ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 いよいよ今年も”グランプリ”GI有馬記念(12月22日/中山・芝2500m)の発走が近づいてきました。

 出走予定の16頭中、11頭がGI馬。さらに、このレースを最後に引退する実力馬が6頭もいます。有馬記念の歴史のなかでも、稀に見る好メンバーが顔をそろえ、かつてないほどのドラマティックな結末が待っているような予感がしています。

 ともあれ、この豪華メンバーの中でも、断トツの注目を集めているのは、アーモンドアイ(牝4歳)。今や、誰もが認める”現役最強馬”です。しかも今回は、香港遠征の熱発回避から、急転直下の有馬記念参戦ですからね。そうしたセンセーショナルな経緯もあって、メディアや競馬ファンからの関心が一段と高まっています。

 このアーモンドアイをどう評価するのか。これが、予想のうえでも非常に大事なポイントであることは間違いないと思います。

 そうした状況にあって、周囲の様子をうかがってみると、これまでに比べて「今度こそ、逆らう時だ」という声が多いような印象があります。

 その理由としてはまず、いくら見た目には順調そうに見えても、本来の予定から2週もスライドしており、さらに使う予定のなかったレースに臨むことになったからだと思います。

 事実、アーモンドアイはこれまで、余計なレースを使わず、間隔を空けながら、一戦必勝という形で仕上げてきました。この中間も、香港に輸送する直前の段階できっちりと仕上げたはずですから、そういう見方があるのは当然でしょう。個人的にも、香港遠征に向けて仕上げてから、中身も含めてその状態がキープできているのだろうか? という疑問は少なからずあります。

 次に、有馬記念が行なわれる中山・芝2500mという舞台――その点が不安視されているようです。

 GIオークス(東京・芝2400m)やGIジャパンC(東京・芝2400m)で、圧倒的な強さを見せているわけですから、距離そのものを苦にすることはないと思いますが、今年は初戦の海外GIドバイターフ(1着。3月30日/UAE・芝1800m)から、前走のGI天皇賞・秋(1着。10月27日/東京・芝2000m)、そして、もともと使う予定だった香港カップ(香港・芝2000m)まで、2000m以下の距離にこだわっていました。要するに、急な距離延長に戸惑うことはないだろうか? という懸念が持たれているみたいです。

 しかしそれ以上に、今回は未経験の中山コースをどうこなすのか? それに対する不安が大きいのではないでしょうか。

 後方から外を回していた頃と違って、メンバーや枠順に応じて器用な立ち回りができるようになった今、初の中山でも対応できると思いますが、強い馬でも取りこぼすことが少なくない、トリッキーな中山・芝2500mですからね。心配の声が上がるのは、無理もありません。

 そしてもうひとつ、昨年はジャパンCを走って休養。今年も、当初は天皇賞・秋→香港カップというローテーションでした。そこから、関係者が有馬記念を使うことを避けてきた印象があり、ならば「付け入る隙があるかも」と見る向きがあるのは、わかるような気がします。実際、展開の紛れや不利が起こりやすいレースですし、陣営としては、牡馬相手にタイトな競馬をさせたくなかったかもしれませんからね。

 こうして、アーモンドアイに対する不安要素が挙げられるなか、それでも僕は、中心はアーモンドアイと見て、大丈夫だと思っています。

 アーモンドアイほどの馬にとってみれば、距離やコース、多少の出来の良し悪しといった点は、些細な問題だと思います。第一、管理する国枝栄厩舎も、鞍上を務めるクリストフ・ルメール騎手も、超一流です。それこそ、大外を回ることになっても、多少の不利を受けようとも、軽々と突き抜けてくるのではないでしょうか。

 今のアーモンドアイは、そこまで期待していいほどの完成度にあると見ています。

 デビュー戦以外で唯一敗れた今春のGI安田記念(3着。6月2日/東京・芝1600m)は、スタート直後に大きな不利に見舞われて、道中もダノンプレミアムに蓋をされ、後方のまま動くに動けませんでした。そのうえ、外から追うしかない状況にあって、内有利の時計の速い馬場。まさしく”三重苦”に直面したわけです。

 にもかかわらず、クビ+ハナ差の3着。有馬記念でも負けるとしたら、これと同じくらいの不利が重なった時だけでしょう。実力では負けないと思います。

 ということで、今年の有馬記念では、アーモンドアイを信頼する側に回りたいと思っていますが、それ以外の15頭も、並のレベルの年なら主役級の評価を受けてもおかしくない精鋭ぞろいです。相手候補をセレクトする際には、さまざまな考え方があるでしょうね。

 僕は、アーモンドアイ以外では、今年のクラシック戦線で結果を残してきた3歳馬を上位にしたいと考えています。皐月賞馬のサートゥルナーリア(牡3歳)、菊花賞馬のワールドプレミア(牡3歳)、そして牡馬三冠すべてのレースで上位を争ってきたヴェロックス(牡3歳)です。

 ヴェロックスは、GI皐月賞(4月14日/中山・芝2000m)が2着、GI日本ダービー(5月26日/東京・芝2400m)が3着。そして、サートゥルナーリア、ダノンキングリーらライバルがいなくなり、主役として臨んだGI菊花賞(10月20日/京都・芝3000m)でも3着でした。

 菊花賞のレース後、ジョッキーや厩舎関係者からは「距離が長かった」というコメントが出ていましたが、敗因は距離だけではなかったように見えました。1番人気ということを意識しすぎたのか、不利のないように、脚を余すことがないように、という安全運転の騎乗も影響したと思います。結果的に勝負どころで外を回ることになりましたし、一発を狙っていた1、2着馬の、格好の目標とされていましたからね。

 純粋な能力で考えれば、ワールドプレミアよりも上だと思いますし、この馬のソツのなさを生かせる舞台として、有馬記念はベストだと踏んでいます。もしアーモンドアイがいなければ、クラシックで涙をのんだ実力馬が古馬相手のグランプリで戴冠……という、昨年のブラストワンピースのようなストーリーもあったかもしれません。

 サートゥルナーリアは、天皇賞・秋が案外でした。ポテンシャルだけなら、アーモンドアイと真っ向から戦っても互角だと思いますが、その能力をレースで出し切れるかどうか、という点が課題となる馬になってしまいましたね。

 ただ、これまでに期待を裏切った2戦は、いずれも東京コース。敗因が東京競馬場にあるとするならば、舞台がGI2戦2勝の中山に替わって一変、という可能性はあります。サートゥルナーリアに関しては、そういう期待も大きいのですが、不安も大きく、どちらかに結論を下すのは難しいところ。直前まで、じっくりと見極めたいと思っています。

 最後に、ワールドプレミア。今回、3歳馬の3頭すべてに注目しているのですが、菊花賞を勝って、武豊騎手が騎乗するわりには、人気がないと感じられるこの馬を「ヒモ穴馬」に取り上げたいと思います。


有馬記念での一発が期待されるワールドプレミア

 GII神戸新聞杯(9月22日/阪神・芝2400m)では、サートゥルナーリアとヴェロックスに地力の差を見せつけられましたし、菊花賞もヴェロックスをマークしてのイン強襲がうまくハマった形。そういう意味では、本当の地力勝負になると、3歳馬3頭の中では3番手ということになるかもしれません。

 とはいえ、ワールドプレミアは春のクラシックをソエと骨折で棒に振っている分、まだまだ伸びしろがありそうな感じがします。また、菊花賞のあと、一時はジャパンC出走も予定していたそうですが、これを自重して有馬記念まで待ちました。この判断はよかったと思います。

 武豊騎手は、今年4年ぶりに年間100勝を突破。50歳を迎えても、レースであれだけの騎乗を続けられるのは、本当にすごいことだと思います。 GIも2勝して、武豊騎手の健在ぶりを示した2019年。グランプリの大舞台で、再び競馬ファンをアッと言わせるのも、天才ジョッキーらしくもあり、このレースの結末にふさわしいかもしれません。