ドラレコ特約をご存じでしょうか?(写真:FINEDESIGN_R/PIXTA)

2017年東名高速道路で起きたあおり運転事件を受け、東京高裁は11月6日、石橋和歩被告を懲役18年とした一審判決を破棄し、審理を差し戻しました。あおり運転が社会問題化する中、運転中の様子などを録画するドライブレコーダーに注目が集まっています。(2019年1月8日に配信した記事を再構成しお届けします)

自動車保険にドラレコ特約を付ける

ドラレコは「自分で買う」ほかに、「自動車保険にドラレコ特約を付ける」ことができるのをご存じでしょうか。

若い人であればメカにも強く、自動車用品店や家電量販店に出かけて選んで、自分で買うのも簡単ですね。しかし、特に高齢の親や祖父母といった場合、店が遠かったり、どの機種がいいか選ぶのが面倒だったりで、ドラレコ入手へのハードルが高い現状があります。

そんなときは、自動車保険の更新時にドラレコ特約(ドライブレコーダーによる事故発生時の通知などに関する特約)を付ける方法も視野に入れてみてはいかがでしょうか。

ドラレコ特約を自動車保険の更新時に付けると、保険会社から高機能ドラレコがすぐに送られてきます。

通信機能などが付いているのはもちろんのこと、保険会社ならではの特別な機能が付いていて、高齢ドライバーの運転に安心を添えてくれます。

特に、会うたびに高齢の親や祖父母と免許返上の話でギクシャクしがちな状況であれば、ドラレコ特約を付けることが不安解消の一助になるかもしれません。以下では、ドラレコ特約ならではの特徴と魅力、注意点についてお伝えします。

自分で購入するドラレコと大きく異なるのは、ドラレコ特約で入手したドラレコには事故発生時のサポート機能が付いています。

たとえば、東京海上日動火災保険の「ドライブエージェント パーソナル」では、エアバッグが作動する程の衝撃を端末が検知すると、リアルタイムに自動で事故受付センターに連絡する仕組みになっています。事故の前後10秒ほどの映像も自動で記録・送信され、保険会社の事故受付は完了します。


音声通話機能つきのドラレコなので、センターの担当者が「事故を確認しました。おケガはございませんか?」といった声掛けにはじまり、万が一運転者が手などを負傷していた場合でも救急車の搬送の手配まで行ってもらえるので便利です。ドラレコ搭載のGPS機能で事故現場もわかることも、対応をスムーズにしています。

通常であれば、保険会社への事故や保険請求の連絡にあたっては証券番号なども答えられるようにしておく必要があり(会社などによって異なる)、事故状況の証明もしなければならないことと比べると、自動で保険会社の事故受付が完了できるドラレコ特約はとても便利です。

東京海上日動火災保険では、あおり運転にあった時にドラレコのボタンを押すことでオペレーターと通話可能になり、対処法などを聞ける機能を2019年度中に追加する予定です。

なお、音声通話が可能なドラレコを導入しているかどうかは、保険会社によって異なるので、確認しておくと安心です。たとえば、損害保険ジャパン日本興亜の「ドライビング! 」では、一定の衝撃を検知した場合やドラレコの緊急ボタンを押した場合に事故通知を行うことができるものの、車が大破したときのことを考え、端末での通話はできません。

同社では「あおり運転の被害にあった際に、誰かにサポートしてほしい」という声を受け、今年8月より、あおり運転などを受けたときに緊急ボタンを押すことで、撮影した動画を登録している人へ共有され、助けを求めることができるようになりました。

さらに、事故時にALSOK(綜合警備保障)の警備員が事故現場に駆けつけて相手方とのやりとりを代行してくれるサービスがついており、特に高齢者や女性の評価が高いです。

「運転寿命」を延ばす理由

親の運転を危なっかしく感じて親に免許証返上を提案しても、なかなか応じてもらえず、親子関係がピリピリしているご家庭は日本全国で多いですね。生活を送る上で車を手放すのが難しいなら、親の運転能力を維持・向上させて“運転寿命”を延ばす方向を検討してみる視点も大切です。

実は、損害保険会社がドラレコ特約を開発した動機のひとつに、2017年3月の道路交通法改正があります。75歳以上の高齢者の免許更新時には認知機能検査が行われることになったのを受けて、各社ともに運転寿命を延ばす工夫を盛り込んでいます。「なぜ保険会社が? 」と思う人もいますが、自動車保険契約者に、より長く車を利用し安全に運転してもらうということは、保険会社の本業にとって重要なのです。

各社では、多機能ドラレコから得られた運転データ(急ブレーキ・急ハンドル・急アクセルの発生頻度など)に基づき、運転診断レポートを毎月(保険会社によっては毎回、毎年も)提供しています。また運転データは点数評価され、全国平均、同年代平均などの評価と比較した客観的な運転技術の把握や、急ブレーキ・急ハンドル・急アクセルの発生頻度、強さ、時間帯といった傾向を見える化できます。

運転診断レポートによって、同世代のドライバーと比較したり、結果を家族と共有することが可能なので、運転能力の衰えに気づくきっかけになったり認知症の予兆把握に役立ちます。

このほかに、運転寿命を延ばすメニューを用意しているところも。たとえば、損保ジャパン日本興亜の「視機能トレーニング eyeトレ」(北里大学准教授の川守田拓志氏監修)は、運転の判断は目からの情報が8割であることを踏まえて開発したシステムで、パソコンを使いクイズ形式で楽しみながら視覚機能を鍛えることができます。

高齢ドライバーの運転寿命を延ばす視点に立った時、大切にしたいのは、家族みんなで運転情報を共有することです。

「ドラレコ特約」の導入は大手4社

たとえば、あいおいニッセイ同和損害保険と三井住友海上火災保険の「見守るクルマ保険(ドラレコ型)」では、家族などを見守り者として登録しておくと、自身の運転状況を毎月の「運転診断レポート」や、万一の事故時には専用安否確認デスクでの対応結果を共有できる「見守りサービス」を利用できます。

同社では全国の高速道路にある108カ所のインターチェンジ・サービスエリアなどの付近で、逆走の可能性を検知した場合に知らせる「高速道路逆走注意アラート」や、あらかじめ近位に設定した指定区域の外に出た場合に知らせる「指定区域外走行アラート」機能がありますが、この情報も家族で共有できます。

また、あいおいニッセイ同和損害保険では、2020年1月から「タフ・見守るクルマ保険プラス」という商品の補償を開始します。これまでのドラレコ付き保険とサービスは同じですが、ドラレコから取得した走行データに基づいた安全運転度合いにより保険料が最大8%の割引されます。

筆者が確認したところ、2019年12月6日現在、ドラレコ特約を導入しているのは大手4社です。自動車保険のシェアは、現在、この大手4社で9割を占め、特に高齢ドライバーの契約が片寄る現状があります。というのは、割安なイメージのダイレクト型自動車保険は、40〜50代の安全運転ドライバー層の保険料は低廉なものの、事故が多い若年層や高齢層の保険料はそれほど安くないからです。

昔からの付き合いや知名度の高さなども重視する世代でもあり、大手4社で契約している可能性も高いため、親や祖父母の自動車保険の契約先の保険会社をまずは確認してみましょう。

各社のドラレコ特約の保険料(ドラレコのレンタル料込)は、月額650円〜850円程度。免許証返上が視野に入る年齢であれば特に、ドラレコ本体の金額のほか保険会社ならではのサービスにも着目して、費用対効果を吟味してみてはいかがでしょうか。