会社の生産性の向上を実現するためには「攻める経理」が必要だとされています。経理が担うべき役割とは?(写真:metamorworks/iStock)

「利益は上がるのにお金が貯まらない」「売り上げが伸びているのに資金繰りが厳しい」「給料は上げているのに、なぜか社員が辞めていく」「新規事業に打って出ても大丈夫かわからずに、いつも手遅れになる」……。

社長は日々、さまざまな経営上の悩みを抱えています。けれども、ただ漠然と思い悩んでいても、思考がぐるぐる回るだけでいつまで経っても解決に結びつきません。頭の中で漠然としている悩みから課題を見つけ出し、その対策を考え、行動し、解決していくには、どうしたらいいのでしょうか。

会社の中で「数字のプロ」といえば、経理です。数字のプロとして会社にとって必要な数字を出し、現在地点を示すとともに、数字によって目的地への道を描き出しています。

拙著『会社のお金を増やす 攻める経理』では、そうした経理の役割に着目し、「攻める経理」と名付けました。攻める経理と言われて、「え!? 経理の役割は守ることじゃないの?」と思うかもしれません。経理は単に決算書を作るだけでなく、「数字のプロ」として、数字からわかる情報を抽出しメッセージとしてわかりやすく伝え、活用することで、会社全体を変えていくことができる立場にいます。

経理ができるのは、過去にフォーカスして数値を集計し、資金繰りを守り、不要な支出を抑えることといった「守り」だけではないのです。経理こそ「攻める」ことに目覚めるべきなのです。

経理が持つ「宝の山」

最近、「ビッグデータ」という言葉をよく耳にします。「ビッグデータ」を使うことで、新しいビジネスチャンスを生み出したり、マーケティングに活用したり、効果的な広告の打ち方をしたりなど、さまざまな展望が開けるようになりました。

そして、会社においては、経理が把握している数字が「ビッグデータ」という宝の山といえます。鉛筆1本の領収書に始まり、経理が作る仕訳には会社のすべての行動がつぶさに記録されています。会計はビジネスの映し鏡です。現実のビジネスで起きている一挙手一投足を経理は数字に変換します。数字の情報量という点で、経理は圧倒的に優位に立っているのです。

しかし、目の前にあるせっかくの宝も、作るだけで精いっぱい、ただ持っているだけでは、価値を生み出すことはできません。宝の持ち腐れにならないためには、「どういう切り口で数字を使うか」という発想が必要です。

もし、今まで会社全体でしか数字を見ていなかったのだとしたら、もっとさまざまな切り口で数字を作れることにぜひ気がついてほしいと思います。例えば、売り上げであれば部門別はもとより、

• プロジェクト別、チーム別、個人別
• 客数×単価に分解
• 地域別、商品別、お客様別
• 時系列、気候との関連

など、いくらでも切り口が出てきます。このように、数字を細かく分析していくことで、全体の売り上げだけではわからなかったことが見えてきます。

「営業の売り上げは伸びているけれど、商品別で見ると、黒字と赤字の差が随分あるな」ということがわかったら、採算が悪い商品のテコ入れをしたり、販売を止めたりするなどの選択肢も考えられるようになります。

また、「このお客様の売り上げがこんなに高いのは、なぜなんだろう?」「この営業マンをほかの営業のモデルにしてノウハウを共有しよう」「生み出している付加価値が高いものを中心に活動しよう」などとさまざまな分析にも使えますし、投資や資金繰りの判断材料にすることもできます。

「経費削減」だけでは乗り切れない

現在、日本の中小企業は大きな時代の変わり目に立たされています。キーワードは「生産性の向上」です。

「働き方改革関連法」によって、企業における生産性の向上がよりクローズアップされるようになりました。子育てや介護などを考慮した、柔軟で多様な働き方は、これからますます一般的になっていくでしょう。これからの経営者には、社員が毎日遅くまで残業しなくても限られた時間でどう仕事をこなせるようになるかという観点が求められます。

また、労働者人口の減少は、人手不足を深刻なものにしています。今後、日本の少子高齢・人口減少に伴い、人手不足解消はますます重要なミッションになっていくでしょう。その意味でも、生産性の向上はもはや待ったなしで取り組むべき課題です。

無駄を見直すというと、「経費削減」などと締め付けに走りがちですが、もはや「経費削減」だけでは乗り切れないということを、実感していらっしゃる方も多いことでしょう。私が提案する「攻める経理」は、もっと別の視点から生産性向上を実現していきます。

「攻める経理」のことを、私は「経理の最適化」と呼んでいます。「経理の最適化」とは私の造語ですが、「最も効率的に数字を作り」「最も効果的に数字を使う」、その組み合わせのことを指しています。

数字を積み上げていき完成させるところまでは、誰がやっても同じ答えが出ます。ここはトコトン効率化をする。これが「最も効率的に数字を作る」というプロセスです。そうして出来上がった数字をいかに経営に活かしていくか、これが「最も効果的に数字を使う」ということです。「最も効率的に数字を作る」は「攻める経理」の第1のステップです。

そして、「最も効率的に数字を作る」ために必須となっていくのが、IT、クラウド、AI、RPA(Robotic Process Automation)などのテクノロジーの活用です。経理の現場にも徐々にAIが導入されつつありますが、AIの強みを活かしきれているケースはまだまだ少ないように思います。

それどころか、AIというと「自分の仕事が奪われるのでは」という不安のほうが強いようです。しかし、AIが得意なことと人間が得意なことは違います。AIに任せるべきところはAIに任せ、人間は人間がやるべき仕事にもっと集中し、「AIを使いこなす」立場に立ってこそ、「仕事を奪われる」どころか、より高い付加価値を生み、充実した良質な仕事ができるようになります。

AIによる「経理の最適化の時代」はすぐそこまで来ています。そのときになって慌てるのではなく、AIの強みを活かした経理とはどのようなものか、実際に活用を進めることが望ましいといえます。

効率化を阻んでいるのは経理自身

第2のステップは、「最も効果的に数字を使う」です。そして、ここにこそ経理が「攻め」となれる世界が広がっています。

経理は決算書や経理資料を通して自社のビジネス全体を見ることができます。会社の中の部署として経営陣を除けば、唯一「全体を俯瞰して見る」ことができ、同時に「詳細に分析する材料も持っている」部署になります。空港の管制塔のように、飛行機の離着陸や地上で起きていることを少し高い位置から全体を俯瞰して把握できる立場にあります。


「ミスなく数字を作る」という「守り」の役割は今後、AIなどの機械に任せることになっていくでしょう。しかし、数字が発信しているメッセージを聞き取り、そのメッセージを情熱をもって届けることは、数字のプロである経理にしかできません。

経理というと「ルーティン」というイメージが強く、経理担当者自身も「経理はルーティンワーク」と思い込んでいるかもしれません。しかし、私は経理ほど「クリエーティブ」な可能性を秘めた仕事はないと思っています。

安定的に利益を出し続け、社長も社員も幸せになり、夢を実現させる。そのために数字の力を使いこなす。そんなふうに経理がクリエーティブに「攻める部署」であるということを、社長もそして経理担当者自身も気づいてほしいと思います。

しかし、経理が「攻める」ためには、社長や経理が抱える問題、そして顧問税理士との関係など、解決すべきさまざまな障壁があります。例えば、「攻める経理」の第1のステップである「最も効率的に数字を作る」ことを阻んでいるのは、次のような経理のやり方です。

• 入力など、アウトソースや自動化できる仕事に多大な労力をかけている
• 「このやり方しかない」とこだわるあまり、ほかの人に任せられない仕事のやり方をしている
•自分にしかわからない複雑なエクセルシートを多用し、属人化につながっている
•一人ひとりが自分の力で頑張らないと効率化できない仕組みになっている
•クラウド会計ソフト、OCR(光学文字認識)、AI活用、アウトソースなど、作業時間を劇的に減らせる便利なテクノロジーに背を向けている

これらのうち、1つでも当てはまるなら、今こそ改善のチャンスです。