受験勉強と睡眠を両立するには、何に気をつければいいのか。脳の発達と睡眠の関係を研究してきた小児科医で大学教授の成田奈緒子さんは、娘・佳奈子さんに対して、「たっぷり睡眠&深夜2時起床」をアドバイスし、見事、国公立大医学部合格に導いた。“度を越した”早寝早起き勉強法の効能とは--。

※本稿は、「プレジデントFamily 医学部進学大百科 2020完全保存版」の一部を再編集したものです。

■脳の発達と睡眠の関係を研究してきた小児科医の母直伝の勉強法

難関である医学部を受験するなら、寝る間も惜しんで勉強するのが当たり前だと考えがちだ。だが、「睡眠こそ何よりも大事」と力説するのは、長年、脳の発達と睡眠の関係を研究してきた小児科医で文教大学教育学部教授の成田奈緒子先生だ。

奈緒子先生自身、子供のころから医学部受験をした学生時代を経て現在まで、早寝早起きを実践し、睡眠をとることの大切さを体験的にも理論的にも熟知している。さらに、睡眠第一で育ててきた一人娘の佳奈子さんは1浪の後、2018年、徳島大学医学部に合格。このことから奈緒子先生は自身の研究結果への自信を深めたという。

ではなぜ医学部受験生にたっぷりの睡眠が欠かせないのか。奈緒子先生によれば、理由は二つある。

■受験生こそたっぷり寝るべき2つの理由

一つは学習の定着。授業や学習でインプットした知識は、睡眠中に脳内で整理整頓されて必要なものだけ残され、記憶として定着する。長時間勉強をして大量のインプットをしても、しっかりと睡眠をとらなければ、脳に定着しないというわけだ。

「適切な睡眠時間には個人差がありますが7、8時間、少なくとも6時間以上は睡眠をとりましょう。睡眠中は深い睡眠といわれるノンレム睡眠と浅い睡眠といわれるレム睡眠を繰り返します。記憶の定着に最も関係しているのは後半のレム睡眠です。ノンレム睡眠とレム睡眠1セットはおよそ90分。学習の定着には、そのサイクルを4セット以上、つまり6時間以上は睡眠をとるといいです」

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/narith_2527

睡眠が大事な二つめの理由は「ストレスに強くなること」。受験には大量の学習が重圧となり、合格できるかどうかという不安もつきまとう。近年の医学部受験は競争が熾烈になり、受験生のストレスを増やしているという。

「娘の受験を見ていて、私が医学部を受験したころに比べて、学習量も増えて超人的な努力が必要だと感じました。そんな受験のストレスの中で自分を奮い立たせ勉強を続けるには、なぜ医師になりたいのかを真剣に考えることが必要になります」

そのストレスに耐えるうえで鍵になるのが、思考をコントロールする脳の前頭葉だという。

「私は前頭葉を“こころ脳”と呼んでいます。たっぷり睡眠をとって、こころ脳が育っていれば、感情を整理しコントロールできます。なぜ自分が医学部で学びたいかを考えて、冷静に取るべき行動を取るというように、ストレスをうまくいなすことができるのです。睡眠が足りず、こころ脳がきちんと育っていないと、大きなストレスがかかった場合、うつのような状態になり、思考がうまくまとまらないのです」

こころ脳がしっかり育っていれば、本番にも強くなれる。朝から晩まで、時には数日間も続く過酷な試験の中で「こころ脳が『私、できないかもしれない』と不安になると、6、7割の能力しか発揮できず、点数が取れない」と奈緒子さんは言う。せっかくの努力を無駄にしないためにも、こころ脳は重要なのだ。

■「睡眠第一の子育ては間違っていなかった」

奈緒子先生が睡眠の重要性を実感したのは、娘の佳奈子さんが現役では、不合格だったときだという。

「娘はやけにならずこれからどうすべきかを3日間考え、浪人して医学部を目指すことを決め、そのあとは受験勉強にまい進しました。ショックの中、娘が考え抜いたことに、睡眠第一の子育ては間違っていなかったと実感しました」

睡眠の大切さはわかったが、実際、どのように睡眠時間を7、8時間確保すればいいのだろうか。ここからは娘の佳奈子さんに受験生時代の睡眠第一生活の詳細を伺おう。

■18時30分に就寝し、早朝2、3時に起床して勉強する

私立中高一貫校に通っていた佳奈子さんが医学部受験に向けて勉強を始めたのは高2の秋ごろ。高校在学中の平日のスケジュールが冒頭の円グラフだ。

学校から帰宅後、入浴と軽い食事を済ませ、なんと18時30分〜19時に就寝。約7時間睡眠をとり、早朝2、3時に起床し、朝ごはんの準備を始める6時まで約3時間勉強をしていたという。6時からは朝食を作り、ボリューム感たっぷりの食事を家族でとるのが日課であり楽しみだったそうだ。浪人時代は多少の変更はあったものの、高校時代同様「7時間の睡眠を死守」した。

佳奈子さんが「たっぷり睡眠受験」を貫いたのは睡眠時間を削ってはならないことを、身をもって学んだからでもある。

「高校2年生の定期試験の前に、睡眠時間を1時間減らして勉強の時間にあててみたんです。ところが3日ほどで体調が悪くなりました。顕著だったのは朝食のとき。食欲もわかないし、家族との会話も弾みませんでした。これは睡眠を削ったせいだと思い、睡眠不足は私には合わないんだなと実感したんです」

■睡眠時間を確保するため「少ない勉強時間で、人の2倍集中する!」

睡眠をたっぷりとると学習時間は限られる。そのため佳奈子さんは「勉強の質」を上げることを目指した。

「『受験生は夏休みに400時間勉強をしよう』という言葉が耳に入りましたが、『少ない勉強時間で、人の2倍集中する!』と決めて、総時間数は気にしないようにしていました」

他の受験生は夜遅くまで勉強に励んでいることが頭をよぎり、焦ることはなかったのだろうか?

「一切ありませんでした。自分の生活スタイルを崩さずに勉強をしていたら、絶対に受かると思っていた」と佳奈子さんは力強く答えた。

■コツは「夜早く寝る」ではなく「朝早く起きる」から始めること

さて、成田家流「たっぷり睡眠受験」を取り入れるなら、コツは「夜早く寝る」ではなく「朝早く起きる」から始めることだ。いきなり早寝しようとしても簡単には寝付けないし、勉強していないことが不安になり、寝ることがストレスになってしまうと奈緒子先生は言う。

「夜の12時に就寝している子であれば、まず手始めに朝6時に起きてみる。あとは授業中の居眠りはもちろん、昼寝もしないように努め、眠気に耐えること。そうすると夜は12時よりも早く眠くなるから、睡眠の習慣がだんだんつきます」(奈緒子先生)

人によってパフォーマンスが上がる睡眠時間は違う。必要な睡眠時間は7時間以上だと理解したうえで、自分に合う睡眠時間を模索することも大切だと奈緒子先生は説く。

「医学部に進みたいなら、睡眠時間の違いでどれだけパフォーマンスが違うかを実験してほしい」と奈緒子先生は言う。

「模試や小テストの結果の違いを比べてみてもいいし、英単語の記憶の定着がどう変わるか、自分で実験してみるのもいい。それで脳の効率の良さを実感できるといいでしょう」

■早起き習慣のために「ごほうび」を用意する

早起き習慣のために、起きた後に「ごほうび」を用意するのも効果的だ。

「好きなお菓子を食べる、好きな音楽を聴くなど、面白いことや好きなことを目的に起きるといいですね」(奈緒子先生)

医学部生になり、授業に試験、実習やアルバイトにと日々忙しい佳奈子さんは「医学部に入った後の生活を考えても、医学部志望者は睡眠をたっぷりとる習慣をつけておくべき」と実感しているという。奈緒子先生も「医師は、早朝から勉強している人が多いので、将来を考えても、たっぷり睡眠をとり朝型生活を」と話す。

理想は佳奈子さんのように小さいときから睡眠を通した「脳育て」ができていることだが、「脳はいつからでも育て直せます。高校生からでも大丈夫です」と奈緒子先生は言う。習慣を変えるには1週間程度で諦めたりせず、1〜3カ月くらいは努力したほうがいいそうだ。

■【睡眠第一生活を送るための4つのコツ】

[起床時]

目が覚めにくいときは、顔を洗い、カフェオレを飲む。それでも眠いときは、シャワーやお風呂に入ったり、ヨガをしたりして、体を目覚めさせているという。

写真=iStock.com/electravk
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[予備校]

『プレジデントFamily 医学部進学大百科 2020完全保存版』

予備校通いは得てして夜遅くなりがちだが、睡眠時間を優先して、授業は早めの時間帯の講座のみ受講した。また自分の勉強スタイルに合うという理由で、集団指導ではなく、マンツーマンの個別指導の予備校を選んだ。

[寝る前]

夏など外が明るい時季は、アイマスクを着用。小説を20〜30分読んで、眠りについていたそうだ。眠れないときはふくらはぎや足の裏、ふとももなど脚をマッサージして温めるといい。

[夜ごはん]

夜ごはんは、冷蔵庫の常備菜などを中心に軽めに。朝ごはんにボリュームのある食事を取るのが、成田家流だ。

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成田 奈緒子(なりた・なおこ)
小児科医、医学博士
神戸大学卒業。不登校、引きこもり、発達障害などの親子・当事者支援事業である「子育て科学アクシス」代表。著書も多数。短時間睡眠でも平気な、いわゆる「ショートスリーパー」は奈緒子先生によると、極めてまれな存在だという。多くの人は、取れる日は7時間の睡眠の確保を心がけるといいそうだ。
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(小児科医、医学博士 成田 奈緒子 文=村井 裕美 撮影=干川 修(成田奈緒子先生))