2020年は東京オリンピックの野球も開催されますが…(写真:tamu1500 / PIXTA)

2020年は日本野球界にとって節目の年になるだろう。おそらくはここから厳しい未来が待ち受けている。

12年ぶりの五輪は規模も内容も「ミニマム」

今年は日本野球にとって12年ぶりの「オリンピックイヤー」だ。2008年、北京オリンピックの日本代表の指揮官は故星野仙一だったが、東京オリンピックでは稲葉篤紀が侍ジャパンの指揮を執る。

しかし、正式競技とはいえ、東京五輪の「野球競技」は、規模的にも内容でも他の競技に比べてかなり見劣りがする。

まず、出場国はわずか「6」である。北京以前は「8」だった。これ以下だといきなりメダルがかかる試合になる。ミニマムと言ってよい。


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開催国の日本は出場が決まっている。現時点ではアフリカ大陸予選を勝ち抜いたイスラエル、五輪予選を兼ねた今年の「プレミア12」で日本を除くアジア地区で最上位になった韓国と、同大会でアメリカ地区で最上位になったメキシコの出場が決まっている。

残る2つの枠は、2020年3月アメリカで行われるアメリカ大陸予選の勝者と、4月に台湾で行われる世界最終予選の勝者に与えられる。


2019年11月、プレミア12台湾ラウンドで 台湾は残る「2」のオリンピックの切符を目指している(筆者撮影)

1月の時点では、野球の宗主国であるアメリカの出場が決まっていない。アメリカはMLB機構、MLB選手会が主催するWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)を「野球の世界一決定シリーズ」にしたい思惑があるので、オリンピックには非協力的だ。

アメリカ代表にはいわゆるメジャー契約(40人枠)の選手は出場していない。

マイナーリーガー、そしてメジャーをリタイアした選手で代表を組んでいる。WBCでは上位に進出する有力国のドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコなどの国が五輪予選で振るわなかったのも、MLBがこれらの国のメジャー契約選手の出場を許さなかったからだ。

アメリカ代表にはジョー・アデルなどトッププロスペクト(超有望株)も出場しているが、残る枠を獲得できるか微妙だ。ドミニカ共和国、台湾、オーストラリアなどがライバルになろう。

そして現時点では、五輪野球競技は「東京五輪でおしまい」だ。2024年のパリ五輪では採用されなかった。日本は2028年のロサンゼルス五輪に期待をかけているが、肝心のアメリカがまったく乗り気でないので、その道は厳しいだろう。

日本では人気競技の野球だが、野球がメジャースポーツなのは北中米と東アジアだけ。他の地域ではマイナースポーツだ。世界中で人気があるサッカーやバスケットボールに比べても普及エリアが偏っている。

野球に理解がない国からは「長すぎる」「ルールが複雑すぎる」というクレームが絶えない。そのため野球ソフトボールの世界統括団体であるWBSC(世界野球ソフトボール連盟)では、ルールの見直しに着手しているが、従来の野球愛好者からの反発は大きい。

少年野球人口は10年前の3分の2以下に

2020年は、日本の少年野球の競技人口が、はっきり低下に転じた「2010年」から10年目に当たる。この時期から小学校(学童野球)、中学校(中体連)の野球競技人口が減少。今では10年前の3分の2以下になっている。この間、少子化も進んでいるが世代人口の減少は5%程度だから8倍ものスピードである。

原因としては、地上波でのプロ野球中継の激減、野球ができる遊び場の減少、格差社会が進行する中での親の負担の増加、競合するスポーツの増加、そして「昭和の体質」が抜けない野球のイメージ悪化、などが考えられる。おそらくはこれらが複合的に絡み合って急激な競技人口減につながっていると思われる。

野球界もようやく「野球離れ」対策に取り組もうとしている。これまで「野球教室」といえばユニフォームを着た小中学生に大人が指導するものだったが、今では未就学児童、小学校低学年に「野球の楽しさ」を感じてもらう取り組みがメインになっている。

筆者はプロ、大学、高校などによる「普及活動」を数多く取材しているが、やり方は異なるものの、どのイベントでも子どもたちの満足度は高く、それなりの手応えはあるようだ。

本来ならば「東京オリンピックの野球競技」が、人気回復の起爆剤になることを期待したいが、オリンピックで感動した子どもが野球を目指しても「次がない」状態では、効果は限定的だろう。

2018年夏の甲子園での金足農、吉田輝星の過酷な登板に端を発した「球数制限」議論は、2019年11月、日本高野連が委嘱した有識者会議の提案によって一定の決着を見た。「7日間に500球」という目安は、改革派からは「実質的な投げ放題だ」と言われる一方で甲子園の伝統を重んじるサイドからは「断じて容認できない」と言われている。この問題については別の形で改めて詳述するが、わずか1年で結論まで至ったのは、腰が重い野球界にしては異例のことだった。

そういう意味では野球界も動き出してはいる。しかし取材をしていて感じるのは「このままでは反転攻勢に出るのは難しい」ということだ。

プロ、大学、高校などで普及活動に携わる担当者に話を聞くと必ず出てくるのが「私達はやれることをやっています」という言葉だ。「この取組は素晴らしいから、他の団体にも広めてはどうですか?」と聞いても口は重い。少なくともこちらから働きかける意志はないようだ。

野球界は各団体がバラバラに存在してほとんど連携していないのだ。プロ野球は過去にルール破りの引き抜きを行ったためにアマチュア野球とは長らく絶縁状態だった。アマ資格回復など雪解けは始まっているが、まだまだ障壁がある。高校、大学、社会人、そして独立リーグなどもほとんど連携していないのが現状だ。

だから「野球離れ」に対する取り組みはみんなバラバラだ。手法も目的もみんな違っている。そうした取り組みを自分たちのテリトリーに限定して展開しているにすぎない。

「野球振興」という最終の目的は同じだが、文字どおり足並みが乱れているのだ。もちろん、現状に対する危機感から、各地域では野球団体に横串を刺して問題を共有する「野球協議会」が生まれている。

しかし、現場ではなかなか話が進展しない。昨年の日本野球科学研究会第7回大会では指導者ライセンスをまとめることになっても「あいつの言うことを聞くのはいやだ」といった低次元の主導権争いになるという発表があった。端的に言えば、各団体の上層部にいる年配の幹部には「野球離れ」に対する危機感が希薄だ。それよりもメンツを重んじ、「新しいことは何もしたくない」という保守性も感じる。

新潟県の先進的な取り組み

例外的に新潟県では、小学校、中学、高校の硬式、軟式野球の各団体が結集した新潟県青少年野球協議会が「野球少年の未来」を考えている。筆者は年末に新潟ベースボールフェスタの取材をしたが、各団体の関係者が垣根を超えて集まり、野球ひじ検診や野球教室を運営していた。


2019年12月、新潟ベースボールフェスタの様子(筆者撮影)

日本高野連の「投手の障害予防に関する有識者会議」ができたのは、前年のこのイベントで、新潟県高野連が4月の県大会から「球数制限」を試験的に導入すると発表したのがきっかけだった。

世間は新潟県高野連の決断を驚きをもって受け入れたが、この決断は、新潟のすべての野球団体の総意だった。長い議論と試行錯誤のうえで、こうした決断に至ったのだ。

例えるならば日本野球界の各団体は「野球界」という同じ船に乗り合わせた「船客」だ。今のところ船客たちは他の船客にはほとんど目もくれず、自分の船室だけに補強をしたり、目塗りをしている。

しかし、嵐が来て船がひっくり返れば、どんな補強をしていようともすべての船客はもろとも遭難するのだ。自分だけが助かることはないのだ。

自分たちの船室のことだけでなく、船全体のことをみんなで考え、カジ取りしない限り、これから来る「嵐」を避けて船を保つすべはないのだ。

2019年11月末になってプロ野球のオーナー会議で、競技人口やファンを増やすため、全国各地にある独立リーグやクラブチームとの連携を検討することが発表された。関係者の話を総合すると、かなり具体的な話も出ているという。

ようやく船客は船室から出ようとしているのだ。こうした動きができるだけ速く、広汎に起こってほしい。

10年、20年先を見据えた取り組みが必要だ

「野球離れ」が進行して10年、競技人口やファンの減少は、子ども世代からじりじりと上昇している。昨年は高校の硬式野球人口が18年ぶりに15万人を割り込んだ。前年に比べて9000人も減った。この傾向は急には止まらない。高校野球からプロ野球へと「野球離れ」の影響は波及していくだろう。


2019年12月、新宿高校でのティーボール教室でバットを振る子ども(筆者撮影)

ビジネス的に言えば、マーケットの縮小が止まらない。しかしその対策は後手に回っている。

ここ10年ものあいだ、深刻な低落傾向が続いてきたのだ。それを取り戻すには10年スケールの時間がかかるはずだ。

新年早々不景気な話で恐縮だが、野球関係者は、自分たちがいる業界が不可避的にシュリンクすることを覚悟したほうがいい。その中で10年、20年先に再び明るい兆しが見えるように、先を見て、みんなで力を合わせて取り組みをすすめるべきだ。