前回は、日本航空傘下のLCC(Low Cost Carrier)「ZIPAIR TOKYO」で使用するボーイング787-8の外観と機内について、写真を主体にして紹介した。しかし、それだけで終わっては面白くない。「ZIPAIR TOKYO」の機体が、ベースになった日本航空の機体と比べてどう違うか。それが問題である。

そこで今回は、FSC(Full Service Carrier)とLCCの主な違いを列挙しつつ、それがZIPAIR TOKYOの機体で具体的にどのような形で現れているかを見ていこう。

○LCC仕様機の基本は定員増加

運賃が安いからといって、安全に関わる部分のコストを下げることはできない。別の部分でコストを削るか、収益を増やすか、無駄を減らすか、という話になる。そこで、基本中の基本は定員増加だ。

もちろん、乗せる旅客の数が増えればその分だけ機体が重くなるので、燃料消費は増える。しかし基本的に、1機に乗せる旅客の数が増加するほど、旅客1名当たりの運航経費は減少する。それが運賃引き下げにつながる。

運航乗務員の人数は2名で変わらないし、客室乗務員も旅客の数に正比例して増大するわけではない。ベースとして「旅客50名ごとに1名」というルールがあるから、これに合わせれば定員206名だと5名、定員290名だと6名がミニマムとなる。なお、すべての非常口に1名ずつ配置するなら、787-8では8名が必要になる。

さて。ZIIPAIR TOKYOの機体は、日本航空の787-8・コンフィグE03を改装したものだ。コンフィグE03のエコノミークラスは2-4-2列配置。実は、787を2-4-2列配置にしているのは世界中で日本航空だけ。他社はみんな3-3-3列配置である。

そこで、ZIPAIR TOKYOでは「業界標準」の3-3-3列配置に変えた。これで単純計算すれば定員は8分の9倍に増える。しかし、コンフィグE03におけるエコノミークラスの定員を8分の9倍に増やしても、272席にはぜんぜん足りない。

コンフィグE03では、ビジネスクラスは2-2-2列配置が5列、合計30席。これがL1/R1ドアとL2/R2ドアの間、L2/R2ドアとL3/R3ドアの間、と2区画に分かれて配されている。後者については、区画の途中からエコノミークラスに変わるので、そこには衝立を立ててある。

しかしZIPAIR TOKYOの機体では、L1/R1ドアとL2/R2ドアの間だけを「ZIP Full-Flat」として、残りはすべて「ZIP Standard」。これでだいぶ定員が増える。しかも、クラスの境界が扉間にくる場合、仕切るための衝立は不可欠だが、扉間をすべて同一仕様にすれば衝立は不要。結果としてスペースを最大限に活用できるので、これも定員増につながる。

○シートピッチを巡る算数

次に、シートピッチについて検討してみる。

コンフィグE03のエコノミークラスはシートピッチ33in(838mm)。それを、LCC業界標準(?)の29in(737mm)に縮めると、だいぶ定員を増やせる。しかし、国内線や短距離国際線ならいざ知らず、中・長距離国際線で29inピッチでは辛いし、差別化にもならない。

そこで、ZIPAIR TOKYOでは31in(787mm)とした。機体が787だから787mmにしたわけでもないだろうけれど。

ZIPAIR TOKYOの機体はシートピッチ31in(787mm)なので、LCCで一般的な29inよりも5cm程度の余裕が増す

飛行機のシートは鉄道車両のそれと異なり、床面を前後に走るレールの上に固定する形になっている。だから、同じ機体のままでシートピッチだけ変えるのは難しくない。ただし、別の制約要因がある。

旅客機は途中にいくつも扉や非常口がある。それにかかる形でシートを据えるわけにはいかず、必然的に扉や非常口の間ごとの区画とせざるを得ない。すると、シートピッチを詰めて捻出した空間が、扉間の空間とマッチしない可能性がある。だから、配置によっては「ぴったり」とはいかず、微妙に間隔を加減して調整する場面があり得る。

787-8のコンフィグE03では、ビジネスクラスに続くエリアに席番18〜29まで12列のシートを配置している。シートピッチはシート中心線の間隔だから、12列ならシート中心間が11個、すると33in×11=363inとなる。

ただし実際には、その前にビジネスクラス用のエリアもあり、そこにエコノミーなら5列ぐらいは置けそうだ。仮に5列増やせばトータル17列だから、シート中心間の合計は33in×16=528in。

一方、L3/R3ドアとL4/R4ドアの間には、席番45〜55まで11列のシートを配置している。すると、こちらは33in×10=330inとなる。

そこに31inピッチでシートを並べると、どうなるか。前者では528in÷31in=17.03だから、18列は入りそうだ。席番は18からスタートしているから、少なくとも35までは行く。実際、全体写真に映っている背ズリを勘定すると、確実に18番から35番まではあるが、36番については確信が持てない。なお、このエリアの最前列(18番)と最後列は中央の3席がないので、その分を差し引く必要がある。

一方、後者は330in÷31in=10.64だから、こちらは調整すれば12列は入りそうだ。

単純計算すれば、3-3-3列配置のシートを31セット並べると、9×31=279。そこから中央3席がない2セット分を差し引くと273席となるから、272席という実数とだいたい符合する。ただし、最後部は胴体の幅が少し絞り込まれているので、他と同様に3-3-3列配置ができるかどうか分からない。実際、ANAの787-8では、最後部の席番ふたつだけ、両側が2列ずつになっている。

ともあれ、18〜36番までと45〜56番までの席番を確保できれば、272名分のシートは用意できそうである。

L2/R2ドアの直後から後方を見通したところ。扉間に衝立やギャレーやラバトリーがない大箱だから、スペースをフルに使える

○ターンアラウンドタイムの短縮

一見したところではゴージャス仕様に見える革張りシートも、実は「掃除のしやすさ」から採用されているもの。掃除の手間が減れば、ターンアラウンドタイムの短縮につながり、前回に触れた「多頻度運航」を支える大事な要素になる。

ZIPAIR TOKYOの場合、「ZIP Full-Flat」は革張りだが、「ZIP Standard」は合成皮革が使われている。実は、こちらのほうが軽量にできるのだという。掃除が楽になる上に軽くなるのなら、実にLCC向きだ。色が黒地なのも、掃除の手間を減らすのに効いているかもしれない。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。

マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。