優秀な学生がインターンシップで求めていることとは?(写真:kou/PIXTA)

空前の売り手市場により、新卒者をめぐる争奪戦が加速しています。ライバルに先駆けて優秀な人材を獲得するためには、大学1、2年生という早い段階から学生にアプローチをする必要があります。その手段として最適なのは、インターンシップです。実際、就活中の学生の約8割がインターンシップに参加した経験があるといいます。

一方、企業もインターンシップの受け入れを増やしており、就職みらい研究所の調査によると、新卒採用を行っている企業で実施しているのは9割を超えます。ところが、インターンシップが成果を上げたという事例はほとんど耳にしません。それはなぜでしょうか。実は、インターンシップを実施する期間に問題があるのです。

9割近くが1日以内のインターン

インターンシップとは本来、学生が企業で「就業体験」をするための制度であり、採用にふさわしいかを見極める場でもあります。ところが求人情報サービスのディスコによると、日本企業のインターンシップの実施期間で最も多いのは、1日以内のインターンシップ(通称「1dayインターン」)で、86.4%に達します。これでは、学生が大した就業体験をできるわけがありません。

なぜ、日本では1dayインターンが多いのでしょうか。それは、インターンシップの実施を、人事や採用チームだけで運営したいという思惑があるからです。

企業が学生にきちんとした就業体験を提供しようとすると、現場の社員に協力してもらい、実務を学生とともにこなす必要があります。しかし、働き方改革で生産性が問われ、業務過多の現場社員に、入社するかどうかもわからない学生の育成や指導に力を貸してもらうことは、現実的に難しいのです。

しかし同調査によると、インターンに参加した学生のうち、1dayに最も参加する必要がないと答えた学生は、76.8%に上ります。理由は、経験できることが限られるからです。1dayでは、業界や企業の説明をし、社員に質問するための座談会を設けるといった会社説明会の延長のようなものがほとんどで、採用選考に直結していないのです。

マイナビが2020年卒業の学生を対象に行った調査によると、興味のあるインターンシップの内容として最も多いのは、現場の社員に交じって業務を体験する「同行体験型」で、以下、現場を社員の説明で見学する「職場見学型」、業務を擬似的に体験する「ロールプレイング型」と続きます。つまり多くの学生は、会社の説明よりも体験を求めているのです。

疑似体験するのは1dayでは不可能であり、最低でも3カ間は必要です。さらにリアルな職業体験となると、6カ月は必要でしょう。本当に優秀な学生を採用したいのであれば、企業は現場の社員を説得してでも長期インターンを受け入れるべきではないでしょうか。

では、長期インターンを始めるにはどうしたらいいのでしょうか。まず設計段階で必要なのは3つの視点です。すなわち、学生が何を求めているのか、自社でやる意味があるのか、学生が何を持ち帰れるかの3点です。

学生が何を求めているかは人それぞれですが、優秀な学生に限って言えば、ひと言に集約できます。それは「成長」です。優秀な学生ほど、社会の中で自分の力を試したいという欲求を持っており、現場でリアルなビジネスを体験してみたいという思いを持っているのです。

学生の要望にとらわれすぎない

こうした優秀な学生に合わせたプログラムを考えるうえで注意しなければならないのは、自社でやる意味があるかどうかです。学生の要望ばかりにとらわれていると、その視点が抜けてしまいがちです。しかし、自社にもメリットがあるとはっきりさせなければ、現場からの協力は得られません。

両者を両立させるのはなかなか難しいのですが、たとえば既存社員が収益を生んでいるフィールドとは別に、学生には未来の事業を生み出すためのプロジェクトに入ってもらうというのも1つの方法です。そうすれば現場の社員と衝突することがないですし、学生を通じてこれまで着手できていなかった領域にチャレンジできるので、周囲の理解や応援を得やすくなります。

自社でやる意味があると確信できる企画ができたら、改めて学生が何を持ち帰れるかを考えます。よく考えたら、それを言語化してみましょう。例えば「クライアント企業の組織のエネルギーが変わる現場に立ち会える」といったようにです。

そうすれば募集の段階でアピールすることができ、注目を集める武器になります。逆に言えば、学生が得られるメリットを言葉で説明できる企画を考えるべきだということです。それができないようなら、内容の練り込みが足りず、中身のない企画である可能性が高いわけです。 

一般的に、即戦力を求める場合は中途採用と言われていますが、新卒でも即戦力に育て上げることができます。その格好の場が長期インターンなのです。インターンシップに参加した企業に学生がそのまま入社する率は、4割に達するというデータもあります。5人のインターンシップを受け入れたら、そのうちの2人は入社してくれるわけです。

実務遂行型の長期インターンシップが充実していれば、内定前に1年分、内定期間中にもう1年の経験を積むことで、入社の際に「3年目の新卒社員」に仕立て上げることも可能なのです。

あるエステティックの会社に入社した新入社員は、初年度で年間5000万円の粗利益を稼ぎ出したそうですが、これは充実した長期インターンを過ごしていなければありえないことです。

インターンを受け入れる際には選考が必要ですが、レベルの高い選考を経て残っている学生は、高い成長を求めているはず。そんな彼ら、彼女らには、社員並みの要求をし、負荷の高い仕事をしてもらいましょう。負荷の高い仕事に無給はありえないので、必ず報酬を与えましょう。

学生に企画を考えさせてプレゼンさせ、役員が評価するというプログラムがよくありますが、いい企画であればそのままビジネスプランまで考えてもらい、実践させるべきです。

例えば、高知県のあるお弁当製造の会社は、学生のインターンを受け入れた際、学生に新しいお弁当を企画させたところ、上司から高評価。学生にそのまま企画を進めさせ、原価計算から仕入れ交渉、製造工程の作成、店頭での実演販売までの業務を一貫してしてやらせました。その結果はどうたったでしょうか。もちろん社員のアドバイスや協力もありましたが、なんと驚くことに、社内での販売個数がナンバーワンになったのです。

問題点や弱みを隠さない

インターンのプログラムを考えるうえで意識していただきたいのは、成果目標を与えること。成果目標を設定できない仕事は、実践的とは言えません。目標があればそれを達成するための責任が伴いますし、責任を果たさせるためには、自由に采配を振るえる権限も与えなければなりません。

ただ社員が学生と長期間一緒に働くということは、いいところだけではなく、会社が抱える問題点や弱みも見せることになります。それによって、優秀な学生に逃げられてしまうと懸念する方もいるかもしれません。

しかしそれを隠していては、早期退職というミスマッチは防げません。会社の中身をどれだけ見せられるかが、応募者との信頼関係構築のカギとなります。リアルな姿を見せていなかったばかりに入社後にギャップを感じて退職され、転職サイトやSNSにネガティブな口コミを書かれるほうがよっぽどリスクです。

長期インターンの実施は、学生だけでなく中途採用においても、入社後のミスマッチを防ぐ一手になるでしょう。運営のしやすさだけで安易に1dayインターンを選ぶのではなく、本来の目的である職業体験を通して即戦力を育成すべく、いま一度、インターンシップのあり方を考え直してみてはいかがでしょうか。