20代半ば過ぎ、バンド活動を諦めて就職しようと思っても、なかなか簡単に仕事を探すことは難しい。しかしチャンスがないわけではない(写真:稲垣 一志/PIXTA)

就活ひきこもり」から脱却する方法はあるのか。

2019年10月10日、「就活ひきこもりの社会復帰を阻む4つの壁」という記事を公開した。


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この記事では、就職活動での挫折により、求職活動から距離を置いている人たちや、やりたい仕事がわからない、どんな仕事があるのかわからないといった情報不足により就職に踏み出せない人たちを「就活ひきこもり」と定義した。

このような就活ひきこもりが増えることは、社会的に労働力不足となるだけでなく、若者を中心とした失業者が慢性的に存在することにより、社会の活力を大きく損なう。

就職を決意する前に立ちはだかる壁は高い

政府は人手不足を解消するために、女性、高齢者、外国人の活用に注力したり、生産性を上げるためのIT化を推し進めたりしているが、就活ひきこもりも同様に社会課題として解決する必要性があると筆者は考えている。

就活ひきこもりの社会復帰を阻むのは、次のような4つの壁だ。

1つ目の壁:「就活開始」に対する壁
2つ目の壁:「仕事選び」に対する壁
3つ目の壁:「面接」に対する壁
4つ目の壁:「就活継続」に対する壁

その1つ目の壁である「就活開始」に対する壁を越えるためには、自分と同じ(もしくは似たような)境遇の他人の事例を知ることで、成功イメージを持ったり、強い危機感を抱いたりすることが重要だ。

本記事では、筆者が所属する既卒・第二新卒・フリーターの就職支援会社UZUZ(ウズウズ)に、就職支援の登録をし、結果「就活ひきこもり」から社会復帰を果たした人の事例を紹介していく。同じ境遇で就職できずに就活ひきこもり状態となってしまっている人たちが、この記事を読んだことがきっかけとなり、1歩目を踏み出してもらえればと思う。

【今回の紹介人物のプロフィール】
氏名
:佐藤 乙也(仮名)
性別:男性
年齢:26歳(就業サポート当時)
最終学歴:日本大学
就活ひきこもりのきっかけ:バンド活動による留年(1年半)、卒業後のフリーター期間(2年間)
就活ステータス:既卒(学校を卒業して就業経験がない状態)
現在の職業:営業職(マネージャー)

バンド活動に傾倒、「赤髪」が悪目立ち

東京都大田区で生まれた佐藤さんは、小中高と公立の学校に通い、大学は日本大学に進学した。ただ、大学への進学はストレートとはいかず、1年間浪人。高校時代に入った軽音部でのバンド活動にハマりすぎてしまったからだ。

大学に進学してからも、音楽活動に没頭。軽音サークルに入り、勉強そっちのけでバンド活動ばかりの日々を過ごしていた。かなり力を入れて活動し、全国ツアーをするようなハードロックバンドのメンバーにも名を連ねた。そして、2枚のCDを発売する経験もする。

しかし、学業とバランスを取るのは難しかった。バンド活動には波があり、夏と冬が最もライブが多い時期になる。しかし、ちょうどその時期は大学の期末テストに重なるタイミング。ライブを優先したため、どうしてもテスト勉強はおろそかになる。

卒業するためには、当然、単位を取得する必要があったが、合格点に満たない試験が相次いだ。そこで、担当教授に再試験やレポートを提出して、評価の加点をお願いするが、まともに授業に出ていない佐藤さんに対して、どの先生も冷たい反応だったという。

何より、佐藤さんは当時「赤髪」だったこともあり、イヤでも目につく。出席したときも、出席していないときも同じように目立ってしまったことで、出席していないことがすぐにわかってしまう。そうした「悪い心証」を与えてしまったことも手伝って、卒業には5年半かかった。

大学卒業後も佐藤さんは、就職することもなく、バンド活動を続けた。ただ、バンドだけで食べていくのは難しいので、アルバイトをしながら生計を立てた。バイト先は、「夜のお店」向けのケーキ専門デリバリー。一般家庭の注文は受けず、六本木、赤坂、西麻布といったエリアにあるスナックやクラブ向けにケーキを配達する仕事だ。

配達方法は昔ながらの岡持ちスタイル(箱に入れて自転車で配達)。ケーキを運ぶ容器が透明だったことでデコレーションされたケーキは丸見え、それを運んでいるバイトは「赤髪」だったので、とても目立ったという。

ただ、目立ちたがり屋の佐藤さんとしては、気持ちのいい仕事で、「キツいのは、坂の多い六本木で自転車を漕ぐつらさくらい」と振り返る。バイト代も高額で、月に25〜30万円程度と、大学の同級生の初任給よりも稼げたという。「バイト仲間も同じようなバンドマンやお笑い芸人だったので、気が合う人たちばかりの最高の職場でした」(佐藤さん)。

交通事故を契機に就職を考える

しかし、楽しいフリーター生活も配達中に交通事故に遭ったことを契機に終わりを告げる。「俺、何やってんだろう。就職しないと」と、就職活動を始める。

当初はハローワークで職を探し始めたが、事故の影響で腰を痛めているにもかかわらず、建設現場の仕事などを紹介されたため、利用をやめた。「26歳で、就業経験もない自分には肉体労働しかないと言われた。卒業後の空白期間があると、こんなにも就職が難しくなるのかと痛感しました」(佐藤さん)。

肉体労働以外の仕事を探すために、民間の就職エージェントの利用も開始。ネットで見つけた既卒専門の就職エージェントにもいくつか登録した。その中で、出会ったのがUZUZだった。

キャリアカウンセリングのために会社を訪れた際、ハードロックなファッションに長髪という恰好だったと振り返る佐藤さん。「今思うと、完全に就職活動をナメている格好。でも、担当してくれたキャリアカウンセラーの方は、私を見た目で判断するのではなく、しっかりと私の話に耳を傾けてくれ、どんなことを考え、望んでいるのかを真剣に聞いてくれた」。

ハローワークのときとは違う対応に、自分らしく、希望をかなえられる就職ができるかもしれない、と期待を持ったという。

求人を紹介する際に、「未経験から専門性を身に付けられ、ニーズがある仕事は2種類。1つはITエンジニア、もう1つは営業」と告げられる。そこで佐藤さんは、「パソコン使えるのでITで」と即答する。バンドでベースの演奏を担当する以外に、ライブ映像の作成や編集も行っており、PC関連機器の扱いには慣れていた。たいしたスキルではなかったが、ITエンジニアのほうが仕事のイメージをしやすかったという。

選考を受けるまでに、「髪の毛を切ること」「面接ではスーツを着用すること」と釘を刺されたので、その日のうちに就活用のスーツを買って、髪の毛も切った。そして、自分の希望条件を満たしていたIT企業を2社受け、無事に内定を得る。就職活動期間は1カ月かからなかったという。

入社した企業では、入社前の住み込み研修でCCNAというシスコ社が認定するIT専門資格を取得、その後、クライアント先に常駐する形で就業する。先輩社員と3人体制のチームを組み、ITインフラ(ネットワーク、サーバー)の運用や保守、構築といった仕事に携わった。

社会人として初めて一緒に働くチームメンバーは、28歳のチームリーダーに、40代のベテランエンジニア、そして資格取得直後の佐藤さん。中でも、40代のベテランエンジニアは社内でも神格化されるほどの技術の持ち主で、クライアントの管理職からも絶対的な信頼を得ていたという。

「正直、なぜこれほど優秀なチームに新人の自分なんかが配属されたのか疑問でしたが、配属から数日後にベテランエンジニアからの指名が理由だったことを知りました。社会人として出遅れていた自分にとって、誰かに期待されることがうれしく、何もできないけど食らいついて仕事をしようと、がむしゃらに仕事に取り組んだ」(佐藤さん)

優秀なベテランエンジニアが配属されるほどの仕事ということは、特殊かつ非常に難易度の高い仕事ということを意味していた。朝9時から夜の10時まで現場につめる仕事は、同時に入社したメンバーの中でも、最も過酷な環境だったという。

エンジニアから営業に転身

「半年かけて仕事をやりきることができた。当時は不平不満などいろいろと思うこともあったが、今となってはあのときの過酷な経験があって、急激に成長できたのだと思っている」(佐藤さん)

そして、1年半ほど経過し、ITエンジニアとして一人前と言えるようになってきた頃、転職の誘いを受ける。

その会社は、未経験者をITエンジニアとして採用し、研修させたうえで、クライアント企業に派遣するSES(システム・エンジニアリング・サービス)事業を行っているベンチャー。会社から提示されたポジションは、「ITエンジニア」ではなく「営業職」だった。

「このとき、キャリアカウンセラーに「営業職も向いている」と言われていたことがフラッシュバックし、SESの営業であれば自分のエンジニアとしての経験を生かしつつ、さらに営業力を身に付けることができると考え、新たなチャレンジを決意した」(佐藤さん)

転職前の会社は1000人を超える大企業グループで、もっと小さい会社に移り、より成長スピードを上げ、出遅れた分を取り戻したいと思ったことも転職の理由の1つだったと語る。

現在、転職して4年が経ち、赤髪だった元バンドマンは、今では営業マネージャーとして数人の部下を束ねる。

「バンド活動での協調性も、フリーター時代に培ったコミュニケーション能力も、ITエンジニア時代に身に付けたIT関連知識も、すべてが役に立っているように思う」(佐藤さん)

就活ひきこもりを脱出するには

今回のケースは、バンド活動により留年、卒業後にフリーター期間が長引いた就活ひきこもりの事例。このように音楽活動を優先したことで、就職するタイミングが遅れてしまい、経歴に空白期間が生じ、就職活動の選択の幅が狭まってしまう例は珍しくない。


そのような「就活に対して漠然と不安を感じる」「新卒ではない場合、どのように就職活動を行えばいいのかわからない」という場合は、まずは誰かに相談することから始めていきたい。いちばんよくないのは、悩みを1人で抱え込んでしまい、行動できずに時間を浪費してしまうこと。時間が経てば経つほど、年齢を重ねてしまい、不安が増大し、さらに状況が悪くなってしまうからだ。

本記事で紹介した事例以外にも就活ひきこもりから脱出した人の事例や、就活ひきこもりを脱出するための知識や考え方をまとめた『社会に出たいとウズウズしている君に贈る「就活ひきこもり」から脱出する本』を共著で上梓した。就活ひきこもりの状況を変えたいと願っている人には、ぜひ参考にしてもらいたい。

状況を変えたければ行動するしかない。時にはうまくいかないこともあるが、行動さえし続けていれば、必ず最後にはうまくいく。