ヤマダ電機の山田昇会長(右)と握手をかわす大塚家具の大塚久美子社長(左)(撮影:尾形文繁)

タイムリミットが目前に迫る中での決定だった。

大塚家具は12月12日、家電量販店大手・ヤマダ電機との資本提携を発表した。ヤマダは12月末にも第三者割当増資を引き受け、大塚家具の株式を約44億円で51%取得、同社を子会社化する。

ヤマダ傘下となった後も、大塚家具の大塚久美子氏は社長を続投する見通しだ。創業者である父・勝久氏との経営権をめぐる委任状争奪戦から5年弱。業績悪化に歯止めが掛からない中、久美子社長はついに自主再建を断念した。

プレゼンで「子会社化」の説明なく

12日夕に急きょ都内で開かれた会見は、久美子社長とヤマダの創業者である山田昇会長が出席した。

久美子社長は冒頭のプレゼンテーションで「時代に合った大塚家具にするため、あえて父のやり方を変えなければいけないこともあったが、ヤマダ電機との協業には大きな可能性があると確信している。提携により、家電や家具という枠を超えた暮らしの新しい選び方を提案していく」と述べた。

プレゼンでは、今年2月の業務提携以降進めてきたヤマダの店舗への商品供給やコラボ店展開による効果や、今後の協業の展望などが語られた。しかし、久美子社長からは、ヤマダによる「子会社化」や「グループ化」、「買収」といった言葉が出ることは一度もなかった。

それはこの1〜2年の間、資金繰りが逼迫する中でも、あくまで自社主導での再建を模索してきた久美子社長の複雑な胸中を表しているようでもあった。

2015年の委任状争奪戦で勝利した久美子社長は、父が築いた会員制の販売モデルを廃止し、低〜中価格帯の商品を増やすなど、富裕層以外に顧客を拡大するための改革を断行してきた。だが、国内の家具市場ではニトリやイケアといった自社で製造も手がけるSPAが台頭し、大塚家具は品ぞろえや価格競争力の面で見劣りが目立った。

父娘間での対立によるイメージ悪化も拍車を掛け、2016年度以降は販売不振で3期連続の営業赤字に転落した。

営業キャッシュフローもマイナスが続き、約20年にわたり無借金経営を貫いてきた強固な財務基盤も揺らぎ始めた。急減する現預金を補填するために売却を進めた有価証券や不動産も、直近ではほぼ底をついた。度重なる赤字で銀行の借り入れが厳しくなり、倒産すらも現実味を帯びる中、2018年以降はスポンサー交渉に明け暮れることになった。

経営権めぐり、膠着する出資交渉

スポンサー交渉の過程で足かせとなったのが、久美子社長の進退問題だった。ブランドの知名度と、高額品の販売スキルを身につけた営業部隊の存在に魅力を感じ、出資に関心を示す企業も少なからずあった。が、複数の元社員は「久美子社長は自身の経営権を維持するため、株式の過半を取られない形での提携を模索していた」と明かす。これがネックとなり、交渉はまとまらなかった。


大塚久美子社長は「ヤマダ電機との協業には大きな可能性がある」と記者会見で語った(撮影:尾形文繁)

一例が、2018年に浮上したヨドバシカメラによる買収案だ。大塚家具のメインバンクである三井住友銀行もお墨付きを出した本命候補だったが、ヨドバシ側が久美子社長の退任を求めたことで折り合いが付かず、破談となった。出資を断った別の企業の幹部は「久美子社長は自身が社長のままで複数社から出資してもらうことを期待したようだが、こちらで経営を指揮できる状態でないと、大塚家具の抜本的な業績改善は見込めないと感じた」と話す。

スポンサー交渉が膠着する中、救世主のごとく現れたのが、日中間の越境ECを手がける「ハイラインズ」と中国の家具販売大手「居然之家(イージーホーム)」だった。ハイラインズの陳海波社長が橋渡し役となり、日本式接客サービスの導入などに興味を持ったイージーホームは、大塚家具と資本提携を見据えた業務提携を2018年末に締結。2019年3月には、ハイラインズを中心としたファンドとアメリカ系投資ファンドから第三者割当増資で計26億円を調達した。

ただ増資後も、売り上げが回復することはなかった。今年の既存店売上高は、消費増税の駆け込み需要があった9月以外、すべての月で前年割れが続いている。

手元資金も減少の一途をたどる。今回の大塚家具の開示資料には、「保守的な計画値では2020年2月に(大塚家具の)現預金は約1.5億円となり、銀行借入等の資金調達が困難であることを前提とすれば、その翌月には資金が不足する可能性がある」と記載されており、資金繰りの苦しさが読み取れる。

イージーホームとの資本提携の兆しも見えず、市場関係者らによると、資金調達の最終的手段として、MSCB(転換価格修正条項付き転換社債)の発行に向けた具体的な検討に入っていた。そこへ以前から出資を打診していたヤマダが11月に資本提携に向けて同意する意向を示し、一気に話がまとまった。

出資を断り続けたヤマダはなぜ翻意したのか

自主再建は断念せざるを得なかったにせよ、自身の社長続投を許されたという意味においては、久美子社長にとって申し分のない提携となったともいえる。12日の会見で久美子社長は、「今回の提携を軌道に乗せることが経営陣の責任。引き続き全力を尽くしたい」と表明。山田会長も「来期の黒字化という目標へ、チャンスを与えなければいけない」と述べ、久美子社長を続投させる意向を示した。

一方、ヤマダはなぜ、今になって大塚家具の子会社化を決めたのか。ヤマダは2018年半ばにも大塚家具から出資を打診されたが、その際には拒否し、今年2月の業務提携にとどめた経緯がある。山田会長はこのタイミングで子会社化を決めた理由について、「改革の推移を見守る中で来期の黒字化を目指すことに手応えを感じてきた。そこまでの時間が必要だった」と説明した。

しかし、子会社化の決め手が黒字化の手ごたえだけなのか疑問が残る。山田会長は「大塚さんは(マスコミの)皆さん方にいろいろと騒がれて、えらい目にあってきた。ちょっとテコ入れをして、信用不安が解消すればすぐに回復する」と強調。久美子社長が直面してきた状況を慮っているかのようにも見えた。

確かに、大塚家具は不採算店の撤退や大型店の面積縮小といった改革により、賃料など固定費の削減を徹底してきた。山田会長は大塚家具の粗利益率の高さを示し、「売り上げが10%伸びれば黒字化できる」とも語った。

ただ、この数年間、先行きの不安や経営陣に対する不満から、大塚家具が強みとしていた営業力を持つベテラン社員は続々と会社を去っていった。現場の販売力が衰える中で既存店の売り上げはマイナスが続き、黒字化を掲げていた今2020年4月期の業績見込みも12日に撤回し、「営業損失を計上する見込み」とした。

たとえヤマダ傘下となることでのイメージ刷新が図られたとしても、厳しい市場環境の中で売り上げの大きな伸びは見込みにくい。

ヤマダ電機とのシナジーは未知数

ヤマダとの協業によるシナジーも未知数だ。現在、ヤマダの約20店舗に対して大塚家具から商品を供給しているが、両社の売り上げへの貢献度合いは微々たるもの。家電と家具両方を購入できるようになれば利便性はあがるとはいえ、低価格のイメージが根強いヤマダの店舗で、中〜高価格帯を強みとする大塚家具の商品をまとめ買いする需要がどこまであるかは不透明だ。

「家具のビジネスと関係者に対する愛情があるから、そういう意味で(会社の経営に対する)執着はある。やはり会社は守っていかないといけないもの」。6月に実施した東洋経済のインタビューで、久美子社長はこのように語っていた。

ヤマダの傘下となって資金繰りへの不安は消えても、大塚家具が現状のビジネスモデルで成長戦略を描くことは容易ではない。「結果主義」を標榜する山田会長の下、久美子社長は来期の黒字化という大きな課題をどう達成するかが問われることとなる。