アルメニア共和国(以下、アルメニア)という国をご存じでしょうか? 多くの方は名前を聞いたことがあっても、「どこにあるのか」「どんな特徴があるのか」など、アルメニアについて詳しくは知らないかもしれません。

Wikipediaでは、「アルメニアはアジアとヨーロッパの間にあるコーカサス山岳地帯にある国で、旧ソ連の構成国でした。キリスト教を国教とした最初の国でギリシャ・ローマ時代のガルニ神殿、4 世紀に建立されたアルメニア教の総本山エチミアジン大聖堂をはじめとした、宗教建造物で知られています。ホルヴィラップ修道院はトルコとの国境沿いにある休火山とアララト山の近くにある巡礼地です」と説明されています。

この文章を見て、アルメニアはIT先進国という印象を受けないかもしれませんが、実は、国家としてIT教育に力を入れており、プログラマーが職業としての高い地位を持っている国でもあります。この点においては、日本よりはるかに進んでいる国かもしれません。

今回、日本で外国人エンジニア派遣に力を入れているヒューマンリソシアの協力を得て、 アルメニアで活躍されている建入弘樹さんに話をうかがいました。

コーカサス山岳地帯にある共和国

建入弘樹さん

--建入さん、今日はお忙しいところありがとうございます。早速ですが、自己紹介をお願いします--

建入氏: オーストラリア国立大学を卒業後、大手外資系企業に就職し、その後、外資系スタートアップの立ち上げを行いました。2014年からは日本国内のベンチャー企業へ事業企画部長として参画し、チケット2次流通マーケットプレイスの拡大に従事しました。さらに、ベンチャー企業の顧問やアドバイザーを経て、アルメニアのNGO「Leadership School(日本でいう松下政経塾のようなもの)」の拡大ならびにアルメニア共和国の開発と発展事業を行うため、アルメニアへ移住し、新規事業の立ち上げ、エンジェル投資、現地IT企業の支援など、複数のプロジェクトへ関わっています。

--素晴らしい経歴ですね。それでは、アルメニアのプログラマー事情についてお話しいただけますでしょうか--

建入氏: アルメニアでもプログラマーは比較的に人気な職業だと思います。理由はいくつかあります。

まず、アルメニアの平均所得と比較して、プログラマーは圧倒的に稼ぐことができます。また、起業する上で、プログラマーは優位です。アルメニアは国家を挙げてIT事業を支援しており、IT企業として登録された会社は最初の3年間法人税無税、被雇用者として会社で働く人間の個人所得税が一律10%になるといった特例があります。また、現地でIT起業のインキュベーションなどを通して、ITの発展を支援する団体(例えばFAST)などからの資金援助や投資も、他の分野と比較して多いです。さらには、海外へ移住を考えているアルメニア人にとっては、他国でも仕事が見つかりやすい優位性があります。

--他の国をインタビューした際にも、プログラマーの給与は高いとよく聞きます--

建入氏: 一般的な職業の平均的な給与額が月間300ドルから500ドル程度であるのに対し、ITエンジニアの給料は初任給で700ドル、中には1000ドルを超えることもあり、7年以上の経験とサクセストラックレコードを持つシニアエンジニアは月に4000ドル近くをもらうこともあります。

--確かに、平均所得の10倍以上となると、人気は出るでしょうね。IT企業は創業3年間、所得税がかからないというのもすごいですね。アルメニアはIT教育も進んでいると聞きました--

建入氏: そうなんです。アルメニアにはプログラミングの基礎を無料で受けられる最先端の施設「Tumo Center」があります。「Tumo Center」は対象年齢に当てはまれば誰でも通うことができます。具体的には、幼少期〜18歳までの子供・若者に対し、プログラミングやコンピューターグラフィック、ゲーム制作など、興味に合わせたカリュキュラムを提供します。

建入氏が共同創業者で関わっているLeadership School Foundationが一貫として行っている子供支援事業

--無料で受けられるのであれば、教育費が捻出しにくい家庭でも、ITの教育は受けられるということですね--

建入氏: そうなんです。ちなみに、チェスも義務教育として取り入られています。チェスを通して、数学的な論理的思考が鍛えられると考えられています。このことは、アルメニアの若者がITの道へ進んだ際に基盤を整える点で大いに貢献しているのではないでしょうか。

--。素晴らしいです。ちなみに、現在、人気のプログラミング言語と人気の理由を教えていただけますか--

建入氏: 今はC#や.NETが人気です。個人的な推測もありますが、使っている人が多く、需要も高いからではないでしょうか。鶏と卵になってしまいますが、広く使われているから需要があるのか、需要に応じて多くの人が使うのか、どちらが先かはわかりませんが。

なお、Pythonの人気が高まっていますが、Pythonエンジニアのコスト(給料)が高いこともあり、Pythonでなくても対応できるプロダクトを提供している現地の企業が多い印象です。結果として、需要が高いC#や.NETのエンジニアを多く見かけます。

--ちなみに、日本人プログラマーがアルメニアで成功する可能性はありますでしょうか? また、どのような人が成功しやすいでしょうか?--

建入氏: 成功するかしないかを一言でいうことは難しいです。ただし、次のような傾向は言えるかと思います。

日本でプロダクトやサービスを自ら企画して作ったことがあるエンジニアは成功しやすい

アルメニアのIT企業のほとんどは、他国からの受託開発を生業にしています。その結果、自らプロダクトを企画したり、サービスを立ち上げたりという能力や経験に関しては、十分高いレベルにあるとは言えません。そのため、自らプロダクトやサービスを企画して作れる能力は、大変価値が高いと考えられます。特に、「ビジネス視点からITを応用して作り上げたサービス」は、アルメニア人が不得意な分野であるため、チャンスがあると思います。

一方で、アルメニアのITは純粋なテクノロジー(ディープテック)において世界的に見ても比較的強く、日本が弱い分野であるため、日本でそこそこのレベルのディープテック系のエンジニアでは、現地のアルメニア人エンジニアに勝てないかもしれません。

いずれにしろ、英語などの言語能力や環境適応力・柔軟性は必須ですね。アルメニアのエンジニアはコミュニケーション能力が高く、異文化間でコミュニケーションを図ることができる能力は、アルメニアで成功する上で大切だと思います。

著者プロフィール

○吉政忠志

業界を代表するトップベンチャー企業でマーケティング責任者を歴任。30代前半で同年代国内トップクラスの年収を獲得し、伝説的な給与所得者と呼ばれるようになる。現在は、吉政創成株式会社 代表取締役、プライム・ストラテジー株式会社 取締役、一般社団法人PHP技術者認定機構 代表理事、一般社団法人Rails技術者認定試験運営委員会、BOSS-CON JAPAN 理事長、一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会 代表理事を兼任。