よしだ あきお:1960年5月26日生まれ。1983年4月ジャスコ(現イオン)に入社。東北開発部長、イオンリテール関東開発部長、イオンモール国際企画部統括部長などを経て、11年イオングループ中国本社取締役。12年イオンモール中国本部長。14年同社常務取締役、15年2月から社長。16年3月イオン執行役ディベロッパー事業担当。19年3月イオン代表執行役副社長ディベロッパー事業担当兼デジタル事業担当。趣味はウオーキング。 photo/室川イサオ

 国内のショッピングセンター(SC)が転換期を迎えている。新規開発は停滞し、残されたポテンシャルのある立地も限られてきた。買物の中心だったファッション専門店の勢いも衰えている。SCに活路はないのか。イオンモールの吉田昭夫社長にSCが向かうべき方向と同社のこれからの戦略を聞いた。

――国内においてはSCを取り巻く環境が大きく変わり、SCは転換期を迎えている。

 吉田:環境はデモグラフィック(人口動態)、特に地方における人口減やEC(電子商取引)の影響など言い尽くされています。大切なのはどうアクションを起こすかです。それによって企業間で差が出てくると思います。

 国内でも地方都市と首都圏などの都市部では商環境や求められるものは異なります。だから各施設がよりローカライズし、エリアで求められるものにきめ細かく対応して、マーケットシェアを高めていくことが重要です。

 当社は今活性化と増床に重点的に投資をしています。その地域に本来あるべきなのに欠けているものは確実に補完をし、今まで地域になかった体験や買物をプラスして提案していけば、エリア内シェアが上がる。エリアの消費額は減少しているかもしれませんが、そこでシェアを上げれば、その施設は伸びていくという組み立てです。

――市場シェアの変化を見る指標は。

 吉田:基本的には客数で見ています。売上げも大切ですが、施設の来店客数を落とさないことです。人口減やECなど施設から流出するトレンドがある中で客数が落ちないのなら、それ以上の魅力があって人が集まる施設になっているということですから。

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今後はコミュニティの場が求められる

――客数増のための施策は。

 吉田:今の時代に、そしてその地域に求められていることを満たせばお客さまは施設に足を運びます。

 例えば自分の健康を維持したいという志向が高ければ、スポーツクラブが必要かもしれない。駐車場は潤沢にある。ついでに買物もできる。地方では高齢者が車の運転ができないと交通弱者になる。区役所を回って、買物をして、郵便局に寄るという行動はストレスになる。それらがモールでそろえばワンストップで解決する。前はワンストップショッピングと言いましたが、地方都市ではショッピング以外も含めたワンストップ機能が求められます。

 モールは地域のインフラに近づいていきます。だから来館すればほとんどのことが済む当てにされる施設になりたいと思います。

――地域でシェア争いになれば淘汰(とうた)が起こる。

 吉田:淘汰が起きるのは人口減や高齢化、ECなどの影響によるものです。従来の物販中心型ではECで事済むので淘汰されやすい。物販以外の部分ではエンターテインメントも重要です。それがあれば買物もできるし1日楽しむこともできる。

 サイトを比較して安い物を買うことはできますが、でも実店舗の魅力はそうではないと思うのです。今後はコミュニティが求められると見ています。今は画面の中でいろんなことができますが、人と人の触れ合い、友達が欲しいとか、趣味の会に参加したいといったニーズは逆に高まると思うのです。

 イオンモールの料理教室で2、3回顔合わせると「また見えたの」とか「今日はお茶でも飲んで世間話でもしない」といった形で交流が生まれる。地域の行事もそう。地域の人たちのコミュニティをうまく組成できればまた違う一つの柱になります。

 だから淘汰という他社との競合目線でなく、お客さま目線で施設をきちんと造っていかないと見るところを間違えてしまうと思うのです。

――自社競合もかなり起きているのでは。例えばイオンモール白山(石川県)が2021年夏に開業するが、新小松(同)やかほく(同)、高岡(富山県)など既存の自社施設にも近い。

 吉田:マーケットを分析し、そのエリアで取れていないマーケットがどれくらいあるのかを積算して、その立地で成り立つと判断しています。

 白山は北陸自動車道白山インターチェンジにも近く、商圏が広がるので、お客さまは違う使い方をすると思うのです。白山はエンターテインメントに力を入れ、1日居ても飽きない施設にしていきます。

増床と活性化が国内の好調を支えている

――今期の出店は19年9月に開いたイオン藤井寺SC(大阪府)だけだが、上期は国内も増収増益だった。要因は。

 吉田:一つは活性化です。今期は4月に東浦(愛知県)、名取(宮城県)、沖縄ライカム(沖縄県)、9月に高岡(富山県)を増床しました。総賃貸面積の増加量は新店2店分に匹敵します。

 東浦は01年に開業した古い店でお客さまから見ると幾つかの「不」があった。フードコートはいつ行っても満員で、飲食店の数が少ないとか、子供の店ぞろえが満足できないとか。今回の増床でフードコートは1000席に倍増し、レストランゾーンも増床棟に移設。キッズも強化しました。

 増床は同じ場所に大型化した新店を造るという考え方です。増床棟を造るときに既存棟も合わせて造り直します。東浦は16%の増床で上期の売上げは改装前の70%増。お客さまが不便に感じていたことが解消し、欲しかったものが導入されたからです。

 9月に増床した高岡も北陸新幹線の新高岡駅ができて、駅側に増床棟を建設しました。ファストファッションの店ぞろえが欲しいという声に応えて強化し、1日遊べるアミューズメントも充実しました。動線も整理して、計画以上に推移しています。

 モールが高齢化し陳腐化するとリニューアルで若返らせ、鮮度を上げる。すると魅力が高まりお客さまが集まる。専門店の入れ替えだけでなく、コミュニティが生まれるイベントスペースなどさまざまな機能を導入しています。

中国事業が黒字化、ASEANはさらに伸びる

――海外事業について。中国は上期にとうとう黒字化した。その要因は。

 吉田:08年に進出しましたが、出店数を実質的に引き上げたのは14年度からの5年間です。元々3年目に黒字化する計画を組んでいたので、開業3年以内のモールが多いうちは赤字がたまりやすかったのです。

 今後は黒字化したモールが多くなったので、新店を2、3店出店しても十分そのコストを吸収でき、ずっと黒字が続くというステージに入ります。

 中国では専門店との契約は商慣習で3年間。14年度からモールを増やし始めたので、活性化のタイミングに入りました。そこで日本と同様に活性化や増床を仕掛け始めているところです。

――増床に向けて着工したモールは。

 吉田:武漢1号店の武漢金銀潭(湖北省)です。絶好調ですが3階建てだったのを4層にして、差別化のために4階を全て飲食フロアにします。

――6月に開業した常熟新区(江蘇省)の動向は。

 吉田:好調です。競合が少ないエリアでマーケット規模が小さい街かと思いましたが、シェアがきちんと取れています。最新のデジタル技術を導入した斬新さも受けています。

 新店は他に、山東省2号店の青島西海岸新区を11月28日に開業します。デジタルではモニターに顔を映すだけで開閉する顔認証のロッカーやレジを導入します。常熟新区でうまくいっているデジタルは全部入れます。

国内でもスマートモール化の実証を始めた。写真はLED付きフィルムを利用した透明サイネージ。吹き抜けガラスに貼って透過画像などを映し出す。

 実は日本でも幕張新都心(千葉県)からスマートモール化の実証を始めます。シニアの方がモール内を移動するショッピングモビリティという乗り物も導入。目的はモール内でお客さまのルーチンな行動を軽減することです。

 例えば既に導入しているインフォメーションサイネージ(館内案内板)ではフードコートやトイレの混雑状況が分かるのでその場で「混んでいるから先に買物を済ませよう」とか「3階のトイレが空いている」とか分かります。モール内で起きるルーチンを少しでも減らして、モール本来の買物やイベントを楽しんでもらいたいのです。

 中国の青島西海岸新区でもスマートモール化を進めます。デジタルデバイスは中国の方が進んでいるので、中国で実験をして、支持されるものを日本に持って来て、良ければ国内で水平展開をしていきます。

 すると先ほど言ったスポーツクラブやエンターテインメントなどに加えてデジタルがモールにオンされてくる。そんな形で今までの商業施設とは少し違った切り口を持つモールにしていきたいと思っています。

 海外にはスタートアップ企業が多いので、彼らと海外で試してみて、良かったら日本に持ち込むというのも海外展開しているメリットかもしれません。テナントにしても、海外で付き合いがあり安心だから日本1号店はイオンモールに出店するケースが多い。海外は収益を上げるだけではなく、シナジー(相乗効果)としても結構使えます。

――ベトナム、カンボジア、インドネシアの3カ国で展開するASEAN(東南アジア諸国連合)地域も伸びている。

 吉田:ベトナム5号店となるハドン(ハノイ市)も12月5日に開業します。ハドンは日本に造っても最先端のモールです。デジタル技術だけでなく店ぞろえも、食の空間とか大空間を使ったエンターテインメントも。

 ASEANはマーケットが全然違います。ベトナムの平均年齢は今30歳くらい。彼らは結婚して子供ができて、これからイオンモールが国内で大きく伸びたころのニューファミリー層になってくる。人口ボーナスもこれから出てきます。そこに200店の専門店を構えて、3000台以上の駐車場を擁する最先端のモールを造れば、人は来ます。お客さまも先進国の文化を取り入れて、生活が良くなってきています。

 だから商品だけではなくて、コトの方まで先取りしておかないと。するとイオンモールは新たな体験ができる施設というブランディングができ、良いテナントが入って事業性が上がるというサイクルになってくるのです。

ノリタケの森ではオフィスを併設する

――今後の国内の出店は。

地域の魅力を磨く「究極のローカライズ」企画に力を入れている。「モールの社員が地域の人と会って、地域を肌で感じてほしいから」と吉田社長。。

 吉田:国内は東日本大震災後から20年のオリンピックもあって建設需要が大きく建設コストが高止まりしています。だからよく吟味して出店していきますが、2、3店ずつは出店していきます。立地特性を含めて地域マーケットに求められるもの、従来とは少し違うモールをそれぞれ造っていきます。

 都市部の例ですが、21年秋に開業するノリタケの森(愛知県)ではオフィスを併設します。

 ショッピングモールとオフィスのシナジーは非常に良いと思っています。物を売るだけではなく、地域インフラ的な要素を入れたモールの上にオフィスがあれば、用事は全部その中で済みます。ノリタケの森はモール内に病院があり、休憩時間に行ける。ランチも取れます。会社帰りにはスポーツクラブに寄って、カルチャーセンターで英語を習って、奥さまはスーパーマーケットで買物ができる。しかも駐車場がある。ワンフロアを大きく造るので横移動ができるコミュニティ型オフィスになり、今のニーズに合っています。

 地方でもシェアオフィスがモール内にあれば、そこで仕事をして、帰りは買物をして帰る。子供はモール内の保育園に預ける。そこでライフワークバランスが取れるかもしれません。

――20年冬に開業する利府 新棟(宮城県)は。

 吉田:既存棟よりも大きい6万9000屬凌慧錣鯊い蠅泙后4存棟へはブリッジで渡る。利府は施設も小さいし古くなってきたので、最新コンテンツの新棟を開発し、既存棟はリニューアルして一つの商集積をつくります。

――20年秋に開く上尾(埼玉県)は。

 吉田:どちらかというとコミュニティ型SCに近い。広域ではなく濃密な商圏なので近隣の方が便利なデイリーニーズ型にします。

――来期以降の増床のペースは

 吉田:年間2、3店のペースです。来期は20年春に高崎(群馬県)、座間(神奈川県)、秋に高知(高知県)の3店を増床します。座間はシネマ棟とスポーツクラブと住宅展示場を加えます。

ASEANのモールの3分の2をベトナムに

――今後の海外出店は。

 吉田:インドネシアではセントゥールシティとタンジュンバラットの2店も着工し来期に開業。ベトナムではハイフォン レ チャンを開業します。カンボジア3号店も着工しました。今後の海外出店はASEANにウエートを置きます。特にベトナムは重点国です。

――中長期的に25年度にASEANのSC数を中国と同数の35店に拡大する計画だ。その時点でベトナムの数は。

 吉田:20では少ない。マーケットの成長に追い抜かれます。20SC以上は造っておきたい。それくらいのマーケットだと思っています。今はハノイとホーチミンを中心にドミナント(地域集中出店)エリアを形成しますが、徐々に地方都市まで手を掛けていかないと手遅れになると思っています。

――中国では湾岸部から内陸部にシフトする。々樵評福浙江省、∨無・天津・山東省、8佶名福↓す東省――の4つのエリアでドミナント化を進めてきたが、ほぼめどがついたと。

 吉田:いや、まだまだ。マーケットを考えると全然足りません。これまでのドミナントは進めながら、湖北省から内陸部に広げていきたいと考えています。例えば武漢にはまだ3SCしかありませんが、新幹線の縦ラインと横ラインのクロスするへその場所なので、縦ラインの南北に伸ばしていって、南の広州につなぎたいと考えています。

――新タイプSCの研究は。

 吉田:18年4月にジ アウトレット広島(広島県)を開業しましたが、あれも良かった点、悪かった点を含めて一度考えないといけません。車で20分の距離にある広島府中(広島県)には全く影響を与えなかったのは良かった。間もなく駐車場の増設を始めます。

――東京・自由が丘でも開発を進める。これはどんな形態になる。

 吉田:検討中です。立地が立地だけにいろいろ考えています。

――今後のSCの在り方、向かうべき方向は。

 吉田:SCという一律な捉え方ではなくて、その地域をきちんと把握して、求められるものがその施設の中にどれだけ充足されているかを考えるということ。また当てにされる施設として地域インフラとしての要素が求められてくるということです。物を売るだけの商売ではなくて、地域の利便性を高めることも施設としての役割になってくると思います。

  

※本記事は『販売革新』2019年12月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。

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