ではなぜ、現時点で森保監督は続投すべき、とわたしは考えるのか。

 ひとつめの理由は、「プランB」が存在しないからだ。2018年のロシア・ワールドカップを前に、日本サッカー協会はフル代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督を更迭した。実に勇敢だが、きわめて異例な決断である。あのとき、日本の外から新たな指揮官を招聘する時間的猶予はなく、それは効率性も欠いていた。内部で事に対処できると踏んだがゆえの更迭で、手綱は西野朗監督に託された。

 しかし今回、森保監督は日本協会が主導で選んだ、オリジナルの内部スタッフである。すべてをJFAによってデザインされたチームが、森保ジャパンなのだ。よって内部に代役などはおらず、すなわちプランBも存在しない。

 
 2番目の理由は、お粗末だったU-23アジア選手権を教訓とできるかもしれないと考えるからだ。いわば逆転の発想で、ネガティブな結果は得てして、有意義に活用できる。

 今回の結果を受けて、あらためて海外ベースの選手たちの重要性が浮き彫りとなり、オーバーエイジを活用すべきかどうかの議論も活発になって然りだ。常識的に考えて、今回のチームから五輪本番のメンバーに残りそうなのは、橋岡大樹や相馬勇紀らひと握りだけだろう。森保監督はほとんど海外組のキープレーヤーを呼んでおらず、客観的に見れば、タイでの失敗がかならずしも東京五輪代表チームの失敗には直結していない。

 ハードなJリーグのシーズンとE-1東アジア選手権が終わったあとで、疲労困憊のBチームが時間のないなかで練習をこなし、結果を出せなかった。単純にそう割り切ることもできる。森保監督のマネジメントや用兵とは別次元の話だ。
 最終的な主要メンバーを並べてみよう。冨安健洋、堂安律、安部裕葵、板倉滉、三好康児、前田大然、中山雄太、久保建英といった逸材たちで、彼らに厳選されたオーバーエイジの3選手らが加わる。現時点でチームの連携面や意思疎通、戦術の相互理解などが未知数だとしても、やはり期待せずにはいられない。

 大事なのは主力のほかにどんな控えメンバーを選ぶかではない(本大会の登録はわずか18名)。ベストメンバーをいかに適切な起用法でチームに溶け込ませ、限られた時間のなかで機能させられるかどうかだ。決して容易いことではなく、力量に不満があるにしても、現時点で指揮官を交代させて間に合うとはとうてい思えない。

 五輪代表チームは3月に、アフリカ勢との2連戦を戦う(3月27日に南アフリカ戦、同30日にコートジボワール戦)。そこでようやく選ばれるのが真の五輪代表チームだろう。同じ時期にフル代表はカタール・ワールドカップ予選を消化するが、森保監督は五輪代表の強化に専念すべきと考える。そして本番直前にはふたたびトゥーロン国際に臨み、直前キャンプで戦術を練り込んでいくことになるか。いずれにせよベストメンバーが揃い踏みとなる期間は限定的で短く、ここでのガイダンスに間違いは許されない。森保監督も心中期するところがあるはずだ。

 U-23アジア選手権は失望に終わった? それは疑いがない。

 森保監督は失敗した? 明らかにイエス。

 では、彼はチームを去るべきか? いや、それはまだだ。東京五輪が終わってからの判断でいい。

 
 サンフレッチェ広島時代の森保監督を思い起こしてほしい。ミハイロ・ペトロビッチ監督の後を受けて指揮官となり、チームにJリーグのタイトルを3度ももたらしたが、政権末期には主力選手の流出などで低迷を余儀なくされた。素晴らしい成功を収めた一方で、悪しき流れを変える斬新なアイデアや新機軸を打ち出せなかったのが退陣の原因だ。

 いま、五輪代表チームに求められているのはまさにその刺激だ。同じ轍を踏まずに、東京五輪でチームを正しい方向へと導けるか。指導者である彼にとって、まさに試金石の半年となるだろう。

【画像】東京五輪世代のベストメンバーは?
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著者プロフィール
マイケル・プラストウ/1959年、英国のサセックス州出身。80年に初来日。91年に英国の老舗サッカー専門誌『ワールドサッカー』の日本担当となり、現在に至る。日本代表やJリーグのみならず、アジアカップやACLも精力的に取材し、アジアを幅広くカバー。常に第一線で活躍してきた名物記者だ。ケンブリッジ大学卒。