筑波大学で講義をする落合陽一(右)と北田能士

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筑波大学で講義をする落合陽一(右)と北田能士

昨年9月29日、CGコンテンツのひとつの到達点となるようなイベントが千葉県の幕張メッセで行なわれた。"世界初、VTuber(ブイチューバー)がランウェイを歩く日"とうたわれたファッションショー&ライブイベント「FAVRIC(ファブリック)」だ。

総勢70体ものVTuberが舞台狭しと自在なパフォーマンスを見せ、ファンを熱狂させた。そのCGアニメーション制作を手がけた株式会社フレイム、株式会社 冬寂(とうじゃく)の北田能士(きただ・たかし)が今回のゲストだ。

"人ならざるもの"であるCGキャラクターに人の動きを入れていく行程を明かした前編記事に続き、後編ではCGの専門家である落合陽一(おちあい・よういち)のふたりが現在のVTuberバブル、そしてクリエイターの役割について語り合う。

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落合 火消しの仕事は特にそうですが、余裕がない中での作業が続いて、本番でミスるなんてこともあるんでしょうか。

北田 とんでもない事故もありますよ。自分たちは頑張ってどこよりも安く短期間でいいものを作った、やったぜ!って本番を見ていたら、なんかほかの会社が作ったVTuberのキャラクターがガクガク震えてたり、関節が取れてたり、エクソシストみたいに首が回ってたり、わけわかんない映像が流れるんですよ。シロウトでも出さないようなひどい映像で。

ところが、会場はそれを見て熱狂してるんですね。たまたまうちのスタッフにそのVTuberのファンの子がいたので、「これ大丈夫? キャラクターを棄損してることにならない?」って聞いたら、「こんなことで汚れるような弱いキャラクターじゃありません!」とか、「この場にいることが大事なんです!」とか、わけわからんこと言ってて(笑)。

落合 北田さんたちの仕事があってこそ、VTuberがステージに立つようなことが実現するわけですけど、今のVTuberバブルが弾けるのっていつくらいだと見てますか?

北田 僕は2020年には弾けると思います。個人でやっている人はもちろん続けることも多いでしょうけど、企業の場合、投資で回していますよね。今は一再生いくらという単価もめちゃくちゃ安くて、CMに一件出たところでまあ数百万円、高くて千数百万円。それにスタッフが3、40人もかかっているんだから、ペイできるわけがないんですよ。

落合 確かに、回収フェーズに上る気配がない企画も多いかもしれないですね。

こういう話をすると、CG業界はかなりヤバい世界だと思われるかもしれませんが、労働環境という面でいえば、かつてのアニメ業界よりはずっとクリーンになりつつある。それはいいことだと僕は思っているんです。根性で描いちゃっていた時代、アニメ業界の給与体系って、それはそれはすごいものだったわけで。

北田 そうですね。でもやっぱり、いまだにクライアントに対してまともな金額を請求しようとすると「あいつはイヤなやつだ」とか言われるみたいなところもあるので。どのタイミングで言うかというのがなかなか難しい。

落合 そこは業界を盛り上げていかなければいけないなあ、というところでございます。ただ、メディアアート業界も同様にどうやったら「職業として成立」するかを議論していかないといけないですね。メディアアーティストとして食っていくことができる人は限りなく少ないです。なぜかというと、そもそも市場がなく、誰がお金をくれるかわからないからです。

北田 そうですね。基本的にはマーケットが広く潤沢で、だけど自分の競合がいないというのが一番望ましいですね。

落合 またメディアアートの場合、例えば壁にプロジェクションする作品だったとして、その場で使っているプロジェクターを売るのは困難じゃないですか。コンテンツの一部を切り出して売るには彫刻の技術が必要だったり、写真を美しく撮る技術が必要だったりするわけで、売り方の難しさも、産業としては問題になっているなあと思います。

僕とか、(ライゾマティクスの)真鍋大度さんとか、今世に出ている何人かのメディアアーティストは、YouTubeがあったからよかったんですよ。これはシンプルな話で、数年前、テック的な意味で面白い動画がYouTubeでバズる時代がありました。その時代に動画を上げていた人は、広告や知名度につながったから食えたんです。

僕の場合は、2012年の『コロイドディスプレイ』が海外で数多く取り上げられたり、2013年の『音響浮揚』がその当時、全世界で最も再生された動画のひとつになって、それで外国から取材が来たり、メディアバリューが上がったりした。だけど、今は個人が出している"面白コンテンツ"じゃ、そこまでいけないですよね。だから何か違う窓口が必要なんじゃないかという気がしています。

メディアアーティストはそんな感じですが、では今、"CGクリエイター"を名乗る人ってどれくらいいるんですか?

北田 CG単体で金になるっていう人はなかなかいなくて、結局はアニメーション作家とか、違う何かになる。なので、CGクリエイター一本という人はほとんどいないんじゃないでしょうか。自分の作品で食ってるように見えて、実際は会社の経営者だったりするような人はいますけど。

落合 ただ今後、副業が当たり前の時代になると、クリエイターとして生きていく人の率は上がるんじゃないかと思っているんですが、どうなんでしょう。

北田 クリエイターで食っていくというのは"フォーマット感"に対してどう抗っていくかだと思うんですよ。お菓子でもなんでもそうですが、新しい価値を生むためには、まず流通を含めたフォーマットへの理解があって、それを若干無視するところから始まるわけですよね。

今の日本では、例えば家電なんかがそうですが、既存のフォーマットの下で単価が下がってきているものに対して、本来はそのフォーマットを逸脱して新しい価値を生まなきゃいけない。クリエイターじゃないとそれはできないはずなんですよ。でも、それがあまり理解されていない。

落合 確かに。

北田 たぶん自分も含めて多くの人が経験していることだと思うんですけど、「3億円の開発費があります。これで100億円の市場形成をして、そのうち50〜80%の市場占有率を持つものを開発してほしい。5年くらいで」みたいな話が来る。なんだかよくわからないけど、要件整理をして案を出してみると、なぜか「これは先行事例あるの?」と聞かれる。

落合 イノベーション開発なのに先行事例を?

北田 そうそう。「ないよ」っていうと、「事例がないものに金は出せん」といわれる。事例があるものを持ってくと、「新しくない」って。この問答、みんな一休さんから習ったのかなあという感じで(笑)。

落合 僕は最近、先行事例を出せといわれた時のために失敗事例をコレクションしてまして。1980年代に失敗したさまざまなプロダクトの例とかを集めて、「アップルはこの失敗を乗り越えました、昔はネットワークもツイッターもSNSもなかったけど、今なら......」みたいな話をよくやります。

北田 それはすごく前向きで、うまいやり方ですね!

落合 では、最後に学生さんからの質問を。

学生 CGが空間に直接投影されるようになったら、もっと面白いことがめちゃくちゃできるようになるんじゃないかと思うんですが、立体映像の投影技術が実装されるのはいつ頃になりそうですか?

北田 それは落合さんに聞いたほうが早い(笑)。

落合 それにはいくつか方法があって、一番手っ取り早いのは網膜に直接映像を入れる方法。ただ問題は、目に光を入れつつ光を吸収する、つまり黒色を高速に出すのがそこそこ難しいことです。だから"しっとり感"を出しづらい。キラキラしたものは割と出しやすいんですけどね。

もうひとつは、実際に空間に投影する方法なんですが、これはマジでもっと難しい。例えば、空気そのものを光らせるには本当にいろんなエネルギーが必要です。うちの研究室に空気を直接光らせて絵を描くレーザーがあるけど、一台数千万円から1億円くらいします。それで描けるのは5cmくらいのもの。音響浮揚を使ったディスプレイなどもあり、僕らも以前からやっていますが、まだ大きなものは描きづらい。今後ブレイクスルーが必要ですね。

北田 ある程度使えるモーションキャプチャーのシステムが5000万円程度なんですけど、1億円はキツいですねえ、さすがに(笑)。

落合 まあでも、研究するのは楽しいし、つくるのも楽しいですよね。というわけで、今回は北田さんに来てもらいました。ありがとうございました!

■「#コンテンツ応用論2019」とは? 
本連載は昨秋開講された筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。"現代の魔法使い"こと落合陽一准教授が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トークを展開します。

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士合取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来館を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望』(SBクリエイティブ)

●北田能士(きただ・たかし) 
CGクリエイター。CG制作プロダクションの株式会社フレイム取締役・マネージャー、株式会社冬寂代表。CGアニメーション制作、CGキャラクターをリアルタイムで動かすイベントを数多く手がけ、デジタルハリウッド大学、東洋美術学校で非常勤講師も務める

構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博