チームの生産性を向上させる秘訣とは?(写真:kikuo/PIXTA)

同じ社内や部署でも、生産性の高い「強いチーム」と、なかなか成果を上げられない「弱いチーム」ができてしまうのはなぜでしょうか。今回は、人材開発支援会社、コーナーストーンオンデマンドの経営陣のブログから、「強いチーム」を作る秘訣を紹介します。

「崖っぷち」のチャレンジをしているか

私がチームミーティングでいつも聞いていることに、「あなたには、今週『Oh, No!モーメント』はありましたか」というのがあります。

新しいことに挑戦しようとする時に感じる恐さ、いよいよ本番が始まる、元に戻れないような判断などを伴う、崖っぷちにいるような極限状態で「Oh, No!」と叫びたくなるような「崖っぷちの瞬間」を指しています。ひいては、「リスクをとって自分でチャレンジしたことは何ですか?」ということです。


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ミーティングでは1人ひとりの「Oh, No!モーメント」を話してもらって共有し、そのチャレンジをチームで応援するようにしています。私のチームが最も価値を置いているのが、チャレンジすることだからです。

リスクを避け、整備された道を選ぶことはたやすいですが、勇気をもって崖を飛び越えなければ「ブレイクスルー」は生まれません。経験のないことをやってみるわけですから、失敗に終わるものもたくさんあります。しかし、たとえ失敗であってもそれを前向きに捉え、「じゃあ、今度はこうしてみよう」と次につながるコミュニケーションをすることで、チームが成長できるのです。

急激な変化が起きている昨今、市場の変化に伴って、目標や進むべき方向性も当然変化します。これに対する適応力や俊敏性は、リーダーにもチームにも必要です。こうした中で、「Oh, No!モーメント」を多く経験することになるでしょうが、それを成長の糧にしていくことがチームにとってとても重要なのです。

「Oh, No!モーメント」を多く経験できるような環境はどんなものでしょうか。グーグルが行った調査で一躍注目された「心理的安全性(サイコロジカル・セーフティー)」という言葉があります。

「プロジェクト・アリストテレス(Project Aristotle)」と名付けられたこの調査プロジェクトで、グーグルは社内の180のチームを対象に、生産性の高いチームに共通する要素を検証しました。グーグルがこれについて書いた記事によると、導き出されたいくつかの要素の中で、最も重要なものと結論づけられたのが「心理的安全性」、すなわち、「『無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ』と信じられるかどうか」でした。

誰かの顔色をうかがって満足に意見もぶつけ合えないような環境では、イノベーションは起きようがありません。個々のメンバーにとって、そのチームが「ある程度のリスクをとっても大丈夫」「失敗しても大丈夫」と感じられる「安全な場所」でなければ、チャレンジの機運は生まれないのです。

「強力なチーム」と「弱いチーム」の違い

安全な場所だとチームが思うにはどうすればよいでしょうか。そこで「Oh, No!モーメント」の共有が意味を持ちます。共有して、たとえ失敗したものであってもみんなで応援していることを示すことで、チームに徐々に「心理的安全性」をもたらします。私自身もリーダーとして、オープンに自分の失敗談や新しいチャレンジの顛末などをメンバーの一員として話すようにしています。

「強力なチーム」と「弱いチーム」の違いは何でしょうか。私は、前者が多様な強みを持った集まりなのに対して、後者は同じ強みしか持ち合わせてないチームだと思っています。強力なチームは、互いの違いや強さを認め合うから、補完し合うことができ、刺激しあうことでさらに強くなります。

昨今、ダイバーシティー(多様性)に加え、インクルージョン(受容性)という考え方が注目されています。ダイバーシティーとは、性別、人種だけでなく、その人の内面、すなわち思考スタイルや経験も含めた多様性のことで、インクルージョンとはそれを迎え入れることです。多様性は受け入れる素地があることではじめて機能します。

多様性を受け入れるには、先ほど述べた「心理的安全性」がチーム全体にあるかどうかが大きく作用します。互いに競争意識が高くピリピリしているチームには難しい課題です。

15年ほど前、私はノウレッジ・インフュージョンという人材コンサルティングを立ち上げたことがあります。コンサル会社を立ち上げる場合、定石に倣えばデロイトやPwCなどグローバルに展開する大手出身の熟練コンサルタントを招くところですが、私はせっかく起業するなら型にとらわれない大胆な発想で差別化を図りたいと考えました。

そこで、さまざまなバックグラウンドを持つ人材を迎え入れました。ソフトウェアベンダー、人事とはまったく畑違いの業種で経験を積んだシニアマネジャーなどです。約60人のメンバーのうち、コンサルタントは1割にも満たない陣容になりました。

結果的にはこの戦略が功を奏しました。これまでの金太郎飴的な繰り返しの戦略立案でなく、本当の意味で斬新なアイデアや、顧客目線に立った戦略が、活発な議論から次々と生まれたのです。自由闊達に意見が言えるチーム形成のおかげだと思います。

クライアントからは「大手のコンサルティングファームと付き合うよりも大きな価値が得られた」との評価をもらいました。強力なチームとは、多様な強みを持った人の集まりなのだと、身をもって実感させてくれたチームでした。

従業員の「体験」を向上する

多様性のあるチームがさらに強力になるためには、それぞれが強みを発揮できるような業務を任せ、さらに個々の強みに合わせた育成計画を作ることが重要です。人は、弱点を補強するよりも、強みを伸ばすことに時間やコストをかけたほうが、成長の度合いが大きいとも言われています。

成長できているという実感が大きくなれば、仕事への熱意やエンゲージメントも高まります。チームメンバーには、定期的にそれぞれの興味や経験について自己申告してもらいましょう。変化はあってしかるべきことです。そして、それぞれの興味や強みを知ったら、その分野をより伸ばすような育成環境やチャレンジできる環境を作っていきましょう。

HR業界では昨今、従業員の体験をよりよいものにしようという取り組みに注目が集まっています。人事や経営陣が社員を「管理」するのではなく、働くことを通して社員の体験を充実させようという考え方です。

自分の得意な分野や強みを発揮できる業務に従事させる、その才能を伸ばせるチャレンジを与える、というのはそうした体験を充実させる施策の1つでしょう。こうした社員目線のアプローチは、今の社会によりあったものといえ、今後ますます増えていくのではないでしょうか。