孫正義、東大で語る。「学生達にAIを学ぶ機会、会社を興すチャンスを」
ソフトバンクと東京大学は6日、共同でAIをテーマとした研究機関「Beyond AI 研究所」を設立すると発表しました。その会見の後半には、ソフトバンクグループ代表の孫正義氏と東大の五神真総長が登壇し、取り組みに向けた想いを語りました。

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■AIで日本は遅れを取っている

孫正義氏といえば以前、「日本はいつの間にかAI後進国になってしまった」と語ったことが話題となっていますが、今回の登壇でも、以下のように"AI後進国・日本"について語りました。

孫氏:
今やAIというテーマはアメリカや中国という大国が国家戦略として推し進めている。

アメリカはGoogleなど今のGAFAと称されるような優れたAI技術を持つ企業がどんどん出ているが、日本には世界にインパクトを与える会社がまだまだ少ないんじゃないかなと思っている。

日本の大企業にはとにかく「モノを作らなきゃ立派な企業じゃない」という思い込みが日本には根強くあり、情報革命で行動を起こすのが遅れてしまった。

かつて80年代は日本とアメリカが経済摩擦を起こし、経済戦争と言われるくらいの非常に緊迫した事態をおこした。それが今の日本は経済戦争のかやの外にある。特にAIで日本ははだいぶ遅れを取ってしまった。


▲ソフトバンクグループ 孫正義代表(左)と、東京大学 五神真総長

同じ危機感は五神総長も共有しているようで、五神氏は東大総長就任以来、AI講座を用意するなど、これまでも研究者がAIに触れられるような環境を整えてきたといいます。

五神氏:
世界を数学や物理などの基礎研究者はまだまだ優秀だが、そういう人達がAIを直にさわれる環境がなかった。

AIだけでは社会課題は解決できない。社会問題を解決するためには『AI×○○』の掛け算するデータに対する深い理解がなければいけない。この○○については東大にはハイレベルなものがある。そのため、Beyond AI 研究所のようなコラボレーションは意義があるものだ。

■大学経営と投資という側面



こうした2人の想いもあるなかで、今回のBeyond AI 研究所の設立には、大学を巡る経済的な事情も多分に関与しています。

これまで国立大学は国からの交付金を資金源として運営されていましたが、ここ数年でその方針は一転。大学としての自主会計を求められるようになっています。つまり、大学にはどこで研究のための資金を稼ぐかという喫緊した課題が突きつけられています。

そんななか、経済産業省肝いりでスタートしたのが「CIP制度」です。この制度では大学発ベンチャーに大学が投資し、最大30%まで株式を持つことが認められます。そして、事業化した収益を資金源とすることで、より多くの研究ができるようになるというわけです。



この仕組みは投資会社としてのソフトバンクグループとも相性が良いものです。孫正義氏は以下のようにコメントしました。

孫氏:
なにごとも新しいことをするには軍資金がいる。想いだけではなかなか上手くいかない。

これまで日本では、AIについての基礎知識を学習する場がなかった。その状況が変わりつつある。日本で教えていない、教える教授もいないという状況が代わり、東大からAIを学ぶ1000名もの受講者が出てきた。これは画期的なことだと思う。

そこに我々が資金を提供し、事業化の手助けもし、さらには大きく成長させたい。(ソフトバンクグループでは)世界的にベンチャー支援を行っているが、そういうところとの連携もどんどんやっていきたい。

これからはAIという時代になったときに、日本の人材、技術、企業は少ない。学生達にAIを学ぶ機会、会社を興すというチャンスを与えていきたい。


Beyond AI 研究所はAIをテーマとして基礎研究から応用研究、事業化まで取り組む研究機関とされていますが、発表会では特に「AI×医療」を当初に研究に取り組むテーマとして紹介されました。孫氏がこの発表会に招待した2社も医療AIに特化した技術を有しています。

医療でのAI活用では画像診断などの例もありますが、孫氏が紹介したGuardant HealthとKariusは、どちらもゲノム解析(DNA診断)で病気を発見する技術を有しています。DNAはいわばプログラミングコードとして捉えられるため、解析によって特定の悪性細胞や感染菌が検出できるという仕組みです。

Guardant Healthは血液一滴からガン細胞を発見できるという技術を持つスタートアップで、ソフトバンク・ビジョン・ファンドからも出資を受けています。Kariusは血液に含まれる感染菌の種類を特定する技術を持っている企業で、ソフトバンクとは出資などの関係はないとしています。