【平野 和之】松屋vs吉野家、いま牛丼業界で「テイクアウト戦争」が激化してるワケ 外食産業で大切な3つのポイント

写真拡大 (全4枚)

集客手法でのバトル

大手牛丼チェーンは、これまで何度も「つぶれる」と思われるようなピンチを経験してきた。しかし、そんなときにこそ起死回生のヒットが生まれ、ピンチをしのぐことができた…というケースも多々ある。

窮地を救う「ヒット」とは「商品」のヒットと思われるかもしれない。しかしそればかりではなく「集客手法」のヒットによる起死回生もしばし見受けられてきたのが実際のところだ。牛丼チェーン業界に限らず外食業界の競争は終わりなき消耗戦ではあるが、「集客手法」バトルという側面も強いのだ。

〔PHOTO〕iStock

現在においてまず注目すべきは、松屋(松屋フーズ)の動きだろう。同社は11月5日から、牛丼の「自動販売機」を設置し始めた。報道によると、最初の一機はソーシャルゲームの大手・グリーのオフィスに設置され、今後もオフィス向けに提供される予定だという。自動販売機の商品は、近隣店舗から補充するのだという。

これは、消費増税の影響が大きい。お店で食べれば消費税10%がかかるが、自動販売機なら8%の「軽減税率」で済む。その「抜け穴」をついて売り上げを増やす狙いである。

松屋と時を同じくして、軽減税率をチャンスにする「消費税増税キャンペーン」を行ったのが、競合の吉野家だ。10月1日〜15日の期間でのテイクアウトの牛丼・牛皿の10%割引キャンペーンである。キャンペーン中は長蛇の列ができる店舗もあり、施策は成功したと言える。

松屋、吉野家は、「テイクアウト」戦争で熾烈な戦いを演じている。

消費増税というインパクト

ここで、外食産業の市場状況について確認してみよう。
 
7年にわたって続くアベノミクスは「インフレ」を目指す政策だが、そもそもインフレという環境は、ファストフードという業態にとっては逆風となる。賃料上昇、人件費上昇は、安さがウリのファストフードにとって価格競争におけるデメリットとなるし、一方で株高などの「資産インフレ」によって懐事情に余裕が出てきた客を高級飲食店に奪われるケースが多かった。

〔PHOTO〕iStock

しかしながら、二回の消費増税のダメージは予想以上に大きかった。

消費税は10月1日に10%へと引き上げられたわけだが、まず今回は思いのほか駆け込み需要が少なかった。その理由は、(1)そもそも景気が悪く駆け込む体力がない、(2)増税対策の軽減税率、ポイントバックなど個人消費喚起策もうたれており、前倒しする必要性がないと消費者が判断している、という2点が考えられる。

ともあれ、そのダメージは甚大だ。総務省が12月6日は発表した家計調査によると、10月はなんと前年同月比で5.1%も減ったのである。これは、前回の増税時(2014年4月)の減少を上回る数字だ。前回の増税の際には、消費税率が3%上がると個人消費を10%も押し下げる効果があるのか、と世界中から驚きの声があったが、今回も同じことが起きているのだ。

消費者の極めて「近い」場所にいる外食産業は、良きにつけ悪しきにつけ、最も消費増税の影響を受けやすいと言われてきた。実際に、牛丼業界の様子を見ればわかる通り、早くもその影響がはっきりと現れ始めているというわけだ。

デフレマインドが強まっている--誰もが理解できる状況だ。

今後もこのデフレトレンドは変わらないだろう。財務省による、財務省のための、財務省による政治が、日本の基本だからだ。安倍晋三政権は「経産省寄り」と言われるが、麻生太郎財務大臣の存在を考えれば、今後も消費増税ありきの議論が出続けると予想できる。

また、IMF専務理事が12月にいきなり消費税を2030年に20%にすることを提案したことに象徴的なように、世界からも日本の消費増税は永遠にテーマとして上がり続けている。国の破たんリスクなどの警鐘が鳴らされ続けるほど、国民の財布のひもは締まり続けていく。

ファストフードは、「早い安いうまい」中でも「安い」が競争優位性であり、それゆえ、デフレ時にこそ真価を発揮してきた。まさに今回の消費増税にも、牛丼チェーン業界はその変化に適応しているのだろう。

繰り返しになるが、牛丼チェーンなどの外食業界はデフレ状況に対する価格競争力は高い。少し脇道にそれるが、過去、価格競争において特に大きかった要因は、TPP、FTAなどによる輸入品の関税率の引き下げである。自由貿易協定で段階的に輸入関税が引き下がっていく。牛丼チェーンは値下げしてなお利益を上げられる構造となっており、価格競争によるキャンペーンをうちやすかった。

3つのポイント

こうしたデフレ経済において、外食産業が生き残るためには以下の3つのポイントが基本であり、それに絡んで、現状は「テイクアウト」が重要となる時代であるだろう。

キーポイントは以下の3点。これらは、今後も永続的な課題となる。

一つめは、GDPの「個人消費」のうち過半数を占めるシニア、高齢者、こうした層をどう取り込んでいくのか、ということ。

二つめは、「共働き世帯」をどう取り込むか。いま個人消費を底支えし、外食産業に大きな影響を与えているのは、共働き世帯の中食、総菜需要、テイクアウト需要である。

そして、三つめが「個食」である。高齢者は今後も単身化が加速する。若者の間では晩婚化が進み、非正規労働による将来不安からのデフレマインド、消費性向が高いのは、通信費、自由に使える高額消費需要はない。その中で魅力的に映るのは、普段から手間をかけられずに食べられる安いものか、「たまの外食」の際に魅力を発揮できるものである。

外食産業がフォーカスすべきは、この3点だ。

〔PHOTO〕iStock

シニアの場合、脂っこい食べ物は胃腸への負担が大きく「飽き」を感じさせてしまう可能性が高い。飽きのこない食べ物を提供する戦略とれるかどうかが重要となる。

続いて共働き世帯は、テイクアウトが重要になる。特に揚げ物など、多くの人が「家でやりたくない」と思うような料理の需要を喚起できる業態の企業は有利だ。また、子どもの食育、健康ニーズをうまく捕まえることができるチェーン店にも大きな可能性がある。

個食をターゲットにする場合、シニアにとっては、ロケーション--つまり、すぐに買いに行けるかどうか--が重要である。また、Uber Eatsを見ればわかる通り、若者〜中年世代にとっても、今後は「すぐに届けられる」「すぐに買いに行ける」という点も、需要喚起において重要な意味を持つだろう。

また、個食について盲点になりがちなのが「朝活」である。働き方改革の影響などにより朝はビジネスマンが活用する時間帯と位置付けられるようになってきている。セブンが朝の時間帯の割引キャンペーン「朝セブン」を、モスバーガーが朝食セット「朝モス」を始めてからしばらくたつが、各社も力を入れている。

上記のような戦い方があるなかで、今は集客手法による競争優位を外食産業の各社が狙っている。

なかでも、キャンペーン--特にSNSでのキャンペーン告知は即効性が高い。また、大規模店舗ほど多くの店舗での集客につながるので、この戦略の恩恵をうけやすい。

これも先行した成功事例があれば、他社もすぐに取り入れるので、先手先手でやる必要性があるが、直近でいえば、かつやの100円割り引きチケットは、リピート率50%などと言われており、他社も多く取り入れるようになっている。

テイクアウト割り引きも、今後は徐々に増えてくると考えられるが、そうなると効果も限定的となっていく。「テイクアウト」集客手法も効果は下がり続けていくと想定されるが、現状としては、消費税、軽減税率というインパクトのなかテイクアウトを活用するのが吉と各社が想定しているのだろう。

松屋の「自販機」の導入は、最初はオフィス街ということだが、今後の展開が見込まれ、「個食」や「共働き」への訴求力が期待される。他社もすぐにマネできてしまうというのがこの業界の業績や成否の変動が大きい要因にもなっている。特許など知財戦略で、同業他社がマネできない集客ツールを独占しづらいことも、この業界の競争が結局「価格ありき」になりがちな理由でもある。

松屋の今後の成長

最後に松屋に注目し、今後同社がさらなる成長ができるかどうかを考えてみよう。現在、松屋はテイクアウトに力を入れているが、「喫茶」「アルコール」のテイクアウトの需要は喚起できるだろうか? もし対応できるようになれば、ドトールなどのマーケットを浸食できる余地は十二分にあるだろう。

また、メニューについては、牛丼業界で未だに実現されていない、「A級(=高級)グルメ」は、デフレマインドの中でもいずれまた起こる「節約疲れ」や、二極化消費における「たまにお金を使うならいいものを」という消費を取り込める可能性がある。

かつて、ローソンの新浪剛史元CEOが、「コンビニでプレミアムが売れるとは思わなかった」という趣旨の発言をしていた。しかしローソンに限らず、今や「プレミアム商品」は、コンビニでこそ売れている。

同じことが、ファストフードでも可能である。かつてロッテリアが、A級グルメバーガーを出すなどの工夫が見られたが、筆者はこれよりも一層高級な路線を想定している。実際、回転寿司などではプレミアムで値段の高い商品がよく売れている。

店舗の立地がいいチェーン店は、ヒット商品が一つ出ればV字回復をすることができる。牛丼チェーンは好立地だからこの条件に適合している。

ヒントは海外にもある。海外では、「熟成肉」や「人工肉」など肉の種類も多様化している。同じく海外では霜降りより赤身が人気で、「ヘルシーな牛」という一見するとやや矛盾しているようなニーズも出てきている。

赤身肉〔PHOTO〕iStock

アメリカで成功したビジネスモデルの多くは日本で成功する法則も踏まえれば、海外で人気の牛丼のメニューにも、今後のイノベーションのヒントは隠されているかもしれない。いきなり導入すると、散々な結果に…という場合もあるけれど。