割り勘にしたい男性と、「男性がお金を出す」のが当たり前と考える女性の行く末は?(写真:Kazpon/PIXTA)

男女平等の社会になって久しいが、“お金は男が払うもの”、お茶代や食事に関しても、“男性が払うことが格好いい”という風潮は、いまだに残っている。

仲人として婚活現場に関わる筆者が、毎回1人の婚活者に焦点を当てて、苦悩や成功体験をリアルな声とともにお届けしている連載。今回は、「時代とともに変わりつつある、結婚にまつわるお金事情」を一緒に考えたい。

支払っていたのは、相談所の規則だったから

4カ月ほど前のこと。「先日婚約破棄をした」という榎本麻里絵(仮名、35歳)が面談にやってきた。親戚の経営する会社で、経理事務をしているという。おとなしい、品のいい印象を受ける女性だった。


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麻里絵は、言った。

「大手相談所で出会い、婚約した男性がいました。お見合いからデート期間中は、お茶代も食事代も私の分はお支払いしてくれたのに、退会してからは私からお金を取るようになりました。その後、指輪代や結婚式の費用など、お金の話になると、きっちり折半するんです。

浪費家は困りますけど、何でもかんでも支払いが平等という彼の考えに、何か男としての器の小ささを感じてしまい、気持ちが冷めてしまった。結局婚約は破棄をしました」

婚約したのは、同い歳の藤倉亮一(仮名)。大手メーカーに勤める、年収600万円の男性だった。

「相談所でお付き合いをしていたときに、お茶や食事代のデート代を払ってくれていたのは、仲人さんから、『お支払いは男性がしてくださいね』と言われていたからだそうです。その頃から“男だけが払うのはヘンなシステムだな”と疑問を抱いていたようです」

そして、成婚退会をし、その後のデートのときにこう切り出された。

「これから結婚に向けて、お金もかかるようになるよね。いろいろ話し合いながらやっていこう」

言われるがまま、「そうね」と返事をした麻里絵だったが、ランチを終えてカフェを出るときに、亮一の言葉の真意を理解した。伝票を取って席を立とうとしている彼が、こう発したからだ。

「1人980円で消費税がかかるから、1000円もらってもいい?」

「結婚でお金がかかるようになるから、いろいろ話し合いながらやっていく」というのは、「これから食事代などのデート代は、“割り勘で”という意味だった。

「ウチでは、家族で食事をすると、そこの支払いは父がする。母はお財布を開いたことがなかった。だから、“男性が払って当たり前”という考え方が身に付いていたんだと思います。あと、33歳のときから結婚相談所で活動をしていますが、デートすると男性がお支払いをしてくださるので、それが当たり前になっていた。逆に割り勘にしてくる男性は、お断りしていました」

父母へのお土産はあっても、姉夫婦にはナシ

成婚退会した翌月には、亮一が麻里絵の実家に結婚のあいさつにやってきた。両親だけでなく20代で結婚をした3つ上の姉・葉子とその夫・正彦(ともに仮名)、2人の姪も実家に集い、亮一を迎えた。

そのときのことを麻里絵は、私にこんなふうに回顧した。

「姉夫婦が子どもを連れてくるというのは、伝えてあったんです。亮一さんは、両親へのお土産には老舗和菓子屋のようかんを持ってきました。でも、姉夫婦には何のお土産もなかった。私たちのために時間を作って家族で来てくれたのだから、そこは気を使ってほしかった」

そしてその翌々週には、北海道の亮一の実家にあいさつに行くことになった。飛行機のチケットを亮一が取ってくれたのだが、2枚分の料金レシートを見せられ、その半額を請求された。

「弟さんご夫婦も来てくださると聞いていたので、私はご両親へのお土産と弟さんご夫婦へのお土産を用意して、ごあいさつに伺いました。弟さん夫婦には3歳になる男の子がいると聞いたので、絵本も持っていきました」

亮一の両親も弟夫婦も、笑顔で迎えてくれた。北海道は、魚介類がおいしい。サーモン、いくら、ウニなどの新鮮な魚介類を食卓に並べて、もてなしてくれた。また両親だけでなく、弟さん夫婦や子どもにまでお土産を持っていったことにしきりに恐縮しながらも、とても喜んでくれた。

「亮一さんも、『弟たちにまで、ありがとう。気がきくね』と言ってくれたので、結婚したら、“こういうことを少しずつ彼ができるように私が助言していけばいいや”と思っていました」

こうして、結婚話はどんどん進んでいったのだが、かかったお金をきっちり割り勘にしていく亮一に、何か心の中でモヤモヤするものを感じるようになっていった。

ある週末、婚約指輪を買いに行くことになった。

「銀座にある有名ブランド店に行って、50万円のダイヤの指輪を買っていただきました。同じ店で結婚指輪も一緒に買ったのですが、ブランド店だったので、1人16万円でした」

指輪の裏側に2人の名前を刻印してもらうことになったので、その日は指輪を受け取ることはなく、亮一がカードで支払いをして店を後にした。

その2週間後に2人で指輪を取りに行き、その後銀座でランチをした。

左手の薬指にはめたダイヤの指輪を麻里絵がうっとりと眺めていると、亮一から、驚きの言葉が飛び出した。

「この間、ネットで結婚準備のことをいろいろ調べていたら、“男が婚約指輪を贈ったら、女性は3分の1程度の値段の記念品をお返しする”らしいよ。あと、結婚指輪はお互いがお金を出して買うというのが一般的みたいだね。婚約指輪のお返しはさておき、結婚指輪の16万円はもらってもいいかな」

ダイヤのきらめきに夢見心地だったが、冷や水を浴びせられたように現実に引き戻された。

そのときのことを、麻里絵は私にこう言った。

「それで、私も家に帰ってきてネットで調べたんです。有名な結婚情報誌のサイトには、確かに“婚約指輪のお返しには3分の1くらいの金額で、男性が日常で使う時計やスーツなどを贈る”って出ていました。ただそこには、何百人かに聞いたアンケート結果も載っていて、そうやってお返しをしている女性は全体の60パーセントくらいでした」

今どきの結婚の支度金事情

そのことを実家の親に電話で告げた。すると、母が言った。

「あら、そうなの? じゃあ、婚約指輪のお返しを何かしないとね。結婚指輪のお金も16万円お支払いしないと。それにしても、随分お金にキッチリとした人なのね。今回は、結納金もないのと同じだし。葉子のときは結納金いただいたけど」

姉・葉子のときとは勝手が違うことに、母親も苦笑いするとともに驚いていた。というのも結納金については、亮一の実家にあいさつに行ったときに、こんなことを言われたからだ。

「今の時代なので、結納金というのもおかしな話ですよね。その代わり、結婚の支度金として、亮一の銀行口座にまとまったお金を私たちから振り込むので、新居を構える準備資金の一部に当ててください」

これを聞いたときに、麻里絵は思った。結納金ならば女性側がもらうので、支度金として自由に使える。でも、亮一の口座に入っているお金は勝手に引き出せないし、亮一の了解のもと結婚資金に充てることになる。

この話を両親にしたときにも、「あら、そんなことを言ってるの。じゃあ、ウチでも、あなたの口座にまとまったお金を入れるから、それを結婚の準備資金にしなさい」

そして、次のデートで亮一に会ったときに、指輪にまつわるお金の話をした。

「結婚指輪のお金は、払うね。でも、婚約指輪のお返しは、する人としない人といるみたい。ただ親も、『ちゃんとお返ししなさい』と言っているので、何か記念になるものを買おうと思うんだけど、何がいい?」

すると、亮一がとてもうれしそうな顔で言った。

「本当? じゃあ欲しいパソコンがあるんだけれど、それを買ってもらってもいいかな。多分、15万円くらいだと思うんだけれど」

遠慮する様子もなく、ちゃっかりとパソコンを笑顔でねだる彼に、興ざめするものを感じた。

姉の夫に比べて自分の夫になる人は…

ここまで話すと、麻里絵は私に言った。

「私も働いているし、男女平等の時代なんだから、女性側も甘えていないで、お金を払払うのが当たり前なのは、理屈ではわかるんです。でも、なんだろう。

彼には“私を喜ばせたい”とか、“自分のほうが稼いでいるのだから、少し多く出してあげよう”とか、そういう思いはないのかなって。大切にされていないような気持ちになってしまったんです」

そして、母親も言っていたように、姉の夫の正彦との違いに愕然とした。なんだか自分が結婚相手を選び間違えたような気持ちになった。

「姉は25歳のときに、10歳上の義兄と結婚しました。結納金もあったし、婚約指輪も結婚指輪も義兄が買ったし、2人が住むマンションも用意してくれた。姉が払ったのは、結婚式にかかった半分の金額だけだったと聞いています」

ただ、義兄の正彦と亮一では、稼ぎも違うし、育った環境も実家の資産も違う。それは、最初からわかっていたことだ。

正彦の実家は、地元に500坪の家を構え、その地域の地主でマンションや駐車場も複数所有していた。正彦自身も上場企業に勤め、姉と結婚するとき、年収は1000万円を超えていた。

「義兄は、実家の親と私と姉の家族で外で食事をすると、お店を出るときにすっと伝票を持って支払いを済ませてしまう、そんな人なんです。とにかくお金の使い方がスマート。そういうのをずっと見てきて、“すてきだな。男はこうでなくっちゃ”って思ってたのに、自分が結婚しようと思っている男性は、全然違ってたんです」

そして、麻里絵は自嘲気味に続けた。

「ま、姉が結婚したのは25歳のとき。私は今35歳。女の価値が違うってことなんでしょうかね」

結婚の話が進んでいくうちに、「このまま結婚をしていいのか?」という疑問は日に日に膨らみ、結局出した答えが、“婚約破棄”だった。

婚約指輪の代金精算で終わった

都内のカフェで、「結婚をやめたい」と言うと、これまで一度も声を荒らげたことのなかった亮一が、怖い顔をしながら押し殺すような声で言った。

「何を言い出すんだよ!」

周りの客を気にして、大きな声が出せなかったのだろう。

「ここのところちょっと様子がおかしいと思っていたけど、なんで急にそんなことを言うの? もう親にも紹介しちゃったし、そんないい加減な気持ちだったの?  無責任じゃないか」

こう言うと、彼はポケットからスマホを取り出して時間を確認し、財布からお茶代の500円玉と100円玉硬貨を出すとテーブルの上に置いて言った。

「お互いに冷静になって、ゆっくり話そう。もう今日は行かないといけないから」

その日は、18時から亮一の前の職場の仲間たちとの飲み会が入っていた。出なきゃいけない時間ギリギリに結婚を取りやめる話を切り出したのは、この場でもめたくない麻里絵の計算だった。

そこからはもう会うことはせず、電話とLINEでの話し合いになった。亮一は、「会って話そう」と何度も言ってきたが、会いに行く気持ちにはなれなかった。また、「結婚をやめたくなった理由は何?」と聞かれると、「あなたとは生きていく価値観が違う」としか答えられなかった。

浮気をした、暴力を振るった、暴言を吐いたというのであれば相手に非がある。しかし、お金をキッチリ折半にすることは、決して悪いことでなない。麻里絵が、そういう男性を好きになれなかったという、感情の問題だ。

何を言われても、「結婚はやめたい」と返していた麻里絵の元に、亮一から最後のLINEが来た。

「わかりました。結婚できないと言っている女性と、無理に結婚しようとは思わないので、白紙に戻しましょう。最後に、お金の精算をさせてください。結婚指輪はお互いに買ったことになっているけれど、婚約指輪に関しては、そちらが買い戻すという形を取っていただこうと思います。指輪の代金を振り込んでください」

こうして、ダイヤの指輪の代金を振り込み、婚約は解消された。

麻里絵は、私に聞いてきた。

「私みたいな考え方だと、これから結婚は難しいですか?」

私は、麻里絵に言った。

「そうですね。今の時代、“お金は男性が払うもの”と思っていたら、結婚は難しい。元婚約者の方は、確かにお金にキッチリしすぎているところがあったけれど、お姉様のご主人のような男性のほうが珍しい。ほとんどいないと思っていたほうがいいですよ。それにしても結婚指輪の16万円も、随分高かったですね」

「あ、それは、彼にも言われました。『周りに聞いたら、結婚指輪なんて3万円から5万円くらいだと言っていたよ』って」

この面談を終え、その後私の相談所で婚活を始めた麻里絵だったが、3カ月後には退会していった。結局、理想の相手は見つけられなかった。

金払いのいい男性は、格好いいし魅力的に映るが、そこに執着していると、お相手は見つからない。また、麻里絵のように「お金を払ってもらう」イコール「男性から大切にされている」という考え方ももはや時代錯誤になりつつある。