いよいよ年明けからは1999年以来、アメリカ政治史上3度目の弾劾裁判が始まりそうだ。だがかえってトランプ大統領の再選には追い風となるかもしれない(写真:代表撮影/Abaca/アフロ)

12月5日、ナンシー・ペロシ下院議長は下院司法委員会に対し、ドナルド・トランプ大統領に対する弾劾訴追状を作成するように正式に指示した。いよいよ決戦の時や来たれり。アメリカの歴史上3度目となる大統領弾劾が、これから始まろうとしている。

気色ばむペロシ下院議長、トランプ大統領は余裕綽々?

その日の記者会見で、ペロシさんはめずらしく気色ばんでみせた。会場を去りかけたところを、記者から「大統領が嫌いなんですか?」(Do you hate the President?)と声をかけられた瞬間だ。

きっ、となったペロシさん、立ち止まって質問した記者をにらんだ。そしてまくしたてた。

「カトリック信者として、”hate”などという言葉を使われることは心外です。私は誰も憎んだりはしません。愛の心に包まれて育てられましたし、いつだって大統領に対して祈っています。今でも大統領に対して祈っています。――そんな言葉で勘違いしないでほしい!」

もっともその直後、トランプ大統領はこんなツィートを発している。
「ナンシー・ペロシは癇に障ったようだな。彼女は新しい(保守派の)判事が大勢誕生するのが気に入らないんだろう。株価や雇用情勢が記録的になることもね。『大統領のために祈っている』というけど、俺は信じないね。自分の選挙区のホームレスの心配でもしたらどうなんだ。それからUSMCAのこともね」。

あいかわらずの憎まれ口である。ちなみにペロシさんはサンフランシスコ市が選挙区だが、地価高騰によるホームレスの増加が問題となっている。それからUSMCA(米墨加協定=新しいNAFTA協定)は下院での批准作業が停滞している。

もっともこの日のトランプさんは、いつもチェックしているラスムッセン社の世論調査で、久々に「支持率52%」という高い数字が出たので嬉々としてリツィートしている。「弾劾訴追、来るなら来てみろ」という感じである。

むしろ気になるのは、大統領に挑戦状を叩きつけた民主党側だ。弾劾制度とは、アメリカ政治においては非常に重い制度である。成立すれば、現役の大統領を罷免することができる。ただし弾劾が成立したことは過去に一度もない。今から21年前、ビル・クリントン大統領が「モニカ・ルインスキー事件」で弾劾訴追を受けた時は、「議会共和党はやり過ぎだ」と国民の顰蹙を買い、中間選挙ではかえって議席を減らしている。議会にとっては「伝家の宝刀」。とはいえ、抜けばタダでは済まない仕組みなのだ。

トランプ大統領は弾劾に値するのか?

その昔、王様を嫌って欧州から新大陸に渡った人々は、自分たちが再び「王様」を作ってしまうことを極度に恐れた。そこで「建国の父」と呼ばれる人たちは、立法・行政・司法という三権分立のシステムを考案し、相互にチェック機能を持たせた。

すなわち司法制度の外側に「弾劾」という制度を作り、議会が行政府を監視できるようにした。大統領に罪があるとみなされた場合は下院が弾劾訴追を行い、上院が弾劾裁判を行う。その際には、最高裁長官が裁判長となる。選ばれた下院議員が検察役となり、被告となる大統領には弁護人が付く。100人の上院議員が陪審員となり、最後は一人ずつ「有罪」「無罪」を宣言する。3分の2以上の同意により、大統領は罷免されることになる。

さて、ドナルド・トランプ氏は弾劾に値するのだろうか。

7月に行われた電話会談で、トランプ大統領はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対し、ジョー・バイデン元副大統領の次男、ハンター・バイデン氏に関する汚職問題の捜査を直接、要求した。さもなくば軍事援助を差し止めるという脅しも使った。言うまでもなく、バイデン氏は来年の大統領選におけるフロントランナーである。外交を利用して私的な政治目的を追求しているわけで、これはどう見たって大統領職権の乱用である。

この問題に対し、11月に下院が公聴会を何度も実施したところ、対ウクライナ外交に関与した外交官、安全保障や情報の専門家などから多くの証言が得られた。彼らは国益をわきまえないボスに辟易していて、証言の信憑性は高そうである。

しかもこの間、トランプ大統領は証人になったヨヴァノヴィッチ前ウクライナ大使を脅すようなツィートを連発している。これも立派な「証人脅迫罪」を構成し得る。これではまるで、「弾劾してください」と言っているようなものである。

ところがこのウクライナ疑惑において、具体的にどんな悪事が行われたかと考えてみると、それほどの実害はないのである。ウクライナ政府は本当にバイデン親子の捜査をしたわけではないし、軍事援助が差し止めになったわけでもない。トランプさんはあいかわらず無茶な私的外交を展開しているだけである。コアなトランプ支持者は、「世の中にはもっと悪いことをしている奴がいるじゃないか!」と考えることだろう。

こうしてみると、「大統領弾劾」はトランプさんにむしろ追い風を送っているようなものである。というより、最初からそれが狙いの「プロレス」なのではないか。民主党はまんまと罠に嵌められているのではないかと思えて仕方がない。

年明けからの上院弾劾裁判の行方は?

それでは、これから先のアメリカ政局はどのように展開するのか。現在、12月20日が暫定予算の期限となっていて、これが切れるとアメリカは昨年同様の政府閉鎖となってしまう。それはさすがに拙いので、おそらくこの日に議会は暫定予算の再延長を決める。その上で、同日に下院が弾劾訴追を審議する。民主党が過半数の議席を有しているので、成立はほぼ間違いない。そして翌日からはクリスマス休会ということになるだろう。

年明け、1月初旬には場面を上院に移し、弾劾裁判が始まるだろう。アンドリュー・ジョンソン第17代大統領、ビル・クリントン第42代大統領に続き、アメリカの歴史において3度目の事態である(リチャード・ニクソン第37代大統領は弾劾訴追の直前に辞任)。

この状況は、約21年前のクリントン弾劾の時とほぼ同じ政治日程となっている。あのときは1998年12月19日に下院が弾劾訴追し、1999年1月7日に上院で弾劾裁判が始まっている。最初に下院議員による冒頭陳述と証拠提出、次に大統領代理人による反対弁論、さらに上院議員による質問などがあって、ようやく最終弁論にたどりつく。

結審は5週間後の2月12日であった。2つの罪状のうち、ゝ蕎攤瓩砲弔い討45対55、∋碧)験欧任50対50となり、いずれも3分の2には届かずクリントン大統領は無罪となっている。

おそらくトランプ大統領も同じコースをたどる。上院議員100人のうち53人は共和党であり、20人以上が造反しないと弾劾は成立しない。しかも共和党員のトランプ支持率は9割を超えている。民主党は勝てない喧嘩を始めてしまったのではないだろうか。

さらに困ったことに、年明け2月3日にはアイオワ州党員集会が行われ、2020年大統領選挙の予備選挙が始まってしまう。この間、上院議員は弾劾裁判でワシントンにくぎ付けとなる。エリザベス・ウォーレン上院議員やバーニー・サンダース上院議員は、序盤の選挙戦に参加できなくなってしまうのだ。

怒らされてしまった民主党は勝てない?

そうでなくても大統領弾劾という大ネタがあると、どうしても民主党内の予備選挙に関する報道は少なくなってしまう。12月19日には6回目の大統領候補討論会が予定されているけれども、翌日が弾劾訴追の投票日ではまったく霞んでしまうのではないか。

中国の古典に「憤兵は敗る」(漢書)とある。ペロシさんはもともと、大統領弾劾には否定的であった。党内からの突き上げを何度も抑えてきた。それがとうとう我慢しきれず、弾劾訴追へと舵を切った。つまり怒らされてしまった。トランプさんにとっては、狙い通りの展開なのではないだろうか。

政界は寸前暗黒。ひとつだけ間違いないことは、来年も「トランプ劇場」は高視聴率をマークする、ということであろう。最後に今後のアメリカの
政治日程を押さえておこう。

〇今後のアメリカ政治日程

第4次対中追加制裁関税の実施期限(12/15)
第6回民主党米大統領候補討論会(ロサンゼルス、12/19)
米暫定予算の失効予定日→下院がトランプ大統領を弾劾訴追?(12/20)
<2020年>
日米経済協定が発効(1/1)
米上院でトランプ大統領の弾劾裁判始まる(1月初旬)
トランプ大統領の一般教書演説(1月下旬)
アイオワ州党員集会(2/3)→米大統領選挙予備選プロセス始まる
弾劾裁判が結審?(2月初旬)
ニューハンプシャー州予備選挙(2/11)
(本編はここで終了です。次ページでは競馬好きの筆者が週末のレースを予想します。あらかじめご了承下さい)。

ここから先は、お馴染みの競馬コーナーだ。

今週末は2歳牝馬のG1レース、阪神ジュベナイルフィリーズ(12月8日阪神競馬場11R、距離1600メートル)が行われる。以前にもご紹介したことがあるのだが、このレースには筆者の盟友、上海馬券王先生が考案した必勝法則がある。

秋以降の実績を重視
1600メートル以上での実績を重視
末脚を重視
坂のあるコースでの実績を重視

つまり2歳牝馬は女子中学生のような存在なので、今年の夏ごろの実績は当てにならない。そして1400メートルや1200メートルのレース実績も当てにならない。坂がない京都や新潟や小倉で勝ったからと言って、阪神競馬場で通用すると考えてもいけない。

阪神JFの「必勝法則」で買えるのはリアアメリア

これらの法則を当てはめてみると、2戦2勝のキャリアを持つ馬は3頭もいるが、買えるのはリアアメリア(8枠15番)ということになる。

川田将雅騎手は、12月1日、ようやく今年初のG1をゲットしたところ。外国人騎手がごそっと香港のG1レースに詰めている今週末は、2週連続のチャンスということになる。心配はと言えば、リアアメリアがフルゲートのレースを体験していないことだが、幸いにも外枠を得たので馬群に包まれる心配は少なそうだ。

対抗にはクラヴァシュドール(5枠10番)、穴馬にはマルターズディオサ(5枠9番)を挙げておこう。特に後者はリアアメリアからのワイドでも結構、おいしいですぞ。