英老舗百貨店トップショップ(Topshop)を所有するグループ、アルカディア(Arcadia)は、この5年間、同社のパフォーマンス(運用)型デジタル広告と長期的ブランド構築の予算の割合が、それまでの5:5から8:2と、前者に大きく傾いていたことに気づいた。2年余り前、デジタルマーケティング部門トップとして同グループに加わったサビノ・ペトルチェリ氏は、振り子の揺り戻しを考えている。

2019年12月第2週にメディアテル(Mediatel)がロンドンで開催したイベント、フューチャー・オブ・TVアドバタイジング・グローバル(Future of TV Advertising Global)の壇上で、そしてその後、英DIGIDAYに対してペトルチェリ氏が語ったところによれば、トップショップの売上は依然、実店舗でのそれが全体の75%を占めているにもかかわらず、デジタル広告支出が増加の一途を辿っていた。

そこで、アルカディアはこの半年間にリターゲティング広告費を70〜80%削減した。理由は「[リターゲティングが]期待していたほどの収益を生んでいなかった」ことにあると、ペトルチェリ氏は語った。その一方で、トップショップによる2019年秋のOOHキャンペーン「Me, also Me(ミー、オールソー・ミー)」など、同社はブランド構築戦略を実施している。

「短期戦略への偏重」が問題

ペトルチェリ氏は、英研究者レス・バイネットとピーター・フィールドによる2013年の研究論文「The Long and Short of It(ザ・ロング・アンド・ショート・オブ・イット)」を引き合いに出し、問題は「短期戦略の過度の偏重」にあると断言した。

効果測定が比較的容易であることから、アルカディアはパフォーマンス型広告費を年々増大させていった。そして、広告支出に対するほぼ即時の見返りが期待できる試みばかりにフォーカスした結果、2015年以来、デジタルパフォーマンス費は「約2倍にまで膨らんだ」と、ペトルチェリ氏は語る。

「小売業界は、先週や昨年など、過去との比較で売上を測る。だからこそ、明日に繋がることをもっと考えなければならない。そうすれば自然と、継続的な試みを実施するようになる。パフォーマンス型広告とブランド構築の割合を5:5近くにまで戻す必要があると、私は考えている。ブランド認知および考慮をより広範囲に高めることで、[フィジカルな]小売とデジタルの双方で売上を総体的に促進したいからだ」。

全体像の把握が狙い

こうした動きを見せているのは、アルカディアだけではない。アディダス(Adidas)から米旅行関連オンラインサービス企業ブッキング・ホールディングス(Booking Holdings)、オールド・ネイビー(Old Navy)に至るまで、多くのブランドがこのところ、これまで長期的ブランド構築を蔑ろにし、短期的デジタル戦略に予算を割いていたという旨の発表をしている。

3カ月ほど前、アルカディアもマーケティングコンサルティング会社イビクイティ(Ebiquity)と提携し、マルチミックスモデルを導入した。フィジカルとデジタルの販売、ブランド構築とデジタルパフォーマンスマーケティングをそれぞれ融合し、競合他社の支出といったほかの市場要因にも目を配るなど、マーケティングパフォーマンスの全体像を把握するのが狙いだ。

ミス・セルフリッジ(Miss Selfridge)やドロシー・パーキンス(Dorothy Perkins)、ウォリス(Wallis)といったファッションブランドも抱えるアルカディアは、きわめて不確実性の高い局面を迎えている。最新の決算報告によると、2018年9月1日までの53週間で、前年度の4940万ポンド(約71億円)の利益から1億6920万ポンド(約244億円)の損益へと、大幅な赤字に転換した。

「基本に立ち返るべき」

アルカディアのブランド勢が好景気を謳歌したのは90年代から2000年代のことであり、なかでもトップショップはスーパーモデルのケイト・モス氏をはじめ、著名人とのコラボを次々に実現させていた。だがそれ以来、同グループはエイソス(Asos)やブーフー(Boohoo)といった新規オンライン勢からの圧力に晒されている。さらには、プライマーク(Primark)やエイチ&エム(H&M)など、新興ファストファッションチェーンとの激しい競争も強いられている。また、ビジネスレート(英事業税)と膨大な年金債務によるコスト増にも直面しており、それに追い打ちをかける社内騒動にも、先頃見舞われている――トップショップCEOポール・プライス氏は2019年12月第2週に辞任した。

「アルカディアは存続に関わる問題に直面している。1年後、いや半年後に、現在の形でこの業界に残っているかどうか、というほどの深刻な事態だ」と、小売アナリストのリチャード・ハイマン氏は指摘する。

「ブランドの改革――母親や祖母の世代に愛されたように、若者にもクールでファッショナブルと思ってもらうこと――は当然、一筋縄では行かない。そのためには、派手なマーケティングキャンペーンだけでは足りない……基本に立ち返る必要がある。つまり、商品自体とそのプレゼンテーションを見直すしかない、ということだ」。

Lara O'Reilly(原文 / 訳:SI Japan)