先日の日経新聞に『USMHの純利益71%減』というショッキングな記事が書かれていました。USMH(ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス)はマルエツ、カスミ、マックスバリュ関東を事業会社とする共同持ち株会社で、500店以上を展開する利益安定系チェーングループです。

 2019年2月期には営業収益6943億円、営業利益118億円の実績を計上していますが、今年度に入り業績が苦戦。2020年2月期 第3四半期(累計)では営業収益5143億円(前年同期比マイナス1.0%)、営業利益46億円(同マイナス39.1%)と、大きく減益になっています。

 3社単純合計の既存店売上高は昨比98.3%。作業の標準化といった生産性向上に取り組んだものの、販管費は昨比1.1%増加。2017年2月期以降の通期の数字をみると、売上高に占める販管費率は28.2%→28.5%→29.1%と上昇の一途をたどり、2020年2月期第3四半期(累計)では29.8%と前年同期比0.6%P上昇。その結果、営業利益率は0.9%と厳しい結果になっています。

 今後も人件費が上昇することを踏まえ、荒利益率を引き上げるか、販管費率を引き下げるための策を今すぐ講じるか。これらがなければ来期以降、成長を図るための営業利益率の確保はかなり難しくなるといえるでしょう。

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営業利益率1%未満の会社に時間の猶予はない!

 USMHの場合、売上げ対比0.6%分の販管費を年間額に置き換えると約40億円。まずは最低40億円のコスト増をカバーできる収益構造にすることを目標に掲げ、期首の3月から四半期ごとの改善ストーリーを描くことから始めるべきです。

 社長主宰プロジェクトでは、店舗実態の把握と柱となる40億円を捻出する主要企画を構築し、進捗管理をしてきますが、これを自社メンバーで時間をかけてやるのか、それとも第三者機関を活用してすぐに結果を出すのか。企業ごとのお考えがあるのでどうこういうつもりはありませんが、大事なことは「最も重要なことは何かを外さないこと」です。

 売上高対比の営業利益率が3.0%以上確保できていて、成長戦略コストも確保できるのであれば、第三者機関を使ってさらにスピードアップするのもいいですし、そこに自社社員を協業させ、再現可能な人材を数年にわたって育成するというのもいいかと思います。

 しかし、営業利益率1.0%未満の企業では成長戦略コストすら確保できていない自転車操業状態なわけですから、第三者機関を使ってでも何でも一刻も早く利益体質に変えなければ、融資や増資に依存することになり、経営の自由度がますます失われていきます(こうしたとき、私は「自社の社員で仲良しプロジェクト」という選択肢はありませんとキッパリ申し上げています)。

着手すべきは人件費、店舗運営部を中心に構造変換

 冷静に考えてみれば分かることですが、40億円というのは物流やシステム、保全投資といった主管部門だけでは改善できない額です。そこで、この実現には、小売企業の経費の中で最も高い人件費を扱う店舗運営本部を中心にコスト構造を変えていくことが重要になります。

 USMHの場合は販管費の半分を占める人件費の対売上構成比は15.6%(2019年2月期)で、金額にすると約1000億円。ここで1割生産性を上げられれば、100億円の削減も夢ではないのです。

「人がいないのに、これ以上人件費は削れない」という声が聞こえてきそうですが、もちろん少ない人数で店舗運営ができる改善策なしに取り組めば、管理職に過重労働負荷がかかってサービス残業の温床になったり、業務が終わらないのに仕事を放棄して帰るということが起き、最悪の場合、顧客は離れていきます。

 そこで、人時生産性の目標を設定し、それにより「どれぐらい店舗人件費コストが下がるのか」仮説を立て、試験運用し、検証し、誰でもできるように標準化していくのです。

 よくあるのが、主管部門が投資をしたにもかかわらず人件費が下がらないということですが、私が「そもそも主管部門の投資と店舗運営の改革は整合性をとって進めましたか?」とお聞きすると、「え?」と言葉に詰まってしまうのです。社内のメンバーだけでプロジェクトを進めると、こうしたことが起こり(表面化しないことも多いのですが)、無駄な投資となる場合が多いのです。

 例えば、物流トラックの積載効率を上げるために、混載を増やし、納品時間の決まっていない配送体制にすると、物流効率は上がります。しかし、それが店舗の作業指示書と一致してなければ、商品は店舗後方の倉庫に滞留し、その管理に新たな人を投入しなければならないといった利益相反が起こります。

 情報システムの投資も同じで、更新時期がきたからといって商品勘定や店舗損益といった今まで通りのシステムのまま更新するのではお金をドブに捨てているようなもの。更新の際には今後、必須となる店舗の生産性を上げるための人時割りレイバースケジュールの導入をすべきですし、店舗運営部がそれを運用していくための仕組づくりや教育訓練のための経費予算も設定しておくべきでしょう。

時間は「どうやればできるか?」に使う!

 大事なことは「できる、できない?」という審議に時間を費やすのではなく、社長自らが目標数値を宣言し、その後「どうやればできるか?」を探すのに時間を使うこと。この点を間違えないことが重要です。もし、社員に「できる、できない」という余計な選択の時間を与えると、抵抗勢力がここぞとばかりに頭角を現し、審議が進まなくなってしまいます。

 また、間違っても「できるところから」とか「各部で平均的に」といったやり方も禁物です。事実に基づくデータがなければ正しい判断はできませんし、最悪の場合、本部都合が優先され、店舗の人時生産性改善が後回しになって顧客離れを起こしてしまいます。

 経営者がこうしたときにすべきなのは、成長戦略を描くために人時生産性目標を掲げ、それを物流やシステムの改革、商品計画や改装計画の推進で達成させていくことなのです。

勝ち残るのは仕組み化を進め、変化を楽しめる会社

 USMHの過去3年間の営業収益は2017年2月期6848億円→2019年2月期6943億円と95億円も増えているのに、営業利益は143億円→118億円と25億円も減っています。

 今、国内の多くの小売りチェーンがUSMHと同じような状況にあるわけです。これを景気や競合、人口減を理由にするのは簡単ですが、見方を変えると、どんなに頑張っても利益が減っていくということは「どんなに頑張っても給料が下がる会社」であるということです。

(もちろん、全ての企業がそうなるわけではありませんが)こうした環境に慣れてしまうと、「どうせやっても変わらないのなら、余計なことをしたくない。職場で軋轢を生じさせたくない」と事なかれ主義の人が増加。何か新たな取り組みをやろうとしても変わることを嫌う人が社内に増殖していきます。

 そうすると、これから入ってくる新入社員や今20代、30代の人材が将来この会社を良くするために「身を粉にして夢中になって働いてくれるか?」ということに悩むことになるのです。

 一方、既に人時生産性の向上に取り組んでいる企業では、プロジェクト店舗を中心に時間の経過とともに店舗と本部の雰囲気が良くなっていきます。それは社長からパート・アルバイトさんに至るまで人時売上げの重要性を共有しているからで、売上げを上がる施策であってもボトムラインで儲からないことは基本的にやらないようになるからです。

 こうした決断ができるようになるには、全ての業務を俯瞰し、何が儲かって、何が儲からないことなのかを誰もが分かるようになることが重要で、改善のためのアイデアを出しやすい環境づくりも大切になります。

 例えば、変動する売上げに合わせて人時が使いこなせるようになると、手待ち時間や移動時間、やり直し時間が減り、人時売上げは上がります。こうして儲かならないことを減らし、そこで捻出した時間を儲かるコトに投資することで増益の体質になっていきますし、売上げが変動したときに「どういう方法で人時目標を再設定し、より良い結果を導くのにはどうすればいいのか?」と変化ありきで数値をコントロールできるようになると、何が起きても人時売上高の数値にブレがなくなっていきます。

 これからの時代に勝ち残る企業は、地域一番でも、自力でやり抜く企業でもなく、PBの商品開発や物流の改革に取り組む企業でもなく、こうした仕組み化を進め、変化を楽しめる企業です。さあ、貴社ではまだ人時売上目標を曖昧にし、利益のブレを容認しますか? それとも明確に人時売上目標を掲げ、日本のリーディングカンパニーを目指しますか?