一瀬邦夫社長の個性的なキャラクターが今回は裏目に出てしまったかもしれません(撮影:尾形 文繁)

いきなり!ステーキ」が店頭に掲げた異例の「お願い」が物議を醸しています。

驚きを持って報じられているのは、その貼り紙が同店を運営するペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長の直筆で書かれているうえに、「お客様のご来店が減少しております」「このままではお近くの店を閉めることになります」という穏やかではないフレーズが並んでいること。

「いきなり!ステーキ」は、2013年に1号店を出店以降、急速に店舗数を伸ばし、2018年に全都道府県への出店を達成するなど成長を続けてきました。しかし、同年4月に前年同月比でマイナスに転落。その後、既存店売上高は右肩下がりを続け、今年10月に前年同月比41.4%減に至ったことが報じられるなど、業績の悪化が問題視されていました。

業績悪化の理由には、「急速な店舗数の拡大」「価格の高さと値上げ」「ライバル店の増加」「郊外出店の失敗」「客層が狭く広がらない」「ステーキそのものが飽きられた」などが挙げられていますが、ここではそれらではなく、社長の行った異例の「お願い」がどんな影響を及ぼしているのか、その是非を掘り下げていきます。

「お願い」なのに自画自賛の本末転倒

「いきなり!ステーキ」の店頭に貼られた文言は下記の通り。

「社長からのお願いでございます 従業員、皆元気良く笑顔でお迎えいたします いきなりステーキは日本初の格安高級牛肉の厚切りステーキを気軽に召しあがれる食文化を発明、大繁盛させて頂きました 今では店舗の急拡大により、いつでも、どこでもいきなりステーキを食べることができるようになりました

しかし、お客様のご来店が減少しております このままではお近くの店を閉めることになります

従業員一同は明るく元気に頑張っております

お店も皆様のご希望にお応えしてほぼ全店を着席できるようにしました メニューも定量化150g、200gからでも注文できオーダーカットも選べます

創業者一瀬邦夫からのお願いです ぜひ皆様のご来店を心よりお待ちしております」

最初と最後に書かれた「お願い」「ご来店を心よりお待ちしております」というフレーズを見れば、この貼り紙が来店を促進するためのPRであることは間違いないでしょう。

しかし、それに続くのが「日本初」「格安高級牛肉」「食文化を発明」「大繁盛」と自画自賛のオンパレード。これらが「上から目線」「鼻につく」、さらには「格安でも高級でもない」「本当に大繁盛しているのか?」という批判の声を集めてしまいました。

一瀬社長は、店頭に自らの顔写真を掲げているほか、CMにも出演するなど、いわゆる「表に出る」タイプの経営者だけに、冒頭にプライドの高さを感じさせるフレーズを続けたのは、「人々の反発を招く」という意味でマイナス。何より「お願い」のはずなのに、自画自賛してしまったところが本末転倒でした。

来店客減少の理由を顧客サイドに求める

次にようやく「お客様のご来店が減少しております」「このままではお近くの店を閉めることになります」というお願いのパートに入るのですが、気になるのは自社サイドの非にまったくふれていないこと。それがないため来店客数減少の理由を「いい店があることを忘れているのでは?」「閉店したらもったいないのでは?」と顧客サイドに求めるような印象を与えてしまいました。

さらに続く「従業員一同は明るく元気に頑張っております」「お店も皆様のご希望にお応えしてほぼ全店を着席できるようにしました メニューも定量化150g、200gからでも注文できオーダーカットも選べます」というフレーズが、「我が社はやるべきことはやっている」と自らに非がないことを強調しています。

一瀬社長はフジテレビのインタビューで、「『正しい情報を知ってもらいたい』という一心を込めました」「立ち食いじゃないですよね、椅子ありますよね。『椅子がない』と思って来られないお客さまもいっぱいいるわけですよ」と答えていました。確かに知らない人もいるでしょうが、それならば自画自賛は書かずに正しい情報のPRに徹したほうが、「それなら行ってみようかな」と好意的に受け止められたでしょう。

やはり貼り紙からは、一瀬社長の「ウチのステーキいいでしょ?」「こんなにいい店が近くにあるのに何で来ないの?」という隠し切れない自負があふれていたのです。

一瀬社長は、「『そんなに困っているのか』と思われたくないですよね。でも、それをあえてやったんですよね」「ここが正念場だと思っていますので、大勢の方にあと1回来ていただけたら」ともコメントしていました。

「窮状を正直に訴えてサポートをお願いする」という同情もPR戦略の1つであり、実際に「地元の店がピンチなら助けてあげよう」「他の店に浮気して悪かったな」と考える日本人の優しさに訴えかけることができます。

しかし、一瀬社長は「『そんなに困っているのか』と思われたくない」「でも、あえてやった」と、やはり自らの不本意さを明かしたうえで、行動を自画自賛してしまいました。本当に「正念場」と思っているのなら、もっと同情を引くために平身低頭でなければいけないのに、それをよしとしなかったのです。

社長や自治体の長などがトップセールスを行うときに最も重要なのは、ステイタスやプライドの高さを感じさせないこと。「腰が低く親近感を抱かせ、笑顔でユーモアを感じさせる」、もっと言えば「弱者を演じて同情を引く、道化になって笑われる」という姿勢でなければ、よほどほれ込んでいる顧客でない限り、「この人の商品を買おう」とは思ってもらえないものです。

一瀬社長は、「最高のステーキをね、お肉を用意していますので、来てくれたらうれしいなと思います」とも語っていました。企業のトップが自社商品に自信を持つのは当然であり、この点については問題ありません。

ただ、自社商品への自信と、自分自身や自分の仕事への自信を混同したまま、世間の人々に発信してしまったことで、「上から目線」と思われてしまったのでしょう。過剰な自信は「他人への責任転嫁」という印象につながりやすいだけに、企業のトップほど商品の自信は口に出しても、自分自身や自分の仕事への自信は口に出さないほうがいいのです。

営業努力を伝えず、来店願望に終始

今回の貼り紙は異例のことだけに、当初からメディアで報じられることは想定していたはずです。同社は先月から業績の悪化や44店の閉店などを報じられていただけに、「報道のネガティブな流れを変えたい」という思いもあったでしょう。

しかし、メディア報道やネット上の声を見る限り、流れを変えるどころか、ブランドと企業のイメージダウンは否めません。現在、「その前に味や価格の改善を」「新たな商品やサービスは?」などと営業努力の不足を指摘する声が飛んでいるのも、貼り紙の内容が「頑張っているから来てほしい」という単なる願望に終始したからでしょう。

もし「営業努力をしている」のなら、それもしっかり伝えてから「お願い」すべきであり、「ほぼ全店着席できる」「定量化150g、200gからでも注文できる」だけで人々を満足させられていないのは一目瞭然。「正念場」と言いながらも、その切実さが伝わらなかったのは、営業努力の説明不足もあったのではないでしょうか。

今回の貼り紙は、社長自らが窮状を明かし、しかも、それに相反するプライドをにじませたことで、「失敗した」だけでなく「この調子だと、もっと失敗するかも」というイメージを抱かせてしまいました。一度ついた「失敗」「もっと失敗するかも」というイメージは、よほどの業績アップや大ヒット商品が生まれない限り、覆すのは難しいところがあります。

ただそれでも、「いきなり!ステーキ」が社長の貼り紙で注目を集めているのは事実であり、「ここからどう改善していくのか?」が企業としての踏ん張りどころ。「『いきなり!ステーキ』を回転寿司のような文化に」という理想から離れ、一瀬社長だけでなく、幹部から現場まで、すべての社員が大小さまざまな改善策を打ち出し、できることから速やかに実行していく姿勢が望まれているのです。

店員たちへの「脅し」「パワハラ」の声も

企業一丸となって立て直しを図る上で1つ心配なのは、貼り紙をされた各店舗で働く店員たちの心境。

店頭に「このままではお近くの店を閉めることになります」と書かれた店の中で働かなければいけないのはつらいことであり、さらに来店客から「この店はどうなるの?」「会社はヤバイの?」などと尋ねられることもあるでしょう。

また、「このままではお近くの店を閉めることになります」は、一般の人々に向けた言葉に見えますが、実際のところ店員たちの胸を締め付けるものであり、ネット上で「店員たちへの脅しでは?」「これもパワハラだろう」という声も見かけました。

「来店客が増えなければ閉店する」という話だけではなく、各店舗で働く店員たちのモチベーションや、顧客に提供されるサービスの質という意味でも、やはり今回の貼り紙は効果的だったとは言えないのです。