2014年、フロリダでみずから身体に火をともした11歳が病院へ搬入された。男児の身体には複数回の火傷の痕があったという。いったい何故、そんな真似をしたのか? 「注目」が欲しかったからだ。

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 当時アメリカの子どもたちの間では自分の身体に火をつける動画をSNSにアップする「ファイア・チャレンジ」が流行しており、搬送された児童もそれに挑戦しようとしたに過ぎない。ただ「注目」が欲しいからといってなんと馬鹿な真似を……と思うだろうか。では、その「注目」に値段がつくとしたら?

 

 今、YouTubeやInstagramで人気者となり、親以上の収入を稼ぐティーンエイジャーが増えている。若者の約9割が「有償インフルエンサーになりたい」と答える状況となったアメリカでは、中学生のうちに数百万円、未成年のうちに数千万円稼ぐYouTuberの存在も珍しくはない。

「SNSでなら億万長者になれる」と豪語した1991年生まれのインフルエンサー、アマンダ・チェルニーは、ビルの屋上から道路へとドル札を降らす「金の雨」動画を作成。彼女のスポンサーつきInstagram投稿報酬は、22歳の時点で1投稿あたり50万円にものぼっていた。

 若くして大金持ちになれるとは夢のような世界だが、そこから年齢を重ねた人気インフルエンサーの人生はどうなっているのだろうか? 2018年Netflixよりリリースされた『アメリカン・ミーム』は、インフルエンサーの繁栄と凋落を追うスキャンダラスなドキュメンタリーだ。

10万「いいね!」を稼げたらくだらないタトゥーを入れる

 出演者が強調する戦略は「極端」と「誇張」。元手が無い一般庶民の場合、ただ私生活を映すだけでは「いいね!」を稼げないし、企業からの高報酬スポンサー投稿オファーなど夢のまた夢だ。膨大なユーザーのなかで目立って出世するためには、身体をはって危険なチャレンジに出たり、地味な日常を大げさに演出することが手っ取り早い。

 たとえば、熊の着ぐるみを着てパトカーを襲撃するチャレンジ動画や、10万「いいね!」を稼げたらくだらないジョーク画像のタトゥーを入れる企画。建物や自動車にぶつかる撮影をつづけて骨折するユーザーも珍しくない。そうして出世したインフルエンサーのなかには「一番はやく指定場所に来た人に1万ドル贈呈キャンペーン」など、稼いだお金を派手に有効活用していく者も多い。


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30代に突入し、心身ともに疲れ切って不眠症に…

 やりたい放題に見えるインフルエンサーたちだが、『アメリカン・ミーム』では彼らが30代に突入し、もがき苦しむ姿が映される。「Instagramでもっとも性差別的」と呼ばれたパーティー盛り上げ役・キリルのエピソードは出色だ。

 差別的ジョークと下ネタで人気を博す彼は、SNS上のブランドを活かすことで、全米各地のナイトクラブをわかす「パーティー盛り上げ役」として大金を稼ぐ生活を送っている。差別的言動を咎められようと「弱肉強食」理論で切り返し、クラブの女性客を顔から便器に突っ込んでみせる傍若無人なキャラクターには熱心なファンもついている。

 しかし、ドキュメンタリーが映すキリルのプライベートは悲惨なのである。夜通しパーティーを繰り返して全国を巡回する彼は、心身ともに疲れ切り、不眠症に陥っている。異性との真面目な交際や結婚を望むものの、生活スタイルのため難しく、仕事への自信もない。

 ドキュメンタリー後半、彼はポツポツと悲痛な告白をつづけるようになる。「33歳の大人なのにこんなことをやってる」「みんなイカれた人生を羨ましがるけど、気づいてない 僕も何かを作っているみんなが羨ましい」。

 インフルエンサーとしてのキャリアはあと1年ももたないと嘆いており、お得意の性差別パフォーマンスにしても重い罪悪感が伴っているようだ。「女性蔑視するゴミだと思われたくないって何度も思ってきた でも、これしかできない 家賃を払わなきゃいけないから……」。

みずからの消費期限を自覚できるか否か

 ミリオネアも夢じゃないインフルエンサーだが、築いた地位を一瞬で失いかねない立場でもある。2015年にオバマ元大統領やジャスティン・ビーバーと並んでTIME誌『インターネットで最も影響力を持つ30人』に選ばれたブリタニーというインフルエンサーは、その2年後、活躍していたSNSがサービスを終了したことで一気に名声を失ってしまう。

 夢だった女優のオーディションに挑戦するが、犬の糞までも利用するお笑いキャラで有名になってしまったため、真剣に取り合ってもらえない。そうしてインフルエンサー業を続けていく彼女もまた、キリルと同じく「30代なのにこんなことをやってる」と暗い顔でつぶやくのである。

 みずからの消費期限を自覚してサイド・ビジネスを成功させるインフルエンサーもいる。出演者の1人である通称ファット・ジューは、インフルエンサーとしての価値があるうちに「インスタ映えアルコール」販売を成功させ、製品CMにマドンナを起用するまでの事業家となった。


 彼の場合、フェイクニュース連発や盗作スキャンダルの過去ですら芸の肥やしにする度胸の持ち主なので、前出した鬱ぎみインフルエンサーたちとは「器」が違っているかもしれない。

 批評家たちには、出演者たちのSNS投稿に倣うかのように「一部分を誇張する軽薄さ」を批判されていたりもする『アメリカン・ミーム』だが、庶民が楽に稼げる仕事など無いと身に染みる作品ではあるだろう。

幼い子どもや赤ん坊を使ったコンテンツ製作で荒稼ぎも

 インフルエンサーたちが打ち捨てられて地獄を見ようと、インフルエンサー・マーケティング市場は急速に拡大している。マーケティング企業IZEAによると、2014年には150ドルにも満たなかったInstagramスポンサー投稿の平均コストは5年間で12倍の1,643ドルに増加した。

『アメリカン・ミーム』発表後も、自然災害被害者への追悼を装ったインフルエンサーたちの宣伝投稿が乱立するなど、さまざまな問題が発生したが、成長に停滞はない。2020年には100億ドル産業に達する見込みだ。大金を稼ぐ10代も珍しくなくなった昨今、注目の新ブームは「幼児インフルエンサー」。アメリカを筆頭に、多くの親が幼い子どもや赤ん坊を使ったコンテンツ製作で荒稼ぎしているようだ。

死を恐れるパリス・ヒルトンはヴァーチャルの世界へ

『アメリカン・ミーム』には、作品プロデューサーも務める「インフルエンサーの始祖」パリス・ヒルトンも出演している。

 数々のビジネスを成功させて注目を浴びるのにも飽きた一方、子育てに勤しむ同年代とも距離があいたアラフォーの彼女は、もっぱら「死」を恐れるようになったそうで、自身の存在をヴァーチャル領域へ移行する実験を始める。彼女の死後も永遠につづく「インフルエンサーと支持者」限定のデジタル・パーティー空間を構想しているようだ。

 成功者が「永遠の生命」を求めるSF映画のような展開だが、子どもたちが電子世界の注目を求めて自らに火をつける今の世界自体、すでに十分「ありえるはずのないフィクション」と呼ばれてきた状態かもしれない。

(辰巳JUNK)