騒音というとジェット機が問題になることが多いが、ターボプロップ・エンジンを使用する機体でも音は出るし、ヘリコプターも同様である。ということで、この辺の機体についても考えてみたい。

○ヘリは頭上に騒音発生源

もう7年ぐらい前の話になるが、ユーロコプターEC135 (当時。現在はエアバス・ヘリコプターズH135)に乗せていただいて、神戸市の上空をぐるっと一周してきたことがある。おかげでポートライナーの車両基地を空撮する、なんて経験もできた。

ユーロコプターEC135(当時。現在はエアバス・ヘリコプターズH135)

閑話休題。その時に感じたのは、「ヘリコプターの機内というのは、意外と騒々しいものだな」ということ。よくよく考えてみれば当然の話で、頭上にエンジンとトランスミッションがあって、それが大きなローターを回しているのだから、音が出ないはずがない。

そのほか、ローターから発生する騒音として、以下のものがあるという。

回転騒音

ローターの回転面内にある空気がローターによって押し下げられて、それによって発生する圧力変動が騒音発生源になる

広帯域騒音

ローターのブレード面上とその後流に発生する、高い周波数の渦が騒音発生源になる

ブレードスラップ音

ヘリコプターというと、つきものの「パタパタ音」がこれ。先行するブレードが引き起こした渦の中に次のブレードが突入して、渦の周囲にある強い吹き上げ・吹き下ろしの中を通過する際に発生する圧力変動が騒音発生源になる。また、ローターの回転数が上がってブレード先端の速度が臨界マッハ数に接近すると、局部的に生じた衝撃波が騒音発生源になる。

もっとも、これらが問題になるのは主として機外であり、かつ、静粛性を高める対策や、運航方法の工夫ががいろいろと考案されている。機内ではむしろ、頭上にあるエンジンとトランスミッションのほうが問題になる。なにしろ騒音発生源との距離が近い。

エンジンはどうしようもないが、トランスミッションは歯車機構に工夫をして静粛化を図ったり、回転部分とキャビンを直結しないようにしたり、防音壁を挟んだり、といった手が打たれている。しかし、「静粛」とは程遠いのが実情ではないだろうか。

時々、例外があるが、ヘリコプターのエンジンとトランスミッションは基本的に、胴体上部に取り付いている。だから必然的に、キャビンにいる人の頭上に騒音発生源が陣取る図式になってしまう。レイアウトを根本的に変えない限り、どうにもならない。

エンジンとキャビンの距離、ということなら、V-22オスプレイみたいなティルトローター機はエンジンが主翼の端に付いていて、キャビンから遠い。その分だけ騒音発生源は遠ざかるはずだが、実際に乗ってみたことがないので、騒音の程はわからない。誰か乗せてくれないものだろうか。

それに、なにせ軍用輸送機だ。キャビンの吸音対策が民間機並みとは思えないから、それなりに騒々しそうではある。飛んでいるところを外から見ている限りでは、普通のヘリコプターと大差ない騒音だと感じるけれども。

○ターボプロップ機の機内騒音

では、ターボプロップ機はどうか。ちょうど先日、久しぶりにATR42に乗ってきたが、エンジンが発する騒音よりも、プロペラ周りで発生すると思われる重々しい音が目立つなあ、という印象があった(個人の感想です)。

こちらもまた、大気中でプロペラが回転することに起因する騒音がいろいろある。それはターボファン・エンジンのファン部分と同じだが、ターボプロップ機ではプロペラが露出していて、しかもキャビンに近いところにある分だけ対策が難しい。

ATR42の機窓から。キャビンからそんなに離れていないところで、プロペラが回転していることがわかる

しかし、大きなプロペラを回しているものだから、主翼以外に適切な取付位置がない。ジェットエンジンでは後部胴体の左右に取り付ける形態もあるが、プロペラを回すターボプロップ機では無理である。

例外として、1970〜1980年代にかけてターボプロップ機の推進効率改善とスピードアップを企図して研究されていた、プロップファンがある。筆者ぐらいの年代の方だと、「未来の旅客機はこうなる!」といってプロップファンを使用する機体のポンチ画がいろいろ出回ったのを、覚えておられるのではないだろうか。(気になる方は、キーワード「propfan」 で画像検索してみよう)

羽根の枚数が少ない大きなプロペラを回す代わりに、プロップファンでは羽根の枚数を増やすとともに二重反転化して、かつ、羽根の長さを縮める。つまり、ナセルの周囲に多数の短い羽根が生えて、それがグルグル回る形になる。

これなら尾部に設置できるということで、プロップファン機のポンチ画ではリアエンジン配置になっているものが出回った。しかし、プロップファンを使用する実用版の民間輸送機は、今に至るまで登場していない。

もう1つの手として、機体のレイアウトを根本的に変えてしまう手がある。つまり、先尾翼機にして主翼の位置を後ろに持って行き、そこに牽引式(トラクター式)ではなく推進式(プッシャー式)でエンジンを取り付ける。

エンジンが機体の後方に取り付き、しかもプロペラは主翼よりも後方に位置するので、プロペラから発生する騒音をキャビンから引き離すことができる。

これを実際にやったのが、ピアッジオ・エアロスペースのP.180アバンティや、ビーチクラフトのスターシップ。商業的には大失敗に終わったが、スターシップは美しい飛行機だと思う。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。

マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。