筆者は10年ぐらい前に自著の中で、「将来、早期警戒機を無人化して、データはすべて地上に送って地上の管制官が指令を出す形態になる可能性」に言及したことがある。もっとも予想は得てして外れるもので、これまでのところ、早期警戒機の無人化という話はまるで具体化していない。

○戦場監視機は無人機が出てきた

ところが、合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)で地上の敵軍の動向を監視する、いわゆる戦場監視の分野では事情が異なる。

この手の機体の嚆矢となったのは米空軍のE-8B/C ジョイントスターズ(Joint Surveillance Target Attack Radar System)だが、それ以外にも英空軍のセンティネルR.1がある。E-8B/Cは中古のボーイング707を改造してSARを載せた機体で、機内に管制員を何人も載せている。

E-8C。マルチモードの側面視レーダーを用いて、敵のラインの背後にある地上車両を検出・追跡・分類する 写真:US.Air Force

米国ジョージア州ロビンズ空軍基地第93航空管制団のE-8C 写真:US.Air Force

一方、センティネルR.1はずっと小型で、ボンバルディア製のビジネスジェット機・グローバルエクスプレスにレイセオン社製のSAR、ASTOR(Airborne Stand-Off Reconnaissance)を載せたものだ。機内スペースが少ないから、管制機能の一部を地上に投げている。

続いて出てきたのが、ノースロップ・グラマンのRQ-4Bグローバルホーク・ブロック40である。E-8B/Cと同様、胴体下面にカヌー型のレドームを設けて、AN/ZPY-2 MP-RTIP(Multi-Platform Radar Technology Insertion Program)というSARを載せた機体だ。無人機だから当然、機上に管制官は乗っていない。データはすべて地上の管制ステーションに送る。

そのグローバルホーク・ブロック40に似たシステム構成をとる、同じ用途の機体がもう1つある。それがRQ-4D AGS(Allied Ground Surveillance)。

RQ-4D AGS(Allied Ground Surveillance) 写真:NATO

この機体は、NATO各国が共同で調達・運用する無人戦場監視機。もともと、AGS計画は有人機と無人機の混成案でスタートしており、グローバルホークを使用する無人化案に加えて、エアバスA320にSARを搭載する有人機を併用することになっていた。しかし資金などの問題から、前者の無人機案だけに絞り込まれた経緯がある。

仕事の内容は、米空軍のRQ-4Bブロック40もNATOのRQ-4Dも同じだが、後者は欧州諸国が関わっている関係から、欧州メーカー製のシステムを加えている点に違いがある。NATO加盟国にしてみれば「費用を分担するのだから、少し分け前をよこせ」というわけだ。

○なぜ戦場監視機だけ?

さて。航空機や艦艇を対象とする早期警戒機については、無人化する話は出てきていない。しかし、戦場監視機については無人化した機体が出てきている。この相違は興味深い。

そこでしばらく考え込んでしまったのだが、思い当たったのは「スピードの違い」だった。

地上を走る車両の速度は、せいぜい数十km/h程度である。平時の民間車両であれば、もっと速いスピードでハイウェイを走っているが、軍事作戦で問題になる「敵地上軍の動静」は、そこまで速い移動にならない。

ところが、航空機は話が違う。移動速度は数百km/hから、時には超音速の領域に及ぶ。地上を走る車両と比較すると、数十倍の差である。移動速度が速いということは、それだけ状況の変化が早いということである。目の前で起きている状況の認識と、それに対する味方ユニットに対する指令を、迅速かつ的確に行わなければならず、時間的余裕に乏しい。

そこで、「上空を飛んでいる機体から、センサー情報を地上に送る」→「地上にいる管制員が、その情報を見て状況を把握する」→「それに基づいて意思決定を行い、友軍ユニットに対して指令を飛ばす」といったプロセスの過程でいちいち、地上と上空を飛んでいる航空機の間でやりとりが発生するのでは、レイテンシが大きくなりすぎないだろうか。衛星通信が挟まれば、なおさらだ。

だから、スピードが求められる航空戦を司る早期警戒機は相変わらず管制員を乗せている一方で、そこまでのスピードが求められない戦場監視機は管制員を地上に降ろして無人化する事例が出てきた。と、そんなことではないかと考えてみたわけだ。

NATOがAGS計画で有人機の案を引っ込めて、無人機だけでやれると判断した理由には、「そんな考えもあったのではないか?」というのが個人的な推測だが、実際のところはどうなのだろうか。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。

マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。