昭和・平成の節約とは様変わりした令和時代の新たなお金の使い方とは?(写真:ふじよ/PIXTA)

年が明け、令和2年が始まった。新年早々に勃発したアメリカとイランの紛争のおかげで株価は乱高下スタートとなり、明るいニュースが目立たない。足元の消費の先行きを見ると、子育て世帯などが使えるプレミアム付き商品券は3月いっぱいで使用終了予定、キャッシュレス決済のポイント還元策も6月末までだ。

秋以降にマイナンバーカードを使う還元案もあるにはあるが、このあたりで一気に増税ダメージが押し寄せてくる。


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あとは、東京2020オリンピック・パラリンピック頼みだが、景気浮揚効果がどこまで持つやら怪しい。それより働き方改革のおかげで残業代が減り、手取りが目減りしたという家庭もあるだろう。

また、同一労働同一賃金制度がこの4月から大手企業から順次スタートするが、普通こういうものは高きを低きにそろえるもの。正規社員の手当見直しなどで高かったほうの収入が下がらないことを祈るばかりだ。

残念ながら、こうした状況では節約志向は今年も続きそうだ。加えて老後不安は根強く、ますます消費を抑える方向に向かうといっていい。

では、われわれはどうやって生活防衛すればいいか。年始に発売される雑誌では、“新年こそ家計を見直そう”という企画が恒例で行われるが、いまだに昭和のままアップデートされていない家計アドバイスも散見される。

3つの元号を過ごす間に消費行動、そして世帯の風景もずいぶん変わった。令和の消費の常識は、昭和・平成とはかなりかけ離れていくだろう。その現状がわかっていなければ、時代遅れの節約思考のまま消費を続けてしまうかもしれない。そこで令和の時代、何が浪費の対象になっていくかを考えてみたい。

「安い食材を買って自炊し節約」は無意味

筆者は雑誌編集者時代、よく家計診断の記事を作ってきたが、見直しアドバイスにはパターンがある。

まずは、固定費の見直し。毎月かかる保険料や習い事の月謝、可能であれば家賃の引き下げや車を手放すこと。最近では、スマホを格安携帯に変えるというアドバイスも多く見られる。固定費が終われば、次は変動費だ。食費のやりくりでは、外食はやめて自炊に切り替える、ランチは弁当を持っていくなどの方法もよく聞く。

ほかに、交際費やらレジャー費やら、見直せるものを細々チェックして、赤字を消すというのがセオリー。また、夫婦のうち妻が働けるなら働こうというアドバイスも多い。

しかし、これはあくまで夫婦+子どもという世帯ベースの話。日本各地で非婚化が進み、増えつつある単身者の場合は、家計の姿がまるで異なる。筆者はこの1年、独身者の家計について話を聞く機会に恵まれた。そして、上記のような見直し術が、まるで役に立たないことを痛感している。そこに見えているのは、まったく別の生活風景だからだ。

まず、彼らの支出のメインボリュームを占めるのは、外食費そして交際費だ。食費がそっくりここに含まれるといっていい。家に帰っても1人だし、食事はしなくてはならないので、飲み仲間に誘われると必ず付き合う。

仲間との付き合いは大事だし、お金がないから行けないとは口が裂けても言いたくない。さすがにアルコール入りでは最低でも1回2000円、中には年下の子にはおごるもんだからと5000円は出すという女性もいた。

シングルの不可欠な支出「つながりコスト」とは

筆者はこれをシングルゆえの、「つながりコスト」と名付けている。誰かとつながるための食事代は、簡単には節約できない。例えば、ウイークデーの食事(ランチ含む)をすべて外食、1日平均3000円とすると、それだけで月6万円だが、これは珍しい数字ではない。

また、独身男性の場合、会話がしたくて女性とお話できる店に通う人もいる。「寂しさ支出」とでも言おうか。こちらも結構な支出額になるだろう。これまで料理もしたことがないそういう男性に「自炊に切り替えて外食を減らしましょう」というアドバイスが、まったく無意味なのはおわかりだろう。

いや、女性だからと言って誰もが料理が好きでも得意なわけでもない。食費のやりくり効果は料理スキルに比例する。安く買った食材を使い切る腕があってこそ節約といえるのだ。しかし、料理好きでない人が1人分の料理を作るのは逆にコスト高で、それなら惣菜や弁当を買ってきたほうが安いことも多い。

とはいえ、節約のために毎日牛丼のテイクアウトやコンビニ弁当で食費を抑えようとアドバイスするのも、何か違う気がする。シングルだからこそ誰かと食事したい、会話をしたいというコストは、減らしていいかと言えば、たぶん違うだろう。

入ってくる給料も1人分だと、家賃とこうした食費・交際費を含む「つながりコスト」で、半分以上使ってしまう。首都圏のワンルーム暮らしで家賃8万円に、こうした支出が5万〜6万円(安くて)だとすると、それだけで13万〜14万円。これに、日用品代や光熱費・通信費、レジャーや趣味にかけるお金(これもつながりがあるのでなかなか削れない)も発生する。

洋服だの美容費だのは、見るとそれほどかかっていない。いや、収支を見るととてもかけられる余裕がない。モノを買わない若者が増えたと言われるが、買わないのではなく、そっちに回す余裕がないのだ。

では、見直すべき固定費はどうだろう。

例えば家賃。シングルで働いている人たちが口々に言うのは、「駅に近い(または職場に近い)から引っ越したくない」という言葉だ。移動時間はコストである、というのは今どきらしい考え方だ。駅近物件には女性の場合は防犯上の理由もあるだろう。

となれば、やはり家賃を下げるために駅から遠くへというわけにはいかない。職住接近を好む傾向は共働き家庭にも共通で(保育園のお迎え都合などもある)、田舎に引っ越せば住居費は安くなるといっても、その選択はしにくいのだ。

次に、通信費だが、たしかに改善の余地があるように思える。スマホにネット、ほかにもWi-Fiを別に契約している例もある。プランの見直しやWi-Fiの解約をしてもいいのではと思うが、よく話を聞くとできない理由が見えてきた。

ニュースにしろエンタメにしろ、もはやTVでは視聴しない時代だ。ドラマも映画も、ほととんどネット。スマホやタブレットであらゆる動画を見る以上、ギガが足りないというのは生活の質に関わる大問題なのだ。

テレビで見ればかからないお金だが、家にもいないし、そういう時代ではなくなった。それに、インスタグラムやツイッターなどのソーシャル支出は削れない。これも一種の「つながりコスト」といっていい。

通信費については、ITリテラシーが高ければ、格安スマホやモバイルWi-Fiのプランの組み合わせで圧縮できる方法もあるだろうが、皆が最新のプランを比較検討できるスキルはない。アドバイスする側もそれに詳しいFPばかりではない。誰もが節約したいと思っているが、それでネットに制限がかかるのは耐えられないだろう。

このように、平成から令和にかけてお金のかかりどころは大きく変化している。「モノ消費からコト消費へ」とはよく言われるが、コト=体験という文脈で語られるのとは微妙に違う。

コトというと、自分が能動的に選択できそうだが、他者と一緒に行動する「つながりコスト」や「ソーシャル支出」は、なかなか自分ではコントロールできない。減らしたくても、それを阻む心理があるからだ。「付き合いが悪いと言われたくない」「年相応に稼いでいると思われたい(から、多めに払う)」、そういう第三者からの評価を気にするあまり、それを節約しようとは考えられない。

〇〇費を削る、という発想はやめよう

つまり、単純に食費や交際費を削りましょう、家賃の安い住居に引っ越しましょう、通信費のプランも変えましょうというアドバイスには、現実味がない時代になったということだ。高いなりに理由があり、厄介なことにそれが不可欠な支出になっていたりするのだ。

家計診断の際、「住居費は〇%」「食費は〇%」という目安を知りたがる人は多いが、その発想自体がナンセンスになりつつある。

昭和・平成の節約は、「やたらにモノを買うな。買うならなるべく安く買え」でよかったのだが、令和時代は、モノなどもともと買っていない。使っているのは、交際費やレジャー費というソーシャルな支出で、「我慢して減らす」という手法が取りにくい。

満足度の高い使い道を優先すべき

そのため、筆者自身はお金の使い方のアドバイスをするときには、「いちばん削りたくない費用はどれですか」と聞くようにしている。限られたお金を有効に使うには、自分にとって満足度が高い使い道を優先すべきだからだ。

自分が使いたい費目にはきちんと使う。その代わり、ほかの支出は我慢する。自分が満足できる使い方ができていれば、それほど寂しい気持ちにはならないものだ。使い道の優先順位をつけることで、節約のストレスは軽減できる。

やっかいな「つながりコスト」に関しては、友人との飲み会が外せないなら、店選びは自分がする。低予算で料理もおいしい、相手も満足する店をリスト化しておく。自分が主催すれば、いくらでおさめるかの算段もできるだろう。

とはいえ、月に5万も6万もかかっているのは問題だから、「行かない曜日」を決めるという方法もあるだろう。同じ曜日なら、誘われても「資格講座に通うことにしたから、これから水曜はダメ」なんて言い訳もしやすい。

誰かとつながりたいと考えるのは人間ならば当然だ。家族というユニットが分解し、1人ずつのユニット同士がつながっていく時代においては、「揺るぎない自分のお金の軸」を持たないと、そのコストは膨大に膨らんでいく。そして、貯蓄に回るはずのお金を食ってしまう。貯めにくい時代がやってきたと、つくづく思う。