●JAL SKY SUITEの特徴とは?

今年はたまたま、3種類のビジネスクラスに搭乗する機会に恵まれた。「JAL SKY SUITE」(ボーイング787-9)、「ANA BUSINESS STAGGERED」(ボーイング777-300ER)、そして「航空機の技術とメカニズムの裏側」の第180回・第181回で取り上げた「THE Room」(同)である。本稿では、これら3種類のビジネスクラスを比較してみよう。

ボーイング787-9 写真:ボーイング

ボーイング777-300ER 写真:ボーイング

○ビジネスクラスのシートはアイデアの宝庫

ビジネスクラスはエアライン各社にとってイメージリーダー的存在であることが多く、かつ、大きな収益の柱でもある。それだけにエアライン同士の競争は激しいから、ビジネスクラスで使用するシートの設計は難しい。

居住性を改善するために1席当たりのスペースを広くとれば、定員が減少して収益低下と機会損失につながる。かといって、定員確保のために1席当たりのスペースを減らせば、利用客が逸走しかねない。

長距離路線の場合、もはや全席通路アクセスとフルフラットは当たり前。どちらにしても、広いスペースを必要とする要素である。列数を減らせば全席通路アクセスは実現可能で、2通路あるワイドボディ機なら1-2-1列配置が一般的。しかし、漫然と列数を減らした上でフルフラット分のスペースをとれば、定員は激減してしまう。

すると第1の柱として、「空間の有効利用とデッドスペースの排除」が求められる。スタッガード、ヘリンボーン、リバースヘリンボーン、前後向かい合わせなど、さまざまな配置が考案されているが、いずれも空間の有効利用を企図したもの。

しかし、それだけでは話は終わらない。なにしろ10時間前後という長い時間を機内で過ごすわけだから、利用者は自席で「店を広げる」ことになる。ラップトップやスマートフォンを持ち込む人もいるし、本や書類を持ち込む人もいる。そこに、もともと用意されている枕やブランケットといったものも加わる。そして、道中に2度ないしはそれ以上の食事が入る。すると、テーブルや収納スペースを潤沢に用意したい。

近年では、AC電源やUSB電源の設置も当たり前になった。単に電源コネクタを設置すればよいというものではなく、どこにどういう形で設置するかも問題だ。時々、収納スペースの中に電源を配置しているケースがあるが、それだと収納スペースの蓋を開けなければ電源を利用できず、不便だ。

実のところ、「どんな構造でどんな設備があるか」は報道公開の席でも把握できるものの、実際のフライトを体験してみないとわからないことも少なくない。報道公開に行って、取材して記事を書く立場でこれをいうのは忸怩たるものがあるけれど。

そこで、前置きはこれぐらいにして。筆者が実際に乗る機会を得た3種類のビジネスクラスについて、配置などの面でどんな工夫をしているかを見てみる。

○JAL SKY SUITE

「JAL SKY SUITE」の特徴は、スタッガード配置でもなければヘリンボーン配置でもない点にある。フルフラット分のスペースを並べてあるが、オットマン部のオーバーラップは少なく、個人用画面とその手前の小テーブル、それと隣席で使用する収納スペースが上に重なるぐらい。そして、787では2-2-2列、777-300ERでは2-3-2列配置をとることで、定員確保につなげている。

これだと、一見したところでは全席通路アクセスを実現できないように見える。しかし、隣接する席を前後に少しずらすことで隙間をつくり、窓側、あるいは左右を挟まれた中央の席(777-300ERのみ)から直接、通路に出られるようにしている。

JAL SKY SUITE (シート)

利用したのは787-9の窓側席だったが、スレンダー体型の筆者だと通路への出入りは何の問題もなかった。ただ、CAさんにとっては、食事を運ぶ時など、狭いところを通るので気を使うところかもしれない。

この配置の関係で、「JAL SKY SUITE」のシートは前後に長く、左右をパーティションや側壁で囲んでいる。そのため、窓側席や中央席で隣席との間を仕切るディバイダーを上げると、意外と「個室感」がある。逆に、通路に面した席だと「個室感」は薄い。「個室感のある席」「開放感のある席」を選択できる、ともいえる(ものはいいよう)。

「JAL SKY SUITE」のシート

ただ、折り畳み式のテーブルを収納してしまうと、手の届かないところにある個人用画面下の小テーブルぐらいしか残らない。だから、いろいろ「店を広げる」人にとっては不便に感じられるかも

気に入ったのが個人用画面のコントローラ。タッチスクリーン式で、そこにフライトマップを常時表示しておける。寝ている時にIFEの画面が点きっぱなしだとまぶしいし、いちいち電源を入れてメニューを選択しないと地図を見られないのは面倒。だから、これは便利。

窓側席の場合、折り畳み式テーブルの先にAC電源とUSB電源があるので、テーブルにノートPCを載せて使うには具合がよかった(テーブルは、ペットボトルなどが載っているところから上に引き出して展開する仕組み)。

「JAL SKY SUITE」のシートの折り畳み式テーブル

●ANA BUSINESS STAGGEREDの特徴とは?

さて、お次はANA BUSINESS STAGGEREDだ。スタッガード配置のキモは、シートピッチを詰めながらフルフラット分の長さを確保するため、オットマン部を前席の側面に食い込ませている点にある。その関係で、前後に並んだ2つの席の位置がそれぞれ互い違いになるわけで、それがANA BUSINESS STAGGEREDの由来となっている。

ビジネスクラス シート・座席一覧(ANA Webサイト)

この配置の利点は、メインのテーブルとは別に、大きなサイドテーブルを確保できること。それはもちろん、後方から突き出たオットマン部をカバーするスペースを利用できるから。

実際に利用してみると、食事や寝る準備をする場面で、ノートPCなどの小間物をのけておくのにサイドテーブルが重宝した。ちなみにこのスペース、離着陸時はモノを置いてはいけないことになっている。

スタッガード配置の場合、そのサイドテーブルと前席の間に空間ができる。位置によっては、そこがデッドスペースに見えてしまうが、このスペースがないと窓側席から通路への出入りができない。無駄な空間というわけではない。

「ANA BUSINESS STAGGERED」のシート

実際に利用してみたところ、幅がやや狭いかなという印象はあった。といっても、エコノミークラスと比べれば広いし、フルフラットで寝られるのだから、「贅沢いうな」と怒られそうだが。

777-300ERの場合、テーブルは前方の個人用画面下から引き出す構造。2本の太い部材で支えているので、安定感はある。ただ、それが前席のサイドテーブル部に取り付くので、後ろの席の人が乱暴にテーブルを操作すると、前席に響くところが気になった。

面白いのは通路間席の最前列で、斜め前方に空きスペースができる。そこをバシネット(ベビーベッド)を設置するスペースに充てている。また、左窓側の席では同じスペースをクローゼット(乗客から預かったコートなどをしまっておく)にしていた。うまい。

「ANA BUSINESS STAGGERED」のシートのモニタと机

ちょっと不便に感じたのは、AC電源とUSB電源が個人用画面の下にあり、手元から遠いこと。ノートPCはテーブルに載せて使うからいいが、スマートフォンを手元で使うには、長いケーブルが必要になってしまう

●THE Roomの特徴とは?

「The Room」は2019年7月にデビューしたばかりの最新仕様。最新だけに、他の配置で見られるネガを上手につぶしながら広いスペースを確保することに成功している。空間利用という点では、実に無駄がない。

ただし、777-300ERの胴体径があるから実現できた、という一面もありそうだ。もっと胴体径が小さい787で同じことをやろうとすると、1-2-1列を維持すれば、区画の幅が狭くなってしまう。もっとも、ANAの長距離国際線は、今は777-300ER、将来は777Xがフラッグシップだから、そんな心配はいらないかも。

「The Room」では、前後向かい合わせ配置とオットマン部のオーバーラップによって、ファーストクラスに迫る最大幅を確保した点が最大の特徴になっている。ただし、向かい合う2席でオットマン部のスペースを分け合っているために幅が狭く、それがファーストクラスとの違い。

つまり占有スペースが台形になるわけで、寝る時に使用するマットやブランケットも、それに合わせた形状になっているのが面白い。そして、対面席から突き出てきたオットマン部の上にテーブルや収納スペースを設けて、有効活用している。AC電源もそこにあるのはうまい配置。

「The Room」のシートのモニタと机

フルフラットにして寝てみると、身長169cmの筆者は真っ直ぐの向きで寝てちょうどいい、という按配。もっと背の高い人になると、少し斜め向きに寝る必要がありそうだ。それも見越して1人当たりの幅を広くとっているのだろうか

いずれにせよ、幅方向の余裕が大きいので、感覚的には「広い」と感じる。身体の幅と比べて余裕があるので、ブランケットなどを空きスペースに積んでおけるのも便利だ。しかも扉を閉めれば「個室」になるのだから、これは人気が出るだろう。

気になったのは、前方から引き出して、さらに左に展開するテーブル。展開した状態でノートPCを置いて作業していると、キーを叩いたときに少しぐらぐらした。構造上、致し方ない部分ではあるし、実害が生じるほどではないけれど。

なお、「The Room」のIFEコントローラもタッチスクリーン式で、フライトマップの表示が可能。あと、機首に設けられた2ヶ所のカメラの画質が良かったところが印象に残っている。

The Room」のタッチスクリーン式IFEコントローラ

座るのは一人だけなのに、オーディオのコネクタが左右に付いていたのは、幅の広さを考慮したためだろうか? (報道公開のときは見逃していた)

なかなか「ありとあらゆる要求を満足できる配置・構造」というのは実現できないもので、ここで取り上げた3種類にもそれぞれ、一長一短がある。というのが、実際に利用してみての感想だった。

とはいえ、やはり最新鋭の「The Room」には後発の利があるなと感じた。こうなると、国際線のフラッグシップが将来的に777-300ERからA350-1000に代替わりするJALが、どういう手を打ってくるかが興味あるところだ。そして、未経験のリバースヘリンボーン配置も試してみなければなるまい、という気になってくるのだが、さてどうしたものだろうか。