ヘンリー夫妻の公務からの「引退」を報じるイギリスのタブロイド紙(筆者撮影)

クリスマスから年明けまで、このところとんとご無沙汰だったヘンリー英王子と元女優でアメリカ人のメーガン夫妻。しかし、8日夕方、王室に「爆弾が落ちた」(サン紙)。夫妻が事実上、公務から「引退」する予定だと宣言したのである。

寝耳に水状態だったのがエリザベス女王、チャールズ皇太子、ヘンリー王子の兄ウィリアム王子。家族の中で「内戦」が勃発した。サンによれば、これはイギリスの欧州連合(EU)からの離脱「ブレグジット(Brexit)」をもじった、メーガン妃の王室からの「メーガジット(Megaxit)」なのだ……。

「辞める」という文字が躍る、イギリスの各紙

8日午後6時半ごろ、夫妻のインスタグラムで発表された声明文は、冒頭で、「何カ月にもわたる熟考と王室内の議論の結果、私たちは今年、王室の中で進歩的で新たな役割を作り上げることを決めました」と書いた。

「王室の『高位メンバー』から身を引き、エリザベス女王を十全に支援することを継続しながらも、財政的に独立するよう努力するつもりです」

そして、今後は「イギリスと北米との間で時を過ごしたい」と続く。そうすることで、夫妻の一人息子アーチー君が、「生まれついた王室の伝統を十分に理解するよう育てることができるとともに、新たな慈善組織の立ち上げを含む、私たち家族にとっての新たな時期に集中する空間を提供することになります」。夫妻はメーガン妃が生まれ育ったアメリカばかりか、仕事で数年を過ごしたカナダで多くの時を過ごす予定であることがわかってきた。

夫妻は、「エリザベス女王、チャールズ皇太子、ウィリアム王子などとともに協力を継続しながら、次の段階について」情報を共有していきたい、と述べている。

発表があった翌日9日付の新聞を開くと、「辞める(quit)」という言葉を数紙が使っている。保守系「デイリー・メール」「デイリー・テレグラフ」「タイムズ」、リベラル系「i(アイ)」も同様だ。声明文では「高位メンバーから身を引く」という表現が使われていたけれども、やはり単純に言えば、「王室の公務から退く」「辞める」という言葉がぴったりなのだ。

金融経済紙「フィナンシャル・タイムズ(FT)」は「公的視線から身を引く(pull out from public eye)という表現を使ったが、記事そのものは1面に出た。とにもかくにも、「一大事」なのである。

筆者の周囲で、ヘンリー夫妻の決断について聞いてみた。朝、子供たちを保育園に連れていく途中のスザンナさんは、「どっちでもいいけど、どうせ有名人なんでしょ? お金がたくさんあるんだから、働かなくてもいいのよね」と感想を漏らす。

「メーガンさんは、ずいぶんとメディアに追われていたわよね。公務から遠ざかるのは無理もない。これで楽になるんじゃないかしら」とスザンナさんの友人、シベルさん。2人とも、EUからの移民の女性たちで、英王室にとくに強い思い入れがある、というわけではなさそうだ。

デービッドさんは、年金生活者。「これで税金が使われなくなるなら、うれしいね」。しかし、結局は税金が使われることになるのではないかと懸念しているようだった。

「王室知らなかった」「財政的に大丈夫か」

一方、BBCや新聞各紙の報道を見ると、最大の批判は「女王やほかの王室メンバーが知らない間に、事実上の引退宣言をしてしまったこと」。

BBCは、王室が「傷ついた」と9日付で報じた。ヘンリー王子夫妻の将来については王室内で話し合いがあったけれども、まだ「始まったばかり」だった。BBCの王室担当記者によれば、今回の声明文の発表で、「王室は不意打ちを食らった」。王室の公式見解が出たのは、ヘンリー夫妻の声明文発表から30分後であったという。

この点に勝るとも劣らないのが、夫妻が「財政的に自立したい」と表明したことへの批判だ。もちろん、それ自体はいいことなのだが、夫妻のウェブサイトによると、ウィンザー城にある、巨額をかけて改装した自宅フロッグモア・コテージにはそのまま住み続け、かつ夫妻とアーチー君の警備費用(年間65万ポンド=約9200万円=といわれている)も、これまで通り負担してもらう予定だ。

つまり、「公務は退くのに、王室のメンバーであることから生じる特権は手放さないのではないか」という疑念である。

英王室は公務援助のために「王室助成金」を受け取っている。これは「国王の公の不動産(クラウン・エステート)」からの収益で、その多くが国庫に入るが、一部が助成金という形で女王に戻されている。ヘンリー王子夫妻の場合、その公務の5%がこの助成金で賄われており、残りは父親チャールズ皇太子のコーンウォール公領からの収入による。

今後、夫妻は王室助成金を受け取らない予定だ。夫妻によると、現行では「収入を稼ぐことを禁じられて」おり、これからは職を得ることで状況を変えるつもりだ。

ヘンリー王子は王位継承権順位では6位だが、メーガン妃とともにその人気は非常に高く、インスタグラムのフォロワーは10万人を超える。最新のメッセージには、すでに140万以上の「いいね!」がついている。どのような状況下でも、「食いっぱぐれはない」と見るのが普通ではないだろうか。

マスコミが「トラウマ」に

さて、ヘンリー夫妻はなぜ事実上の「引退」を選択したのだろうか? 噂の1つは、兄のウィリアム王子夫妻との「亀裂」だが、2018年のウィンザー城での華々しい結婚式以前から、過熱報道の渦に夫妻が巻き込まれ、これが相当のプレッシャーになっていたことは周知の事実。

ヘンリー王子とメーガン妃は、交際開始時点から、メーガン妃がアフリカ系アメリカ人で、離婚歴があることから、バッシングの嵐となった。

結婚式直前には、メーガン妃の父トーマス・マークルさんの「やらせ写真」疑惑(娘の結婚を待つ様子を、いかにも「たまたまカメラが撮影した」風に見せた)、結婚式への不参加、揚げ句は、娘から来た手紙を新聞に持ち込んだという事件も発生。メーガン妃は自分の家族に大きな心理的損害を受けることになった。

プライバシーを重要視するヘンリー夫妻と、メディアとの「対決」があらわになったのは、アーチー君出産騒動。通常であれば、ウィリアム王子の妻キャサリン妃のように、どこで子供を産むかをあらかじめメディアに伝え、出産直後はカメラの前に姿を現すが、メーガン妃はどこで子供を産むかをいっさい明らかにしなかったため、メディアが右往左往した。

昨年には、民放ITVの番組の中で、いかに執拗にメディアに追われたかについてメーガン妃が涙ながらに語った。同時期、ヘンリー夫妻はタブロイド紙の過熱報道を訴追する動きに出て、メディアを敵に回した。ITVの番組の中では、兄ウィリアム王子との亀裂をヘンリー王子が示唆する場面もあった。

ヘンリー王子が母のダイアナ元王妃を失ったのは、13歳になる直前。同妃はパパラッチに執拗に追われた揚げ句、交通事故に巻き込まれたとされており、ヘンリー王子がマスコミを嫌悪するのは想像にかたくない。母だけでなく、妻まで犠牲になるのは避けたいと考えるのは当然だろう。

今のところ、ヘンリー夫妻の決断を「人間らしい」と共感を持って評価する声はイギリス内では少ないが、長い目で見れば、「ヘンリー夫妻は新たな王室の姿を作った」といわれる可能性がないわけではない。

次の「あっと驚く」動きは何か。しばらくは夫妻のインスタグラムをチェックするしかない。