東京五輪世代が9名、名を連ねたメンバー構成だったが、香港から5点を奪っての大勝。差を見せつけた。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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 もしハリルホジッチが香港代表監督なら「デュエルがゼロだ!」と激高しただろうか。あるいはジーコなら「相手をリスペクトし過ぎだ!」と頭から湯気を出しただろうか。

 とにかく香港戦は、妙に懐かしさを覚える試合だった。プロの歴史では日本を凌駕する香港だが、サッカーの進化を示す時計はすっかり止まっていた。

 懐かしさを覚えたのは、アマチュア時代の日本が海外のプロクラブを招いて親善試合をしていた光景を彷彿させたからである。シーズンオフにやって来る雲の上のスターたちは、こうして香港と戦う日本のように、余裕たっぷりにボールを繋ぎ、時折別格の技を見せては観客をどよめかせていたのだろう。

 序盤こそ3トップのカウンターで日本を慌てさせた香港だが、しばらくすると完全に自陣に閉じこもり、ほとんど身体をぶつけて来ることもなかった。せいぜい50センチまで寄せれば守備が完了してしまうから、日本の選手たちにとってそれは完全にフリーな状態を意味した。まるでシャドウの敵を想定しているようなもので、通常のリーグ戦どころか、日常のトレーニングより緩い圧力なので、日本人選手個々のベーシックな能力が確認できたに過ぎない。とりわけ最終ラインのパス回しなどは、楽なのを通り越して退屈だったかもしれない。

 かつてアーセナルで長期政権を築く前に名古屋で指揮をしたアーセン・ベンゲルは言ったものだ。
「小倉隆史もフリーならストイコビッチのようにプレーする」

 たぶん天皇杯初戦よりプレッシャーが緩い状態で、最も高い芸術点を叩きだしたのは大島僚太だった。これまで代表戦との相性が良くなかったが、今すぐにでも中村憲剛の役割を引き継げる資質が十分に備わっていることを証明した。香港のディフェンスは中央に絞って来るので逆サイドががら空きになる。そこで右サイドからボックス裏に抜け出す菅大輝に通したロングパスなどは絶品だった。だがゲーム全体を通して試合をコントロールし続けた大島も、終盤にかけてはやや弛緩したのか、立て続けにインサイドのパススピードの調整に失敗した。緩過ぎる試合で本来ミスは起こりようがないので、日本の選手たちは集中力との闘いとなった。チョン・チンルンのクロスバーをかすめるシュートを招いたGK大迫敬介のフィスティングミスは、そのまま汚名返上の機会を得られず減点だけが残ってしまった。
 
 よく汗を流し特徴を見せつけたという点では、最もアピールに成功したのが相馬勇紀である。基本的には右サイドからクロスのトレーニングを繰り返したようなものだが、自慢の走力は前がかりになり過ぎて穴を開けたCBのカバーリングでも発揮された。

 すっかり余裕が生まれた森保一監督は、田中碧を休ませてCBでスタートした田中駿汰のボランチや、畠中槙之輔のビルドアップも確認し、最後はハットトリックの小川航基を下げて上田綺世にも自信を上乗せさせようと画策した。

 日本代表にとっては収穫どころか参考材料を探すのも難しい試合だが、改めて日本も低迷の歴史を辿って来たことを考えれば、やはり大会にはそれなりの意義があるのだろう。これでE-1選手権のタイトル奪回には一歩近づいたが、逆に今後のチーム作りに影響するのは最後の韓国戦だけになるかもしれない。むしろワールドカップ2次予選から欧州組を呼び寄せて来た森保監督には、このメンバーでも十分に最終予選への椅子は確保できることを認識する良い機会になってほしい。

取材・文●加部 究(スポーツライター)