宗田理原作の人気小説『ぼくらの7日間戦争』の「アニメ映画」が12月13日より公開されている ©2019 宗田理・KADOKAWA/ぼくらの7日間戦争製作委員会

「読んでから見るか 見てから読むか」という時代を突き刺すようなコピーを旗印に、角川書店(現・KADOKAWA)が仕掛けたメディアミックス戦略は、「映画が売れれば本も売れる」「本が売れれば映画も売れる」という相乗効果をもたらし、1980年代を中心に一大ムーブメントを生み出した。

1988年公開の実写映画は宮沢りえ主演で大きな話題に

『セーラー服と機関銃』『ねらわれた学園』『時をかける少女』『野獣死すべし』『戦国自衛隊』『Wの悲劇』など――。パワフルな作品を連発し続けた「角川映画」が有する名作の数々は、映画史においてさんぜんと輝き続けている。

そんな「角川映画」をはじめとした実写映画作品を「アニメ化」で再び世に出す動きが進んでいる。その第1弾として、1988年に実写映画化されたこともある宗田理原作の人気小説『ぼくらの7日間戦争』をアニメ映画化し、12月13日より全国公開されている。

1988年に「角川映画」の一本として公開された実写映画版『ぼくらの七日間戦争』は、管理教育で抑圧された中学生たちが廃工場に立てこもり、教師たちに反旗を翻すさまを描き出した青春アドベンチャー作品だった。雑誌のモデルや、テレビCMなどで注目が集まっていた宮沢りえの初映画主演作品として話題になったほか、TM NETWORKが手がける主題歌「SEVEN DAYS WAR」も大ヒットを記録した。

だが、当時の実写映画版『ぼくらの七日間戦争』の印象しかなかった人にとっては、今回のプロジェクトに「30年ほど経ってなぜアニメ化されたのか?」という疑問を抱くかもしれない。KADOKAWAで、IPEx事業本部 アニメ事業局を統括する工藤大丈局次長は、今回のアニメ化の経緯についてこう語る。


舞台は2020年の北海道の廃炭鉱。ただ「大人をやっつける」という原作のコンセプトは踏襲 ©2019 宗田理・KADOKAWA/ぼくらの7日間戦争製作委員会

「ちょうど今年3月で(KADOKAWAの児童書レーベルの)『角川つばさ文庫』10周年になる。そのタイミングで何かできないかということになり、あらゆる作品を改めて読んで検討をした結果、『ぼくらの七日間戦争』をアニメ化するのがふさわしいのではないかということになった。そもそも宗田先生の『ぼくら』シリーズは、年間数十万冊単位で今でも子どもたちに読み続けられている。40歳以上の世代には宮沢りえさんの映画の印象が強いが、実は世代を超えるタイトルとしても愛されている」

アニメ映画版『ぼくらの7日間戦争』を企画するにあたり、2006年に細田守監督が手がけ、KADOKAWA(当時は角川ヘラルド映画)が配給したアニメ映画版『時をかける少女』の存在は大きかったようだ。

『時をかける少女』の成功が呼び水に

同作の舞台は、1983年に大林宣彦監督が手がけた実写映画版のおよそ20年後の世界。青春映画の金字塔とも言うべき実写映画版をそのままアニメに移し替えるのではなく、原田知世が演じた主人公・芳山和子の姪である紺野真琴を主人公にすることで、現在にも通用する物語へとアップデートした。


「『ぼくら』シリーズは、いまだに子どもたちに読み続けられている作品」と語る、KADOKAWAアニメ事業局の工藤大丈局次長 (筆者撮影)

はかなげな存在感の主人公が魅力だった実写映画版に比べ、アニメ映画版では明るく快活なキャラクターになった。そんなアニメ映画版の評価は非常に高く、細田守監督が名実ともにブレイクするきっかけとなった作品として記憶されている。そして長きにわたって読み継がれている普遍性のある原作を換骨奪胎して制作するという方法論は、アニメ映画版『ぼくらの7日間戦争』でも踏襲された。

アニメ映画版『ぼくらの7日間戦争』は、『時をかける少女』同様、ベースとなる物語、魂は継承しながらも、全体的には現代風にアップデートされている。もちろん現代の高校生を描くために、スマホやSNSといった要素は欠かせない。

1988年の実写映画版は中学生たちが主人公だったため、「大人に対する反発」という部分をストレートに押し出せばよかったが、アニメ映画版では観客の間口を広げるために高校生の設定に変更した。だが、現代の高校生たちが閉鎖された炭鉱に立てこもるということにリアリティーを持たせるためには、一歩も二歩も踏み込んで、登場人物たちの悩みやアイデンティティーといったものに寄り添う必要があった。

「脚本のコンセプトとして、同時代性みたいなものは明確に取り入れようと考えた。もちろん仲間たちとワイワイしながら、ワクワクするような冒険を楽しむ、という部分は残しながらも、思春期の悩みやアイデンティティー、自己同一性みたいなところは現代風にアップデートした。そのあたりのバランスを見極めながら脚本を進めていった」(工藤局次長)。


宮沢りえが2020年の中山ひとみ役で声の出演を果たしている ©2019 宗田理・KADOKAWA/ぼくらの7日間戦争製作委員会

本作のスタッフ編成も、実写映画版の大ファンだった40代、50代のスタッフと、当時を知らず、新鮮さを持って本作に挑んだという20代、30代のスタッフを混合させたという。結果、当時の作品への思い入れが強いベテランスタッフの熱量と、新しいものをつくりたい若手スタッフの意欲が融合し、充実した作品をつくりあげることができた。

「基本的なターゲットは、やはり10代から20代前半ぐらいまでのアニメ好きな若い人たち。まずは彼らに楽しんでもらいたい。そのうえで、実写映画を観ていた親世代にも訴求できたらいいと思っている。実写映画とアニメ映画をつなげるキーワードとして、『SEVEN DAYS WAR』だったり、宮沢りえさん演じる中山ひとみを再登場させたりしているが、それはあくまで遊びの部分の位置づけ」と、工藤局次長は説明する。

2020年も過去の名作のアニメ化が相次ぐ

KADOKAWAは、同社が持つ、書籍の版権や、実写作品のIP(インテレクチュアル・プロパティ=知的財産)を活用した、アニメ化プロジェクトを推進しており、多くのファンに愛された原作・実写作品がアニメとしてよみがえることとなる。


田辺聖子の原作小説で、2003年の実写映画では妻夫木聡や池脇千鶴らが演じた『ジョゼと虎と魚たち』。2020年にアニメ映画版が公開される予定だ ©2020 Seiko Tanabe/KADOKAWA/Josee Project

現在発表されているだけでも、田辺聖子の原作小説で、2003年の実写映画では妻夫木聡や池脇千鶴らが演じた『ジョゼと虎と魚たち』のアニメ映画版が松竹との共同配給で、2020年公開予定のほか、石田衣良の原作小説『池袋ウエストゲートパーク』が、テレビアニメとして2020年に放送される予定だ。

「(アニメ映画版の)『時をかける少女』から『ぼくらの7日間戦争』まで、しばらく間が空いてしまったが、今後も強いIPを再生産して、お客さまに再提示していくということをやっていきたい。それは映画かもしれないし、テレビアニメかもしれない。配信作品という可能性もある。広義の意味でのIPの再生産というのは、おそらくこの後もずっと続くと思う」(工藤局次長)

豊富なIPコンテンツを有するKADOKAWAだけに、今後もわれわれをアッと驚かせるようなアニメ作品が続々と発表されるかもしれない。

(文中一部敬称略)