消費増税後、苦戦にあえぐスーパー業界にあって、大手のライフコーポレーションは店頭販売が堅調に推移している(記者撮影)

大型台風の発生などの天候不順や10月の消費増税実施の影響で、スーパー業界では売り上げ不振に陥る店舗が続出している。

このような中、首都圏と関西圏に約270店を展開するライフコーポレーションは次々と新しい施策を打ち出し、前年並みの既存店売り上げを維持している。2020年の業界動向をどのように見通し、どのような戦略で挑むのか。同社の岩崎高治社長が語った(2019年12月20日に開催された「2020年年頭所感」会見の内容を再構成した)。

2018年末から個人消費は厳しかった

――消費増税の影響はまだ残っていますか。

2019年は景気全体が落ち込んでいる中、消費増税の実施で顧客の節約志向が高まった。また、軽減税率の導入により多くのスーパーが対応に追われた。加えて、(中・小規模事業者を優遇する)キャッシュレス決済のポイント還元制度により、公平・公正な競争環境がゆがめられた。

こういった状況下、ライフは顧客の生の声を聞き、売り場に反映させるなど、店舗に権限を委譲して強化を図った。PB(プライベートブランド)や総菜の商品力アップ、働き方改革も進めた。4月に都心型の小型店「Miniel」(ミニエル)を大阪市内に開店し、首都圏ではアマゾンジャパンの即配サービス「プライムナウ」に食品スーパーとして国内初出店するなど、新たな取り組みにもチャレンジした。

これらの結果、今期は第3四半期(2019年3〜11月期)まではまずまずの水準で推移した。第1四半期(2019年3〜5月期)の既存店売上高は前年同期比109%、第2四半期(2019年6〜8月期)は同98.8%、第3四半期(2019年9〜11月期)は100.7%、3〜11月の累計では100.1%で、なんとか水面に顔が出た。12月も前年同月並みのペースだ。

――2020年の消費動向をどのように見通していますか。

個人消費は2018年の12月ぐらいから厳しくなった。その時期にスーパーの需要が落ちて、「これはいよいよ厳しくなるぞ」とみていた。今期に入っても、一進一退の状態だ。顧客の財布のひもはけっして緩いわけではない。かといって消費増税に伴い政府がさまざまな施策を打ったこともあり、厳しさ一辺倒かというとそうでもない。

総じて言うと、足元の景気は必ずしもよくない。2020年の景気は本当にわからない。これが正直なところ。強くはなく、弱くもないだろう。当社の店頭販売は、前年並みを何とか確保しながら進んでいくイメージになるだろう。流通・小売業界においては、業界再編など大きな動きが出る可能性はある。

――スーパー業界でも、キャッシュレス決済を導入するチェーンが増えています。

ライフは大手企業なので、キャッシュレス決済のポイント還元制度の恩恵を受けることができない。

当社のキャッシュレス対応については、自社クレジットカードや自社の電子マネーを顧客に使ってもらうことが基本スタンス。PayPayなど他社とも協業している。ポイント倍率や利用金額の還元サービスといったイベントを従来よりも積極的に展開している。そんなに大盤振る舞いしているわけではないが、販促には力を入れている。キャッシュレス関連のイベントを始めてから、新しいお客さんが増えた。

中小スーパー近隣店舗の売り上げに悪影響

――中・小規模スーパーが5%のキャッシュレス・ポイント還元を実施している影響は?

店舗別にデータを見ているが、中・小規模スーパーが近くにある店舗は売上高が数%押し下げられている。


キャッシュレス・ポイント還元で売り上げへの影響が出ている」と語るライフコーポレーションの岩崎高治社長(記者撮影)

コンビニエンスストアのポイント還元策の影響も、現時点では詳細なデータ分析ができていないが、店舗全般に夕方の売り上げが以前よりも悪い。コンビニで食品などを買うお客さんが増えているからではないか。

キャッシュレス還元についてはお客さんもよくわかっていなくて、「キャッシュレスの還元のあるところがお得」と少しずつ浸透している状況のように思う。

「政府のポイント還元制度が終わっても、キャッシュレス決済を続けると考えている人が7〜8割」との報道があった。キャッシュレスの仕組みを利用した購買パターンは続くだろう。5%還元策で中・小規模スーパーに流れたお客さんはいずれ戻ってくる。ただ、コンビニで食品などを買う購買パターンは続くだろう。ここに(顧客がコンビニに流れる)怖さがある。

――アマゾンと組んで始めた生鮮食品のオンライン販売は、順調ですか。

アマゾンとの協業は9月から始めた。最初の1カ月で当初想定していた半年間程度のオーダーがあり、週末にはキャパオーバーになることもある。年間ベースで見ると、店舗売り上げのうち1割ぐらいはアマゾンとの協業事業が占めるようになるのではないか。

総菜などすぐに食べられるもの、「即食」関連の需要が多い。「ビールとおつまみだけ。送料がかかってもよい。すぐもってきて」という顧客もいた。ライフも単独でネットスーパーを運営しているが、アマゾンとでは顧客の層が明らかに違う。普段とは違う層に利用していただけている。

配送エリアは板橋区、練馬区など都内7区から始めたが、2020年度は順次拡大する。できるだけ早い段階で東京23区をカバーできるようにし、大阪でも2020年の早い段階で展開できるようにアマゾンと協議したい。

採算厳しいネットスーパーの店舗は整理を検討

――ライフが単独で運営しているネットスーパーの状況は? 売上高は2019年度は30億円の見込みで、2021年度に100億円を目標にしています。

ネットスーパーについては約50店舗で進めているが、2019年度は対象店舗を拡大しない方針だった。既存店強化に集中した結果、黒字化する店舗が増えてきて、現段階では20店舗ぐらいが黒字になる見込み。

2020年度も、ネットスーパーの新店は2〜3店舗程度にとどめて、既存店の質を高めていく。どうしても採算確保が難しい店は、周りの店とのバランスを考えながら整理も検討していく。

――GMS(総合スーパー)最大手のイオンがイギリスのネットスーパー専業オカドと提携し、事業強化を宣言しました。

イオンとオカドとの提携については、他社のことなのでノーコメント。ただ、競争になる。イオンはネットスーパーの売上高を6000億円にする目標を掲げた。われわれにはとても出せる数字ではない。だが、なんとかアマゾンとの協業で事業を拡大していきたい。

――人件費高騰やコンビニ、ドラッグストアとの競争激化など、スーパーを取り巻く環境は厳しくなるばかりです。

パートやアルバイトの時給は年間10〜20円ずつ上がっている。2020年度も同じように上がっていくだろう。打つべき対策には取り組んでいるが、効率化などを一段と徹底したい。ここ3年ぐらいプロセスセンター(食品などの加工センター)を増強し、そこでの加工作業を増やすことで、店舗内での作業負担を減らしている。場合によっては営業時間の見直しも考えないといけない。

ドラッグストアはあまり意識していなかったが、店舗数が増えてきて、少なからず影響が出てきた。ライフは日用品もそろえ、EDLP(毎日低価格)の強化をしており、ドラッグストアに負けていない。ワンストップで買ってもらうことができるので、対抗できる余地はある。