イオンでは3月1日付で岡田元也社長が退任し、吉田昭夫副社長が社長に就任することになった。

 周知のようにイオン(社名変更前はジャスコ)はローカル企業の岡田屋、フタギ、シロの3社が提携・合併してできた企業だ。初代の社長は岡田卓也が1984年まで14年間務め、2代目の二木英徳氏が96年まで、その後は第一勧業銀行出身の田中賢二氏が就任したが、翌年、出身行の総会屋事件で逮捕されたため、急きょ、卓也の長男・元也氏が引き継いだ。

 その後、元也氏は23年と約四半世紀の間社長の座にあり、経営トップとしてイオンを営業収益8兆5182億円(2019年2月期)の国内小売りのトップの座に押し上げた。

 今回、社長となる吉田氏は83年にジャスコに入社。05年東北開発部長、09年イオンリテール関東開発部長を経て、11年にイオンモールに転じて中国開発統括部長、14年には常務取締役営業本部長兼中国担当。中国事業で頭角を現し、15年2月、同社社長に就任した。

 経歴の通り、開発畑が長く、16年にはイオンの執行役ディベロッパー事業担当も兼任。19年3月には代表執行役副社長に昇格し、ディベロッパー事業担当兼デジタル事業担当となったが、イオンが今後、最も注力していくデジタル事業の担当ということで、次期社長含みの人事と一部で取り沙汰されたが、予想以上に早いバトンタッチとなった。

 同社では今回の社長交代は、イオンが誕生して51年目となる2020年度のスタートにあたり、組織体制の刷新を図り、新しい環境変化に即応した経営スピード、多様性を重視した自律的運営により、グループ総合力の持続的成長を目的として行ったと説明している。

 そして、岡田社長は「これからの時代は変化が激しくなり、予測というものがリーダーシップのもとになると思う。吉田は予測して長期的な変化の見通しを考えることができる」と評価し、吉田氏に白羽の矢を立てた。

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思い切って若手を抜擢する選択肢はなかったか?

 2020年以降は、これまでと状況が大きく変わる。今までの状況や枠組みが変わらない中での平時から乱世への変化対応ではなく、100年に一度の社会構造の変化やテクノロジーのイノベーションが進む中、事業環境やビジネスモデルの大転換が求められる。

 その場面では過去の成功体験は役立つどころか障害となり、全く新しい発想が必要。異次元に到達する新たな羅針盤が必要となる。

 その点を考えると、吉田氏に限らず従来の延長線上で事業に携わってきた人たちは、その任に適任であるかといった問題が浮上する。

 岡田屋時代からジャスコに到る急成長を担った第一世代は既に引退したが、この世代はいい意味で野放図でバイタリティにあふれていた。吉田氏を含む第二世代は、どちらかというとテクノクラート(技術官僚)的な集団で、目の前にある現実的な課題解決能力は有しているが、新たな事態に直面したときの突破力があるかという点では「?」も付く。

 岡田氏と吉田氏は9歳しか離れていない。イオンは近年、トップマネジメントを担う若手幹部の育成に力を入れているが、その中で思い切って第二世代の下の世代を抜擢する選択肢もあったのでないか。

 ある面、閉塞状況にある小売業界の現状を打破するためには、リスクはあるが、ヘッドハンティングによる異業種のプロ経営者の招へいも有効ではなかったか。

 いずれにしても、今回は最も意外性に欠ける、順当な内部昇格という道が選ばれ、吉田氏にはほとんどの権限が渡されるが、会長になる元也氏が長期戦略を担うという役割分担の経営体制となる。

 ある意味、イオンの今後の新しい地図を描くのは依然として元也氏であり、吉田氏は現在の事業を変革して役割を担っていくことになる。

これまではM&Aを駆使した規模拡大でやってこられた

 イオンはGMS改革の途上にあり、スーパーマーケットの収益向上も課題になっているが、こうした場面で吉田新社長がどう手腕を発揮していくのか注目だが、その道筋は決して平たんではない。

 23年間の元也氏体制を一言で振り返れば、M&Aを駆使した規模拡大であり、それが小売業界トップの営業収益となった要因となった。これはバブル期に無傷だったイオン故になし得たもので、窮地に追い込まれた企業を傘下に収めることでダイエーをはじめ、問題を内包したままで膨張し続けてきたともいえる。

 自身の事業展開においても、かなり前から弱体化したGMS(総合スーパー)の抜本的改革には手を付けずに、ショッピングセンターのスケールアップに応じて、いたずらに売場面積を拡大し、さらに収益力の低下を招いてきた。スーパーマーケット事業でも規模拡大が優先され、競争力の向上はおろそかになりがちで、収益性は一向に上がらず、低空飛行状態。一方、ドラッグストア事業においても同じ手法で拡大路線を選択したが、こちらは市場の成長と軌を一にして順当に歩んで一大勢力となり、現時点では収益源の一つとなっている。

 こうした「明暗分かれる規模拡大戦略」だが、M&Aによる事業拡大も、ディベロッパー事業と並んで現在収益の柱となっている金融事業を筆頭に多角化ビジネスを展開する上でのプラットフォームとして多大な役目を果たし、あながち否定されるべきではない。

 ただ、こうしたプラットフォームを次代に向けてどう活用していくのか。今、その存在理由が問われており、その提示が経営手腕の発揮どころでもある。

今、必要なのは改革ではなく革新だ!

 イオンに限らず、小売りの役割そのものが問われる今。必要なのは改革ではなく革新であり、今までとは全く異なる新しさを希求することが求められている。

 巨大企業が自らイノベーションを行い変身するのは至難の業だが、それなくして次代への生き残りも危うくなる。その危機感もひしひしと感じられる中での今回の社長交代。

 交代に際して、元也氏は「社長の期間が長くなったのは恥じるべきこと。こんなに長くやるとは思ってもいなかった」と語ったが、就任期間の長さは問題ではない。その間、何をなし得てなし得なかったか、過去の成功より過去の失敗に今後のヒントが隠されている。

 新社長は現在の事業の改革をどこまで進められるか。そして、そう遠くない時期に明らかになるであろう新たな経営戦略が次代を切り拓く方向性を明示する羅針盤となるか注視したい。

 イオンと双璧をなすセブン&アイ・ホールディングスに目を向ければ、主力のコンビニ事業でさまざまな問題が生じており、GMSや百貨店事業の再生に呻吟する中で、経営体制刷新の可能性も否定できない。

 図らずも2大流通グループを迫撃するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(旧ドンキホーテホールディングス)も昨年、経営トップが交代した。流通の勢力地図が塗り替わる可能性がある中で、トップ人事は少なからず影響を及ぼす。その答えは10年後ではなく数年後に明らかになるだろう。