「大人のいじめ」に遭ってしまったとき、対処する方法はあるのでしょうか?(写真:mits/PIXTA)

今年10月、兵庫県神戸市須磨区の市立東須磨小学校で、20代の男性教諭が30〜40代の男女教諭から壮絶な「いじめ」を受けていた事件が大きく報道され、話題となった。

被害者の男性教諭は、激辛カレーを無理矢理食べさせられたり、愛車を汚されたり、熱湯の入ったやかんに顔をつけさせられたりするなど、悪質な嫌がらせを繰り返し受けていたという。

こうした「大人のいじめ」は、決して珍しいものではない。実際、私のまわりにも被害者は多くいるし、私自身も会社員時代に軽い嫌がらせを受けていた。

いったい、大人のいじめはどんなときに起きるのか? まずは福岡在住の30代女性の話を紹介したい。

あまりにも理不尽な「上司のいじめ」

私の上司は同世代の女性でした。彼女は前の上司が突然転職してしまったため、とりあえずは最も社歴が長いという理由で今のポジションにつきました。

彼女は自尊心を保つためか、自分よりも立場の弱い社員にやたらとマウンティングを仕掛けてきます。私の場合、「アンタ、そんな格好だとモテないよ。私が服を選んであげようか?」なんて言われたり、自分のミスを全部私になすりつけて本社に報告されたりもしました。

一緒にランチに行ったときは、自分が座りたい席というのがあるようで、事情を知らない部下がそこに座ったら「なんでアンタがそこ座るのよ!」と怒鳴ることもありました。さらに、何をやるにしても占いを信じるため、部下である私たちにも占いをチェックするよう強要してきます。

いろいろ文句はありますが、最もひどかったのは、簿記の資格を取るよう強要されたことです。正直、意味がわかりません。何しろ私がやっている業務にはまったく必要のない資格でしたから。「そのくらいできなければ私の下では通用しない」みたいなことを言われ、私は嫌々、スクールに通うことにしました。

16万円を自腹で支払ってスクールに入ったのですが、先生からはすぐに「なんであなたはこの講座に来ているの」と言われました。上司から命じられたからと答えたら、「全然あなたの仕事と関係ないでしょ? 目を覚まして!」と諭され、解約も認めてくれるし、仕事に役立つ別の講座を受けるよう勧めてくれました。本当に親切な先生でした。

あとでわかったことですが、簿記の講座は会社の補助制度を使うことで1万円で受けられたようです。上司はそのことを知っていたくせに、私には何も伝えてくれませんでした。

そうこうするうちに、ついには部署内で無視が始まりました。責任者である彼女が無視を始めると、ほかの部員も私を無視しなくてはいけないという同調圧力が生まれました。取引先からお菓子をいただいても、私だけはもらえません。

仕事をやめたくなかったので、できるだけ我慢しようと思いました。ですが、「存在無視」は思った以上にきつく、最後には職場で倒れてしまい、その会社を辞めることにしました。

第三者には理解しがたい「大人のいじめ」

彼女の話はおかしなことだらけだが、神戸の小学校における「いじめ」も、理不尽なことだらけだ。しかし、当事者たちはそれを不自然に思わない。

あくまでも推論だが、いじめている側は「愛のムチだった」「上司としての務めを果たしただけ。これがウチの会社の文化だ」と主張し、いじめられている側は「職場というのはこれが当たり前なんだと思っていた」「上司が言っているのだから間違いないと思っていた」と、つらい境遇や上下関係を理由に、視野狭窄に陥っているのではないか。

やがて、いじめの内容はエスカレートし、いじめられている側は心身のバランスを崩したとき、はじめて「自分はいじめの被害者だったんだ」と気づく。しかし、それではもう手遅れだ。

今年7月、私は「仕事が嫌な時『逃げていい人』『ダメな人』の境界」という原稿を書いた。ここでは、「逃げたいときは逃げてもいいんだよ」という論説を尊重しつつも、「もう少し踏みとどまったら、もっといい結果になったのでは」と述べた。だが、彼女については退社して正解だろう。

2017年12月から2018年7月まで、「エアコンプレッサー」を使った大人のいじめが、なぜか相次いで起きた。2017年12月には、埼玉県で2人の男性が同僚男性の肛門にコンプレッサーで空気を入れ死亡させた。2018年3月には、島根県で建設作業員の男性が同僚に直腸のケガを負わせた。さらに同年7月には、茨城県の会社員男性が同様の行為によって同僚男性を死亡させた。

3つ目の事件の加害者は「悪ふざけをしていた。死ぬとは思わなかった」と語っていたという。

神戸の小学校での事件、30代女性の体験に加え、この3つの事件を踏まえると以下の要件が重なったときに、「大人のいじめ」と判断してもいいかもしれない。

【1】複数の加害者が、個人をいじめている
【2】加害者側が幼稚で楽しんでいる
【3】被害者側がおとなしい

なお、悪意の有無については不明だ。コンプレッサー事件の加害者が語ったように「ただの悪ふざけ」のつもりだったかもしれない。

なくならない「いじめ」とどう戦う?

こうした大人のいじめを回避するにはどうしたらいいのか? 個人的には、「人間関係を極力浅くする」ことを推奨したい。

職場のランチや飲み会には極力参加せず、雑談にもいっさい参加しない。理由を聞かれたら、「私、プライベートと仕事は完全に分けているんです」と言い切ってしまう。また、つねにICレコーダーは衣服のどこかに忍ばせておき、「いじめ」が開始したらすぐに録音を開始する。それと同時に、人材エージェントにはつねに登録しておき、いつでも転職できる状態を作っておく。

こんなことを書くと「現実的じゃない」というご批判もあるだろう。だが、恐らく人間の本能として「いじめ」はなくならない。というのも、いじめは私が物心ついた頃から社会問題だったにもかかわらず、いまだに解消されていないからだ。むしろSNSの登場以降、過激になっているようにも見える。

私も約20年前、会社員時代にいじめに近い被害を経験したことがある。同僚からいきなり「オレ、お前のこと嫌いなんだよ」と言われたり、上司との食事中、後から合流しにきた同僚から「なんで中川と一緒だって言ってくれないんですか! オレ、こんなヤツとメシ食いたくないですよ」と言われたことがある。

こうまで言われたため、私も公然とこの2人のことは嫌いだと別の同僚に明言していた。場合によってはこの2人が結託し、私を貶めようとしていた可能性があったのだが、その芽を事前に摘んでおいたわけである。

ところが、だ。この2人とは、会社を辞めた後は普通に付き合っている。もちろん一緒に食事をするなどはないものの、例えば元上司が定年退職をするために送別会が開催されるときに会ったら、「おぉ! 久しぶりだなぁ」と普通にあいさつを交わせるぐらいの関係には改善した。

いじめは「濃厚な人間関係」が生む

大人にしろ、子どもにしろ、いじめというものはある程度、人間関係が濃厚というか、同じ空間で長時間過ごすことで発生してしまうものだ。

それを回避するために、リモートワークが可能な会社に勤めたり、独立するのも1つの方法だろう。工場など労働集約的な職場では難しいかもしれないが、そうでない人は仕事選びの基準として、「希薄な人間関係が許される場所」を選ぶという考えがあってもいいと思う。

会社員時代、私を「嫌いだ」と言い放った2人に対して、同じ職場にいたときは憎悪の気持ちを多少は持っていたし、いじめのエスカレートにもビクビクしていたが、いったん会社から離れてしまえば、そんなことで憂鬱になることはなくなった。

「いじめ」をする側は、都合の悪い事実を忘れるものだ。でも、被害者にとっては一生忘れないトラウマになる可能性が高い。「苦しみにとらわれるぐらいなら、さっさと逃げてしまえ」と、ここでは「逃げる」ことの重要性を強調したい。