マズい、効かない、古臭い。

そんな漢方を取り巻くマイナスイメージを払拭するべく活動中の、神奈川県鎌倉市大船にある漢方薬局「杉本薬局」の三代目、杉本格朗さん。

彼のやり方は人とは少し違っている。日々、薬局で相談を受けながら、音楽や映画のイベントとのコラボレーションなどを通して、世代を越え、漢方を広めているのだ。

じつは、漢方のポテンシャルはとても高い。現代を生きる私たちが必要とする場面や助けになることってたくさんあるのに、難しい話になったら誰にも伝わらない。今までの漢方がそうであったように。だから、世代を越えるような柔軟な共通言語を持った専門家が必要だと思った。

そして、話を聞くならこの人だ、そう思ったのだ。

困った人が漢方に辿りつける
ような入り口を作りたかった

--正直、漢方はちょっと古臭いイメージがあります。21世紀に漢方薬局の跡を継ぐのは大変なことでは?

 

「そうですよね(笑)。うちは祖父の代からですが、僕は大学は芸術学部へ進学して、染色や現代美術を学んでアートの道へ進もうと思っていましたが、父が体調を崩したのをきっかけに26歳の時に薬局に入りました。

ただ、子どもの頃から漢方薬を飲んでいたのに、知識はまったくゼロ。店に入った最初の頃は、何もできなかったです……。当たり前ですよね。それで父や祖父の知り合いの漢方の先生のところで学ばせてもらいました。親子だとケンカになったりしますので(笑)」

 

--今では漢方薬局の枠を飛び出して、音楽や映画のイベントとコラボレーションなどもしていますね。

 

「おじいちゃん、おばあちゃんものというイメージの濃い漢方を、もっと若い世代にも知ってもらう良い方法はないかと考えていました。医薬品は薬局・薬店でしか販売できないけど、和漢植物を使った食品ならイベントでいろいろな方に触れてもらえると思いました。

日常に美味しくて体にいいものを取り入れていただくのがスタート。食品は極端に体に作用するものではないけど、漢方に触れるきっかけになります。商品化する際には、どのようなレシピがいいのか頭を悩ませ、夜な夜な配合を0.1グラムずつ変えて試飲を繰り返していました。イベントを通して漢方のことを知った人が、困った時に薬局に来れるようになったらいいなと想像しながらでしたね」

漢方の間口を広げるべく杉本さんが開発した商品。一番人気の「薬膳十一包」は、サムゲタンもいいけどいつものお鍋に入れても美味しい薬膳鍋が出来上がる。他に、和漢のチャイやミントティーなども。

 

--そのように漢方の間口を広げる活動に、アートの世界に身を置いてきたご自身のバックグラウンドが活きているなと思ったことは?

 

「なんとなく“ものづくりの人たち”との共通言語があるというか、話が進みやすいというのはあるかもしれません。イベント主催者の思いのようなものを汲み取ってイメージを共有し、アイデアを出し合い、形にしていくことが身についたと思います。加えて、"おもしろそう"と思ったらやってみる姿勢も培われました」

 

--それにしてもアートや音楽などと、漢方。結構離れている業界の人たちがよく結びついたなあと思っていましたが……。

 

「ジャンルは関係なく、出かける先や、友人の紹介でいろいろな人たちと知り合えたことが、一番大きいと思います。

ライターさんもフォトグラファーさんも、皆さんきっとそういう経験があると思います。記事書くの手伝ってもらえる? とか、写真撮ってほしい! っていう時あるじゃないですか。お願いしたいなって思う人が周りに居たら。僕がなんかいい漢方ある? とか、漢方で何かイベントできる? って言われるのは、それと一緒なんだと思います。だから、今いろんなところに呼んでもらえたり、お話をいただいているのは、僕一人では到底できないことばかりです」

「漢方は効かない」という
イメージはどこからくるのか?

--杉本さんの活動を拝見したり、お話を伺っていると、漢方に興味が湧いてくるものの、やっぱり西洋医学の薬(新薬)に比べて「漢方は効かない」というイメージがあるんです。

 

「それは選んだ漢方が自分に合っていない可能性があります。漢方薬を病名だけで選んだり、『友達がいいと言っていたから』と選んだりすると合わないことが多い。今はネットの自己診断サイトなどを使えば比較的合う漢方薬を選べるようになってきてますが、漢方薬局で対面式に相談することで、細かなニュアンスや自分では気づかない体の状態を把握できます。

また、治療には漢方薬を服用するだけではなく、服用する時のコツ、養生の仕方なども大事になってきます。食事、睡眠時間、入浴、感情など、ライフスタイル全体を考える必要があります。

漢方薬には今困っている症状を抑える「標治(ひょうち)」と、悩みの根本を整えていく「本治(ほんち)」があって、不調によって使い分けができます。漢方は長く飲まないといけないものだけでなく、即効性があるものもあるということです」

 

--体質改善や、ダイエットと同じ部分がありますね。

 

「そうですね。長く悩んでいる症状ほど、改善する時間もかかることが多いです。ちなみに杉本薬局では、慢性の不調でもまず2週間分を飲んでもらうことが多いです。理論だけでなく、体がどんな反応をするか確認しながら進めていきます。ぴったり合うものだと、飲んだその日から楽になる人もいますよ。

効かないと思っても、もしかしたら漢方薬のおかげでそれ以上悪化しないのかもしれない。そういうことを見極めながら、一緒に治療を進めていきますので、思ったことや気になることは何でも言ってください。一概には言えませんが、かえって具合が悪くなるということがなければ、見直すタイミングは3、4ヶ月が一つの目安だと思います」

 

--最終的に、どのくらい飲み続けていけばいいのでしょう?

 

「漢方薬を飲んで体に必要なものが入ると元気になりますが、ある程度飲み続けるとそこがスタンダードに感じるようになります。適度なところまで整ったらあとは維持していけばいいんです。筋トレに近いですかね」

イラっとするメールを見た時
にだって、漢方は使えます(笑)

--では、いざ漢方を初めてみようとなった時、まず気になったのが、漢方と「生薬、新薬(西洋医学の薬)、サプリメント、ハーブ、アロマセラピー」との違いです。

 

「体に作用させるという意味では全部同じです。まず大きく分けると、ナチュラルかケミカルか。ただし、ケミカルな新薬も自然なものから抽出した有効成分を科学的に効率よくしたものなので、原点は変わりません。

よく聞かれるのはハーブとの違いです。漢方薬は木の根や皮、種などの硬いものが多くて、煮たり砕いたりして飲むことが比較的多い。ハーブは花や葉などの柔らかいものが多く、熱を加えるとえぐみが出たり成分が変わったりするので、お湯を注いで飲むとか、抽出してアロマオイルにする使い方が多いんじゃないかと思います。

サプリメントは足りないものを補う“食品”という扱いで、天然由来のものは僕も漢方と合わせて使います。漢方薬は、昔からその当時あるもので試してきたわけです。現代だからこそ手に入る素材もあるので、有効であれば、サプリメントと漢方の組み合せもおすすめです」

漢方の本でよく見かける「五行の図」が登場。やっぱりこの図は頭に叩き込まないといけない……?「本職にしている人は説明のために覚える必要があるけど、一般の方は覚えなくても全然大丈夫です」

 

--日常に漢方を取り入れるとしたら、どんな使い方がおすすめですか?

 

「朝昼晩の習慣に取り入れるといいと思います。寝る前に飲むと朝すっきり起きられる、目覚めの一杯にするとシャキッとする、疲労をやわらげて終業までがんばれる、お酒の席で翌日のために……といったものを飲んでみては? 僕はイラッとするメールを読んだ時などに、心を落ち着かせる漢方を飲んだりもします(笑)。心身を整えるためにも使ってみてください。

僕は、漢方を飲まない日はないです。ごはん食べるのと一緒です」

 

--新しいですね。薬局や病院で不調を相談して、「出してもらったものを飲む」という飲み方しかしたことがない人が多い気がします。

 

「薬局では、特定の悩みを持って来る方に対して改善できる漢方薬をお渡しすることが多いのですが、健康な方が来て、さまざまな不調のシチュエーションや、こういう時に飲むものがほしいという相談もあります。

例えば結婚式の前に肌を綺麗にしたい、プレゼンの前に緊張をほぐしたい、冬は体を冷やさないようにしたいとか。漢方には、とにかくいろいろなスタイルがある。どれをどう使うのが合うかは本当に人それぞれだから、まずは相談してみてください」

「“なんとなく不調だな”ということってありませんか。そういう、病院に行っても診断名がつかなくて、薬ももらえないようなことを、漢方が救えることもあるんです」

 

--そういえば、漢方は女性に広まりつつあるけれど、男性が飲むイメージはあまりないですね。

 

「女性は婦人科系のお悩みがあったり、体調の変化に敏感なのかもしれません。もちろん、男性でも生活習慣病や足腰の痛みが気になるなど、漢方薬局に来る方はいます。性別を問わず飲んでいいものなので、体が資本と考える人には広まっていると思います。

ちなみに人だけではなく、ワンちゃんやネコちゃんなど、動物にいい漢方もあります。実家の猫にも飲ませていました。漢方は素直な人の方が効きやすいと言われていて、そのせいか動物も効きやすかったりします」

独自の発展を遂げた
「日本の漢方」は世界へ

--世の中のイメージって、わりと「半分〜ライトな症状担当=漢方」みたいなイメージになっている気がします。

 

「そうかもしれませんね。でも、西洋医学、現代医学で治せなかったものが、漢方で良くなったりもしますからね。漢方もそうですが、昔から伝わってて効果があること、立証されてることっていっぱいあります。精神科医の星野概念さんともよく話しているのですが、まず、食事とか睡眠とか運動とかの『養生』があって、その先にサプリメント、マッサージ、鍼灸、漢方、新薬、手術。これが本来の流れだと思います」

 

--未来予想図というか、漢方はこれからどうなっていくと思いますか?

 

「今は西洋の医療がメインになっているけど、日常に漢方を取り入れる人がもっと増えたらいいなぁと思います。西洋医学を否定するわけではなく……漢方薬局に行くのが当たり前になって、西洋と東洋の両輪になったら嬉しいですね。

漢方は中国発祥ですが、土地や気候によって変わるもの。日本の漢方は日本向けに編集されて独自の発展を遂げています。日本の食文化のように漢方が“トラディショナル・ジャパニーズ・メディスン”としても、中国医学と共に海外でもっと知られるようになる未来を考えています」

「何でも病院に行かなきゃね、って思ってしまいがちだけど、漢方がいいこともあるんですよ」

 

サプリメントや栄養ドリンクを飲んだことはあっても、漢方薬には馴染みがない方が多いのではないだろうか。じつは、杉本さんを取材した私もその一人。「対面でのコミュニケーションを重視している」という彼は、漢方初心者にも穏やかな語り口でわかりやすく説明してくれる。

取材中も、お店には絶え間なくお客さんが訪れていた。「◯◯さん、今日はどうしましたか」、そんなふうにお客さんたちに接するのと同様に、難しくなりがちな漢方の話をどうしたらわかりやすくできるかを一緒に考えてくれているのも印象的だった。ネットの普及で人と話す機会が減っている現代では、心身の悩みを打ち明けられる漢方薬局のような場がきっと役に立つ時があるはず。日本の未来は「漢方」が元気にしてくれるかもしれない。

杉本薬局

住所:神奈川県鎌倉市大船1-25-37
TEL:0467-46-2454
営業時間:10:00〜18:30
定休日:木・日曜・祝日

Top image: © 2019 ETSU MORIYAMA
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