。

「もし教材を読んで、つまらない、難しいなどと感じるなら、向いていないと思ってよいでしょう」

資格のあり方も昔とは違い、「これさえ取れば安泰と言いきれる資格は、士業を含め、もはや存在しないといっていい。取ったあとで、どう生かすかが重要です」。

また、資格の学校「TAC」の内藤淳宏さんも、「以前は、資格取得=独立や転職を考える人も多かったのですが、今はキャリアの強化や自らの可能性を広げることを目的に取得する人が増えた」と話す。

では、いったい何を基準に資格を選べばいいのか。いぬかいさんは、資格選びの段階からしっかり戦略を立てる必要があると指摘する。

「重要なのは、最初にキャリアプランを描くこと。どんなキャリアを目指すのか、そのためにはどんなスキルが必要で、そこにたどり着くにはどのような道筋があるのか。それらを見極めながら、自分にとって必要なスキルが習得できる資格や検定を選ぶのが基本のスタンスです」

ただし、勉強すること自体にブランクがある場合、いきなり高い目標を掲げると挫折の原因にも。まずは、手が届きやすいところから挑み、勉強のコツやリズムをつかんでから徐々にレベルを上げていくのも1つの戦略だ。

■失敗しないためにまずはキャリアプランを

資格の選び方は「キャリアプランから逆算して考えること」といぬかいさん。「目指すゴールや“こうなりたい”という姿をイメージし、足りないスキルを資格で補う。資格はいわば、理想の自分と今の自分のギャップを埋めるツールです」

例えば、法律事務のスペシャリストになりたい! と目標を定めたら、実践的な法律知識が身につくビジネス実務法務検定を取り、さらに知的財産管理技能士や、個人情報保護法に対応した認定プライバシーコンサルタントなどで、専門性を高めていく、といった具合だ。

「目標とするポジションがあるなら、そこで働く人たちが持つ資格を取るのもよいでしょう」

もちろん、途中でプランが変わることもあるだろう。「定期的に自分の目標を確認することが大事」といぬかいさん。アパレル販売員だった人がショップ経営を目指し、簿記3級取得からスタートしたが、お金の勉強が楽しくなり、目標を“マネーコンサルタント”に変更。FPの資格を取得し、独立を果たした例もある。

もしゴールのイメージが明確に持てない場合は、今の業務に役立ちそうなものや、一般的にビジネスパーソンに必要とされるスキルが身につく資格や検定の勉強から始めよう。

「持っておいて損はないのが、お金の知識。数字に強いことは、働く女性にとっては大きなアピールポイント。会社のお金の流れを知るには、日商簿記検定がおすすめです」

資格の取得目的と組み合わせ方がカギ

資格や検定は、「組み合わせることで、より威力を発揮する場合がある」といぬかいさんは強調する。

「2つ以上の資格を取ってキャリアを強化することで、活躍の範囲が広がり、周りと差別化できます。もちろん、たくさん持っていればいいというわけではありません。肝心なのは、資格の取得目的と、どんな資格を組み合わせるかです」

効果的な組み合わせ方は2パターンあるという。

「最も一般的なのが、同じ専門分野の資格を組み合わせる方法です。IT系の職種なら、ITパスポート+基本情報技術者、経理や会計部門なら、日商簿記検定と英文の簿記であるBATIC(国際会計検定)など。この組み合わせのメリットは、専門性が明確で、その分野のスペシャリストとしてアピールできることです」

語学の場合、TOEICにプラスして何か資格を取りたいと考える人は多いだろう。今から取得するなら日商ビジネス英語検定がおすすめだ。

「仕事で英語を使うのは、会話よりメールが主流という企業も多い。この検定はビジネスに特化した読み書きのみを扱うため、実践的な能力を証明できます」

2つ目が、業務上関わりの深い分野の資格を組み合わせるパターン。

「例えば、社会保険労務士とキャリアコンサルタント。社会保険労務士は、主に社会保険にまつわる人事や労務管理の業務を行いますが、そこにキャリアコンサルタントの知識を加えることで、会社単位だけでなく、個人のキャリア形成のアドバイスも可能に。さらに、メンタルヘルス・マネジメント検定を組み合わせれば、働く人の心の健康までサポートでき、マルチな人材として活躍できると思います」。どんなスキルを身につけ、どう働きたいかを想定しながら資格を広げていくことが大切だ。

■IT、労務、マネジメント、金融……これから狙い目の資格はこれです!

「働き方改革や女性活躍推進法の改正など、労働環境の変化に伴い、人事や労務制度は知識のバージョンアップが必須。これらのスキルを持つ人材は、企業で重宝され、活躍が期待できます」と、TACの内藤さん。

特に、人事・労務・社会保険のエキスパートである社会保険労務士のニーズが急増しているという。

金融系では、新たに登場した年金検定と相続検定が狙い目。「制度が複雑で改正も多いため、詳しい知識を持つ人は、とてもニーズがあります。金融や住宅、不動産業界のほか、人事や労務に携わる人のスキルアップにもいいですね」

近年「管理職に問われるスキルも変化している」と話すのはいぬかいさん。「職場のメンタルヘルスが重視される今、部下の心の健康を保つことは管理職の必須能力。メンタルヘルス・マネジメント検定で理解を深めるのも手です」。ビジネスマネジャー検定は、女性管理職の増加とともに女性受験者も増えているという。

Case 1
職場の環境改善のために取った中小企業診断士が独立のきっかけをくれた

大学院を卒業後、“人と関わる仕事がしたい”と、設立直後の介護事業の会社でキャリアをスタートした松本典子さん。ところが、運営の混乱で現場は疲弊して、辞める人が続出する状態だった。「“このままではいけない”と自分なりに業務の改善に取り組んでみたものの、一社員ではできることが限られていて、職場全体の環境改善にまで至らなくて。どうすればいいのかわからず、悩んでいました」


松本典子さん

そんなとき、たまたま中小企業診断士という資格の存在を知った。

「マネジメントや経営について学ぶことで、もしかしたら問題解決の糸口が見つかるかもしれないと感じ、資格取得に挑戦することにしたのです」

とはいえ、難易度の高い国家資格。仕事と勉強の両立に苦労し、合格までに5年の期間を要した。

「1年目は勉強のリズムがつかめず苦戦し、2年目からは、受験指導校でできた仲間に刺激を受け、エンジンがかかりました。早起きしてカフェで勉強してから出勤、仲間とオンライン勉強会を開くことも。勉強を続けられたのは、仲間の存在が大きかったですね」

学びを通じて、経営やマネジメントの知識が深まり、職場環境の悪化の原因は、マネジメント教育の不足にあると痛感。現状を分析し、マニュアルやオペレーションを見直すなど、現場運営の地道な改善に取り組み、業務の効率化に貢献した。

資格取得は2016年、34歳。独立は当初の予定にはなかったという。

「独立してやっていけるか自信がありませんでした。でも、診断士の先輩たちからやりがいや面白さを聞くうちに心が動くようになりました。後悔したくないと思い、独立を決意しました」

勉強中に培った人脈を生かし、経営も安定。「人の役に立っているといううれしさや、本当にやりたいことができているという満足感があり、毎日充実しています。職場改善で悩んだ経験を生かし、介護施設のコンサルティングにも力を入れていきたいです」

Case 2
部下たちの心の健康を守りたい。メンタルヘルス・マネジメント検定で体系的に勉強

大手食品メーカーで室長を務める古賀尚美さんが、メンタルヘルス・マネジメント検定を受験したのは、職場のメンバーのメンタル疾患がきっかけだったそう。


古賀尚美さん

「メンタルヘルスに不調をきたす人は、世間でも随分増えているものの、いざメンバーがそうなると、責任者としてどう対応するのが正解なのかがわからず、不安を感じました」

それまで新しい業務に関わるたびに、スキルの習得やレベルアップを目指し、経営品質協議会認定セルフアセッサー資格や、食品表示検定などを取得してきた古賀さんだが、管理職に重要なヒューマン・リソース・マネジメントの一環として、メンタルヘルス・マネジメント検定試験の受験を決意。部下全員にチャレンジ宣言をし、勉強をスタートした。

「平日は通勤時間を使い、休日は図書館やカフェで集中的に勉強。通信教育を活用し、受験対策のスクーリングも4回受講しました。その後は、過去問題集を反復学習。内容が興味深く、集中して取り組めましたが、モチベーションを維持するため、勉強の合間に、ゴルフの練習やエステに行くなど、リフレッシュの時間もつくりました」

約半年間の勉強で、最も難易度の高いI種マスターコースに合格。学びの過程でも多くの気づきを得たと話す。「ストレス反応の種類や背景を体系的に理解できたことは大きな収穫でした。また、症状が現れていても安易に治療を勧めることはできないこと、業務に影響が出て初めて治療を勧める、ということも知りました」

メンタルヘルスに関する正しい知識を得たことで、以前より細やかなマネジメントができるように。

「普段の様子と違う部下に気づくことができるようになり、早期に声掛けすることで、メンタル疾患の未然防止につなげることができていると感じます。部下への接し方でも、説得するというより、じっくり話を聞くことを意識するようになりました」

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いぬかいはづき
産業カウンセラー
All About「仕事に活かせる資格」ガイド。産業カウンセラー、キャリアデベロップメントアドバイザー、心理相談員として、人材サービス業や行政の相談機関でキャリアカウンセリングに従事した経験を生かし、キャリア設計に役立つ情報を発信。

 

内藤淳宏
TAC 宣伝企画部 宣伝販促グループ 責任者

 

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(西尾 英子 イラスト=山本由実 写真=iStock.com)