今回から話題を変えて、レーダーの話をいろいろ取り上げてみようと考えた。ちょうど2019年の暮れに、事業所があるニュージャージー州ムーアズタウンを訪れてきたことでもあるので、まずはロッキード・マーティンの製品から。

○航空機だけのメーカーではない

日本の新聞やテレビでは、なぜか未だに昔の名前で「ロッキード社」と書かれてしまうが、そのロッキードは航空機メーカーだった。しかも、今でもF-35をはじめとして、さまざまな航空機を手掛けている。それだけでなく、ヘリコプター大手のシコルスキーも、ユナイテッド・テクノロジーズから買収して傘下に収めている。

だから、ロッキード・マーティンと言えば、「航空機メーカー」というイメージが定着していそうだが、それは大間違いのこんこんちきである。ロッキード・マーティンには複数の事業部門があるが、そのうち固定翼機を手掛けているのはエアロノーティクス部門。F-35もC-130も、ここの担当。

それとは別に、ロータリー&ミッション・システムズという部門があって、シコルスキーのヘリコプターはここ。ところがそれだけでなく、イージス戦闘システムも、そこから派生した各種艦載指揮管制装置も、イージス戦闘システムの眼となるAN/SPY-1レーダーも、ロータリー&ミッション・システムズ部門の製品である。

今回はレーダーの話だから、そこに的を絞ると。ロータリー&ミッション・システムズ部門で手掛けているレーダーは、以下のように多岐にわたる。

AN/SPY-1レーダー

スペース・フェンス

LRDR(Long-Range Discrimination Radar)

HDR(Homeland Defense Radar)

AN/SPY-7(V)レーダーと、その派生型

AN/TPQ-53対砲兵レーダー

AN/SPY-1は御存じの通り、イージス戦闘システムの眼となるレーダーで、対空捜索を中核とする多機能型のパッシブ・フェーズド・アレイ・レーダーだ。

AN/SPY-7は、スペイン海軍の新型フリゲートF-110型に搭載する、新型のアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー。日本向けのイージス・アショアと、カナダ海軍の新型水上戦闘艦CSC(Canadian Surface Combatant)も、AN/SPY-7系統のレーダーを搭載するが、それぞれ仕様は異なる。

スペース・フェンスは宇宙状況認識(SSA : Space Situation Awarenes)用のレーダーで、マーシャル諸島のクエゼリン環礁に、頭上に向けてばかでかいフェーズド・アレイ・レーダーを据え付けるもの。これを使って、上空を通過するスペースデブリなどを監視する。

スペース・フェンス施設の模型 写真:USAF

LRDRはアラスカのクリアー基地に設置する、弾道ミサイル追尾・識別用のレーダー。HDRもミサイル防衛用の陸上設置型レーダーで、1号機はハワイに据え付ける。LRDRとHDRについては、米ミサイル防衛局(MDA : Missile Defense Agency)のFY2020予算文書に想像図が載っている。

これらのレーダー製品のうち、陸上で敵の砲弾やロケットが飛んできたときに追尾して発射地点を逆算するAN/TPQ-53は毛色が違うので措いておくとして。その他のレーダーに共通するのは、すべて周波数帯にSバンドを使用しているところ。

そして今のレーダーは、ハードウェアだけでなく、シグナル処理を受け持つソフトウェアの良し悪しがとても重要である。ロッキード・マーティンは、Sバンドのフェーズド・アレイ・レーダーをファミリー展開しており、その過程でハードウェアだけでなくソフトウェアにも磨きをかけてきたのだ、といえる。

○LRDRの作り方

そのファミリー展開の過程で、起点となったのがLRDR。横に5列、縦に2段、合計10枚のアンテナ・アレイを並べて、巨大な1面のアンテナを構成する。それが2面で、1つのLRDRができる。ロッキード・マーティンは2019年8月にアラスカ州クリア空軍基地にレーダーパネルを納入した。以下の写真で、トラックで輸送されているレーダーパネルを確認できるが、ここに取り付けるのが単体のアンテナ・アレイ。これが10枚でワンセットとなる。

アラスカ州クリア空軍基地のLRDRサイトに設置された最終ビーム 写真:ロッキード・マーティン

最初のレーダーパネルをクリア空軍基地に輸送するトラック。ニュージャージー州ムーアズタウンの施設を出る準備をしている 写真:ロッキード・マーティン

ロッキード・マーティンのムーアズタウンの事業所にあるLRDR試験施設。アンテナ・アレイが取り付けられている 写真:ロッキード・マーティン

1つのアンテナ・アレイは、高さ27ft(8.23m)だという。それを横に5列、縦に2段並べるので、アンテナ全体のサイズは20m四方ぐらいになる。いきなり20m四方のばかでかいレーダーを作ったのでは、製作もテストも輸送も大変だから、10分割になっている。

そして、テストも分割したアレイごとに実施する。それを個別に運び出して、現場で組み合わせるわけだ。テスト中のアンテナ・アレイも見せてもらったが、単独でもけっこうなサイズだった。それが10枚も並べば、もはやレーダーというより建物である。

その高さ27ftのアレイは、一体構成するのではない。まず、1列分の送受信モジュールを取り付ける、頑丈な金属製のフレーム(ストラクチャ)を製作する。それをジグに据え付けて、そこに上から下向きに送受信モジュールのサブアセンブリを差し込んでいく。この時、下がアンテナ面になる。

サブアセンブリは、窒化ガリウム(GaN)半導体を使用する送受信機とアンテナで構成するLRU(Line Replaceable Unit)、それと電源のLRUを一体化した構造になっている。断面サイズは1辺が30cm程度で、奥行きはそれよりも長いから、全体では細長い直方体になる。

1つのストラクチャは一列に送受信モジュールを並べるだけだが、完成した複数のストラクチャを起こして、横にズラッと並べることで、1つのアンテナ・アレイになる。

もちろん、送受信モジュールの位置を精確に保たなければレーダーの探知精度を確保できないので、ストラクチャは頑丈にできている。それを歪まないように、輸送したり据え付けたりするのも大事なノウハウだ。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。

マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。