男女ともに韓国で行なわれているE-1選手権の第2戦目、中国との一戦でなでしこジャパンは初戦のチャイニーズ・タイペイ戦の2ゴールに続き、岩渕真奈にとって初めてのハットトリック達成で2連勝し(3−0)、優勝に大きく前進した。


E-1に出場し、新戦力として名乗りを上げた池尻茉由

 初のキャプテンを担っている岩渕のゴール量産に目が行きがちではあるが、なでしこジャパンの攻撃に新たな風を吹き込もうとするゴールゲッターがいる。初戦で代表初ゴールを含む2ゴールをマークした22歳の池尻茉由だ。ユース年代で脚光を浴びてきたエリートではないが、2018シーズンになでしこチャレンジリーグ(吉備国際大学Charme岡山高梁所属)で17ゴールを挙げ、得点王になった。

 そんな池尻の活躍が高倉麻子監督の目にとまり、なでしこジャパンに初招集されたのは今年の2月にアメリカで開催されたShe BelievesCupだった。

 “雰囲気のある粗削り”――。彼女の第一印象はこんな感じだった。それぞれのポジショニングが変幻自在のなでしこジャパンに放り込まれて、ピッチで迷子になる新戦力を見るのは珍しくない。むしろ、そこからどう這い上がるかが、生き残りの分かれ目なのだ。

 池尻もデビュー戦では、少なからず困惑が見られたが、ボールを持った瞬間に彼女を取り巻く空気が一変するような局面があった。力強く前を向き、躊躇なくシュートを放つ。卓越した技術でパスを紡ぎ出すタイプが多い現在の代表メンバーの中で、異色の存在に見えた。

 突然迎えたデビュー戦で、対峙したのは世界女王のアメリカ。池尻にとっては衝撃的だった。

「キックの質、空中戦の高さ……、自分が予想していたよりもはるかに上でした」

 それでも絶妙な動き出しからDFライン裏へのパスを引き出すなど、池尻の得意とするプレーから決定機を作るも、本人の自己評価は「30点」と厳しかった。これもまた彼女らしい一面だ。

 当時はワールドカップまで3カ月というタイミングもあって、このアメリカ遠征のあとは代表から遠ざかっていた。そして、再びチャンスが巡ってきたのが、11月に行なわれた「なでしこチャレンジプロジェクト」だった。今後を見据えた戦力の底上げという大きなテーマもありつつ、指揮官にとっては来年に迫る東京オリンピックに向けて「切り札となるピースの探求」という側面もあった。

「今のなでしことは違う色を入れたい。もう一点が欲しいとか、変化が欲しいといったときの選手。その辺(選手層)の厚みというのは欲しい」(高倉監督)と、初招集やこれまで呼んだ中で今もなお気になっている選手が集められた。そこに池尻の名前もあった。今シーズンは韓国のWKリーグの水原WFCに所属し、フィジカルサッカーの中で徹底的に自らを鍛え上げた。

 もともと強い当たりにも対応できるタイプではあったが、韓国で1年間揉まれた成果は合宿2日目に行なわれた興国高校男子サッカー部との合同練習でも存分に発揮された。これが高倉監督に今大会への招集を決めさせた。

 ちなみにこの11月のなでしこチャレンジからは、池尻のほかに上野真実(愛媛FCレディース)、林穂乃香(セレッソ大阪レディース)も今大会で”昇格”している。

 池尻の強気なプレーは、初戦途中交代のファーストプレーでも見て取れた。「決めていた」という言どおりDFに真っ向勝負を挑む。右サイドはぶっつけ本番だったが、それでも虎視眈々とゴールを狙い続けた。積極的な攻撃の姿勢を貫き、代表初ゴールはPK。その後アディショナルタイムにも自らゴールを決め、2得点をマークした。

 しかし、最も池尻らしさが表われていたプレーは78分、途中交代の上野真実(愛媛FCレディース)からのスルーパスを受けた直後、左に切り返し、たった一歩で相手DFを振り切ったところだ。ゴールに至らなかったがこれは絶品のプレーだった。

「まったく満足していません。評価できるのは2ゴールという結果だけ」と初ゴールにも厳しい自己評価だった池尻も、この切り返しを振り返ると「あれはよかった」と表情を綻ばせ、「でもあれだけ。決められなかったですし」と気持ちを引き締めていた。

 池尻は第2戦の中国戦では、右サイドハーフでスタメンを勝ち取った。前半途中からはフィジカルで体を張れる池尻がトップに、岩渕がトップ下になり、中盤で長谷川唯(日テレ・ベレーザ)がスライドしながら攻撃を組み立てた。なでしこらしい流動にも違和感なく対応した。

 ビッグチャンスが訪れたのは78分、清水梨紗(日テレ・ベレーザ)のフィードを田中美南(日テレ・ベレーザ)が潰されながらも落とす。反応した池尻の左足シュートは無情にも枠を外れていく。タイミングは文句なし。池尻は悔しそうな表情を隠すことなく天を仰いだ。

「ホント決めたかった。めっちゃ悔しいです」(池尻)。自分の形に持ち込めていたからこその悔しさだろう。一緒に攻撃を組み立てた長谷川も「茉由は競れるし、強さもあるのでひとつ前(のポジション)に入ってもらったことで起点が作れた」と池尻の強みを最大限に生かしていた。

「決定力」はなでしこジャパンが克服すべき課題である。間違いなくワールドカップベスト16敗退の原因のひとつだ。各国が集大成として臨むオリンピックでは、アジアとは比べ物にならない程のスピードと圧のなか、一瞬のチャンスを逃してはならない。

 苦しい展開で、チームを救うゴールを決めることができるかどうか。池尻が自らの勝負強さをアピールできれば、ここから一気に18名入りという可能性も十分にある。粗削りの荒々しさは強さの証拠。なでしこジャパンに「異色のゴールゲッター」が定着するのも近いかもしれない。