初代iPod、企画から発売まで約10ヶ月のスピード開発。「1月には名前さえなかった」
携帯デジタル音楽プレイヤーのiPodは、スティーブ・ジョブズ氏の復帰後にアップルが本格的な復活を遂げる足がかりとなり、ひいては後のiPhoneが開発される基礎となっています。そうした重要な製品が、最初の企画からわずか10ヶ月で発売されたことは、「iPodの父」ことトニー・ファデル氏も以前語っていました。

そうしたiPod開発の具体的なタイムラインを、ファデル氏から直接話を聞いたパトリック・コリソン氏(アイルランドの起業家。決済システムを提供するStripeの共同創業者にしてCEO)がTwitterにて公開しています。ファデル氏はHDDを搭載した携帯音楽プレイヤーを開発する会社Fuseを創業し、それをアップルが買収したことがiPodの始まりともいわれています。しかしファデル氏が2001年にアップルに入社した当時、iPodは名前さえなかった(開発コードネームは「P29 Dulcimer」)とのことです。
1月の第1週にアップルから最初の電話があり、3週目にアップルで第1回ミーティング、4週目にiPodを率いるコンサルタントになったという慌ただしさ。社内にはチームも試作品もデザインも、何もなかったと振り返っています。

しかし、初代iPodは年末までに完成しました。ファデル氏は同年3月にジョブズ氏に試作デザインをプレゼンし、4月には製造パートナーを見つけ(ファデル氏の入社もこの頃)11月には顧客への製品出荷が始まった駆け足ぶりです。

米9to5Macによれば、当時アップルのハードウェア部門の責任者だったジョン・ルビンスタイン氏は、東芝製の1.8インチ小型HDDを見いだしたとのこと。この製品は当時としては小型軽量かつ低消費電力であり、携帯オーディオ機器として初めて実用に耐えるものでした。ひいては初代iPodの成立もこれなくしてあり得なかったわけですが、ファデル氏のタイムラインと照らし合わせると、この最重要部品は1月初旬に見いだされたと推測されます。

当時としても驚くべきタイムライン効率には違いありませんが、おそらく現代の巨大化したアップルでは実行不可能と思われます。なぜなら新製品の発売とは、研究開発のみならず、1ヶ月当たり数百万台もの生産を支えるサプライチェーンを開拓することをも含んでいるためです。9to5Macは、初代iPodが発売された2001年以降、テクノロジーの複雑化が劇的に加速していると指摘しています。

その後のアップル製品でメインストリームを方向転換させるほどの製品開発のうち、「速い」といえるものは、およそ2〜3年といったところです。アップルは「タッチスクリーン電話プロジェクト」を本格的に始動してから約2年半後に初代iPhoneをリリースしましたが、この期間にはその前の調査や研究開発の歳月は含まれていません。

アップルによる自動運転車(通称アップルカー)や純正ARメガネ(アップルメガネ)は数年越しに噂されながら、一向に発表される気配がありません。それもアップルが時価総額1位の座に君臨し(たびたび転落していますが)全世界の市場に向けてほぼ同時に展開する重荷を背負っているからかもしれません。
Source: Patrick Collison(Twitter)
Via: 9to5Mac